221 報告
「すごく面白いことがあったんだってね」
白銀の王様からの第一声が、これだった。
ここは聖騎士団の本部の以前と同じ部屋であり、そこにはにこやかな笑顔でこちらをみている白銀の王様とその後ろに控えている偽物の王様。澄ました顔の侍従とその後ろに控える厳つい団長。胡散臭い笑顔の神父様が既に揃っていた。王族の皆様は暇なのだろうか。
それよりも神父様から報告受けたのであれば、ルディからの報告は必要ないと思うのは私だけなのだろうか。いや、体裁として第13部隊長からの報告が必要ということかもしれない。
「面白いことは何もなかったですよ。陛下」
ルディはそう言って席についたけれど、副部隊長である私を膝の上に抱えるのは止めて欲しい。ここはファルと同じ様に後ろに立つべきだと思う……これは認められないのだろうか。
「では報告をしてくれたまえ、第13部隊長」
立場的には侍従よりも上のはずの団長が立ったまま発言した。以前も思ったけれど、位置が逆ではないのかと思うのは私だけなのだろうか。
「あのクソ女の管理をきちんとしてもらいたいですね」
ルディは報告ではなく、聖女の彼女の監視をきちんとしろと発言した。うん。今回の第9部隊のこととは全く関係ないことだね。
「それはリュミエール神父にも指摘されてしまいました」
侍従はため息を吐きながら答える。彼も彼で、聖女の彼女の扱いに困っているのかもしれない。
「聖女ということもあり、誰もが強く出られず、彼女の命令を聞いてしまうのです」
これは聖騎士としての誓いが邪魔をしているのだろう。聖騎士は聖女の剣であり盾であると。
聖女が頂点であり、その下に聖騎士が存在するため、聖女の言葉はそれは命令と同意義になっているのが現状となっていると思われる。
そして、彼女の言葉は部屋の外に出たいだとか、外に出たいとか些細なことだ。それぐらいで大事になるとは思えない。
「今までの聖女は貴族であったため、人の行動を乱すことはされず、ご自分の役目を果たしていたというのに、嘆かわしいものですね」
神父様もため息を吐きながら、嘆かわしいと言っているけど、その言葉に中に私も含まれている?
「まぁ、その聖女の子のことも問題かもしれないけれど、今回の異形の事について聞きたいね。シュレイン」
王様は聖女の彼女ことよりも第9部隊の管轄地域で起こったことを聞きたいらしい。
「はい。まずは事前情報で頭部だけの異形という情報を得ていたのですが、アンジュがその首の容姿がどうだったかと疑問を提示てきたので、そのことを確認してみると、どうもそれは幻覚ではないかという結論にいたり、現地に向かうことになりました」
「ん?確かにその頭部だけの異形という情報は私にも上がってきたけれど、どこに疑問をもったのかな?将校アンジュ」
え?王様から名指しされてしまった。本来なら私はこの場にはいないはずだったので、貝のように口を噤んで、居ないものとして気配を押し殺していたのに、まさか指名されてしまうなんて。
しかし、この質問は答えづらい。頭部だけの異形と聞いて“飛頭蛮”が出てきたのだけど、それはアジア地域で伝承に残る妖怪だから、髪が黒いだろうという認識のもとで、聞いたことだったので、そこを突っ込まれると困ってしまう。
「そもそも頭部だけで人と認識している事が不思議だったのです。ハーピーのように頭部に翼と鳥の足が生えているわけでもなく、人の首を疑似餌にして呼び寄せる魔物でもなく、頭部だけで人の首と認識しているのであれば、そう思わせる何かがあるのだろうなと思ったのです」
しれっと現存する魔物を例に上げて、誤魔化してみる。人を食らう為に人の姿を模する魔物は存在する。セイレーンのように上半身だけ人の姿をして歌声で惑わす魔物のいるのだから。
「言われてみれば、人に擬態する魔物もいるね。上がってくる情報だけで未知の異形に対して精査するなんて、流石だね」
流石……太陽の聖女だねと入るのだろうけど、そこに聖女であるかどうかは関係ない。私には前世の記憶というものがあるからこそ疑問に思っただけ、でもこのことは誰にも言うつもりはない。そうルディにさえも。これは墓場まで持っていくことだと、私は薄々感づいている。
「現地では異形に操られた死体に対して剣を振るう聖騎士たち。霧を発して幻覚を見せる霊獣。そして、頭部だけの戦士がおり、幻覚を見せる霊獣を捕縛し、頭部だけの異形は倒しても直に復活したため、霊獣と共に常闇に封じました」
うーん。微妙に違うけれど、上に報告するのであれば、コレのほうがいいのかもしれない。だけど、“坂東の虎”は倒していないし、復活もしていないからね。
ルディの微妙に間違っている報告に私は貝のように口を噤んだ。
きっと好戦的で最初から最後までヤル気満々だった“坂東の虎”を倒せる一歩手前までいったけど、相手が復活して無理だったという話の流れに持っていきたいのだろう。大人の世界は怖いなぁ。




