227 ほら、天井裏ルートがあるじゃない
「玄武かぁー。これは面白くなってきたなぁ。茨木」
「酒吞。流石に龗神には刃を向けられないでしょう」
酒吞はいつもどおりだけれど、茨木は知っているようで、戦うことを避けたいようだ。
「茨木?どういう意味?戦いたくないってことだよね」
「アンジュ様には問題ないでしょうが、神殺しは流石に気が引けますね」
神殺し!駄目だ。それは絶対に駄目だ!
「あ?何いってんだ?アマテラスがいるなら大丈夫だろう?伊邪那岐が迦具土を殺したって話があるぐらいだ。問題ない」
「問題あるから!神殺しは駄目!」
もう本当にこれ詰んでいるよね。酒吞と茨木と同様に話が通じるのだろうか。話し合いで解決できるのであればそれが一番いいのだけど、どうも話に聞く吹雪の様相とこの降り続く雨から、話が通じるかも怪しい。この分だと相当ご機嫌斜めのように感じる。
「あー。アンジュ。その……精霊様がおっしゃった名前は神の名なのか?」
ファルが怖気づくように聞いてきた。私はそれに対して首を横に降る。ホッとした感じの表情になったファルに私は答えた。
「神獣と神です」
「アンジュ!さっきの首を横に振る動作は必要だったのか?もっと悪いじゃないか!」
私に文句を言ってきたファルに対して肩をすくめる。神だけなのかという問いに対して違うと否定しただけなのに、文句を言われる筋合いはないと思う。
「こんなの無理だよね?」
「あわわわわ……」
「神殺し……恐ろしい言葉ですわ」
「そんなモノが居たところに行かされていたんっすか?俺たち」
4人は怖気づいてしまっている。わからなくもない。敵が神だと知れば誰しも尻込みをするだろう。
この窮地を脱するのは私の知識では限界がある。聖女の彼女はこの戦いに勝つすべを知っているはずだ。
ならば、本部に謹慎されている彼女に聞くべきだろう。
「ルディ。聖女の彼女のところに行きたい。これには彼女の知が必要だと思う」
「あの女に頼る必要などないだろう?」
ルディは聖女の彼女に頼ることが嫌なようだけど、常闇に帰すにしても神殺しをするにしても、私の知識に龗神の情報はない。
ここは別のルートで頼んだ方がいいかもしれない。
「取り敢えず、団長と侍従にこの事を報告してきてよ。私は大人しくいるからね」
するとルディも職務として報告はしなければならないと席を立って、私に大人しくしているように言いつけてファルと一緒に出ていった。
よし!ルディは追い出した。
「朧。聖女の彼女がいるところまで私を案内してくれる?」
すると、気配と姿を消していた朧が背後から現れた。
「ひえぇぇぇー」
「え?気配なんて感じなかったのに?」
「俺、この冬は引きこもるっす」
「流石王家の影ということですわね」
一人だけおかしなことを言っているけれど、私は無視をして朧を仰ぎ見る。
「出来かねます」
否定されてしまった。しかし、ここは折れるわけにはいかない。
「ちょっとだけでもいいの。彼女は恐らく知っているはず。私が魔力を使うとルディに感知されそうだから、朧の力が必要なの」
「シュレイン様に見つかる可能性の方が高いですから無理です」
確かにルディは報告の為に本部に行っているから、本部に謹慎されている彼女に会いに行くと見つかる可能性の方が高い。だから朧に頼んでいるのだ。
「ほら、天井裏ルートがあるじゃない」
私は天井裏を指して言った。初めて朧と会ったのも天井裏だったのだ。そこに黒狼たちが使うルートがあるはず。
「そのようなところにご主人さまを連れて行くわけには……」
「おい黒狐。神殺しはやべーぞ。神の祟りは避けようがねぇ。アマテラスは無事かもしれねぇが他の奴らはわからん」
酒吞。私だけが無事ってそんなことを自信満々に言わないで欲しい。私はだたの人に過ぎないのだから。
「龗神は龍神ですからね。荒神に成り下がる可能性もあります」
龍神?
「青嵐と月影が居れば対抗できない?」
すると青蛇と黒蛇が口をパカリと開けてフルフルと震えだした。なにそれ?
「まだ、ちいせぇからなぁ。それに人に化けることもできねぇ龍が、神位にある龍に敵うとは思えねぇなぁ」
「使えない」
すると二匹の蛇はパタリと床に落ちてさめざめと泣き出した。いや、本当のことだし、使えない蛇に期待しても無駄ということでしょう?
朧が駄目だとすれば検索が得意そうなのは……
「ミレー。人の微弱な電気で特定の人物の居場所ってわかる?」
雷を扱うミレーなら可能性がある。私はなるべく人の目に映らず、最短ルートで聖女の彼女と接触をしなければならないのだから。




