223 囮に立候補
王族の方々は平民の聖女を蔑ろにしすぎじゃないのだろうか。上の者の考え方なのかもしれないけれど、私はそれは気に食わない。
だから私は右手を上げる。
「何ですか?アンジュ」
神父様がこの場で何を言うことがあるのかという視線を向けてきた。
「囮追加に立候補します」
「アンジュ!何を言っているんだ?」
ルディは抱えている私を反転させて、肩を揺すってきた。
「囮の追加ですか。それが何の意味を成すのですか」
私が囮になったところで、それに意味があるのかと神父様は聞いてきた。意味があるのかないのかと問われれば、無いと思う。
だけど、豚貴族が聖女をさらうかと言えば、どうだろうか。注目を浴びる聖女を攫うことは難しいと思う。だから、何度も買い取ろうとした私がいれば、確実に豚貴族は私を攫うだろう。
私には転移の腕輪があるため、ルディと一定の距離が開けば転移される。居るはずの私がいないことを知った豚貴族がブヒブヒ言うだけだ。
だから、何もならない。豚貴族が憤るだけ、誰も何も変わらない。
「何も意味はないですよ。そもそも聖女は注目される人物。その聖女を攫う機会があるのですか?ワザと隙を作るとなれば、尚の事おかしいですよね」
「そうでもないよ。プルエルト公爵の聖女に対する想いは逸脱していると思うよ」
「キモっ」
なに?聖女に対する思いって!気持ち悪過ぎる。王様が笑顔で言うから怖さも追加されてしまっている。
「よく幼いときに言われたのが、私達の母親の髪の色が赤銅の色で無ければだとか、私が女であればとか言われたからね」
ぎゃー!これ絶対に駄目なやつじゃない!ブター!子供の王様になんていうことを言っているわけ?
「プルエルト公爵は200年前の聖女に狂酔しているから、色合い的に近い聖女の子は月の聖女として在ることを望むだろうね」
聖女として在ることを望む?月の?どういうことだろう?
聖女に狂酔ってもうキモすぎて豚貴族に対して、忌避感しかない。
「アンジュ。だから囮になるとか言っては駄目だ」
先程からルディが私を絞め殺しにかかっているので、王様の言葉に私は聞きたいことを聞けないでいる。
ルディをバシバシ叩いて抵抗してみるけど、解放されない。
「兄上。一つ思ったのですが」
侍従が王様に向かって口を開く。
「将校アンジュを囮にする件は理に適っているかもしれませんね」
「フリーデンハイド!」
ルディ、うるさい。しかし、侍従は私を囮にすることに賛成らしい。
「シュレイン兄上。聖女シェーンは平民であるため聖騎士団預かりとなっています。それも月の聖女でありますが、未だに誰も後ろ盾が付いていないとなると、高位貴族から月の聖女としての能力が乏しいということと同意義に捉えられていると思います。恐らくこの度のパーティーで聖女としての力量を見定める意味もあると思われます」
私にはよくわからない月の聖女としてのお役目が果たせるかを、見定めようとしていると侍従は言っている。しかし、パーティー会場で見定められるってことはどういうこと?
私はルディの腕をバシバシ叩いて解放されることを希望していると、少しだけ腕が緩んだので、私は侍従の方に向いて聞いてみる。
「月は何を求められているの?」
太陽の聖女がいなければ、力が使えない月は太陽が居ない200年間の間は人々に何を求められていたのだろう。
するとこの場にいる全ての視線が私に突き刺さってきた。
「アンジュは何も気にしなくていい。それに囮にもならなくてもいい」
そう言ってルディは再び私を絞め殺してきた。こんなに締められるほど聞いてはいけなかったことなのだろうか。
「く……苦しい」
「アンジュ。アンジュが月の役目を気にすることはありませんよ。アンジュは今回も役目を果たしているのですから」
神父様が気にする必要はないと言ってきたけど、言われてしまうとすごく気になってしまう。
「うーん。フリーデンハイドの言い分も一理あるね。お前はどう思う?」
白銀の王様は後ろに控えているそっくりな偽物の王様の意見を聞いている。
「陛下はこの期にプルエルト公爵を始末されたいと思っているのでしょうか?」
「うん。そうだね。将校アンジュのお陰で、アンドレイヤー公爵家がこちらについたし、ファルークスがいるかぎり、コルドアール公爵家も裏切らない。それに第1部隊のロベル部隊長がプルエルト公爵の血筋の者と裏付けがとれたから、サクッとヤッちゃおう」
王様!そういう事を軽く言わないでよ!“サクッ”てそんなに簡単なことではないよね!




