215 麗しの聖女様の姿をした将校(とある騎士Side)
とある騎士Side
「そうです。我々の力は聖女という存在を護ることも大切ですが、この国の民を護る為にその力を奮わなければならないのです。その民を護れず、敵に命おろかその死した肉体を奪われた民に剣を振るうとは聖騎士にあるまじき行為!!敵の幻覚などに惑わされ、真の敵を見誤るなど言語道断!!」
押しつぶされるような力の塊が頭上から降り注ぎ、耐えきれず膝を折る。あの人物は一体何者なんだ?こんな力の塊を身体に受け続けたら、身体が破壊されてしまう。
そして、幾分たっただろうか。
「何ですか。アンジュ」
という言葉と同時に身体が解放された。
どうやら、アンジュという者は異形に対する情報を開示しろと要求しているが、何故その神父の姿をした人物に言ったのか意味がわからない。しかし、俺は呼吸もままならないほどの状態なのに、アンジュという者の声は息切れもなく普通に話している。そして、ふと隣に視線を向ければ、まっすぐ前を見て平然と立っている将校クオーレの姿があった。
え?あれだけの力を受けて平然としているなんて信じられない。
そんな事を考えていると、再びアンジュという者の名が呼ばれた。呼ばれた者がその神父の姿をした人物のところに赴いていく。その後ろ姿に驚いた。
銀髪だ。これまで見たこともないぐらいに美しい銀髪だ。そして、後ろ姿から小柄な女性だということが窺える。
噂では聞いたことがある。最近将校に昇格した200年前の聖女を化現したような人物がいると。
一番前まできた白銀の将校が振り返り、こちらの方に顔を向けた瞬間、息が止まった。聖女様だ。頭上に天の日を掲げれば、正に聖女様のお姿だった。室内でもキラキラと煌めいているように見える銀髪に少し幼い容姿、吸い込まれそうなピンクの瞳に、その瞳を伏せるように覆う長いまつげが彼女をいっそ儚げにみせている。
「この者は聖騎士になって間もないのですが、この者に勝てる自信のある者はいますか?」
え?普通に勝てるだろう?どう見ても聖騎士という感じはしない。腕も細いし、身長も低く、13歳ぐらいにしかみえない。
俺は立ち上がり、手を上げる。周りを見れば、ほとんどの者たちが手を上げていた。
「おい!馬鹿!何故手を上げた」
将校クオーレが焦ったように小声で俺に声を掛けてきたが、何故と言われても、いくら将校だったとしても子供には勝てると思う。
「あー。俺の部隊のやつには言っておくんだった」
「いい勉強だと思えばいいのではないのですか?」
後ろから悲観的な部隊長の声と諦めた感じの副部隊長の声が聞こえてきた。俺は意味が分からず、この三人の言葉の意味を理解したときには俺はとても後悔したのだが、その時はただ首を傾げるだけだった。
そして、俺の目には不思議な光景が写っていた。白銀の彼女対将校10人の構図ができあがっていた。
白銀の彼女は空を見上げ、目の前の将校たちに興味がないような感じだが、絶対に彼女は目の前にいる部隊長たちの強さをわかっていないのだと思う。
思うのだが、何故か10人の将校たちが作戦らしきことを口々に言い合っている。
いくら同じ教会出身でも直に作戦通りに動けるとは思えない。だが、隊長も副部隊長も真剣に話をしている。まるで戦いに行く前の作戦会議と同じ表情だ。
しかし、俺はそろそろ寝たい。なんでこんなことになっているのだろうと思っていると、部隊長たちの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「オワッタ」
第9副部隊長が頭を抱えながらしゃがみ込み
「勝機が無くなりましたね」
副部隊長が空を見上げながら、お手上げという雰囲気を醸し出し
「あら?私の作戦じゃだめね」
第12副部隊長が困ったという感じで頬に手を当て首を傾げており
「いやー!理不尽な魔術が降ってくるー!」
将校ロゼが頭を抱え発狂しており
「おい!どうする!」
部隊長が慌てた感じで作戦の練り直しを提案している。
な……何が起こったんだ?
「おい、部隊長たちは何を言っているんだ?相手はたった一人だろう?」
「好きなように戦っていいって言われただけだったよな」
「別に普通のことだと思うが」
皆が口々に言っている。俺も同じ意見だ。何が困ることがあるのだろう。
すると白銀の彼女から耳を疑う言葉が聞こえてきた。
「じゃ、魔術を使わないでいいよ」
と。魔術を使わない?剣一本で戦うということだろうか。あ、あと聖痕の力か……それは厳しくないだろうか。それも1対10だぞ。
しかし、それを聞いた部隊長たちは剣を抜いた。
部隊長。俺、部隊長に憧れていましたけど軽蔑しそうです。魔術を使わない相手に10人で襲うなんて、騎士としてはあるまじき行為ですよね。




