212 アンジュVS10人の将校
「今回の戦いでどれだけの命を犠牲にしましたか?」
神父様の質問に誰も答えない。今は戦いが終わった直後であり、それを調べるのはこれからになるからだ。
「この周辺の3つの村が壊滅しています。そして、少なくない聖騎士の犠牲。この意味があなた達には理解できているのですか?」
いや、悪魔神父は戦いが終わってから今までの間に調べ終わっていたようだ。きっとこの事をチクチク言うために調べたに違いない。
「あなた達には敵を見定める目がないということです」
うわー。きつい一言が放たれた。それは聖騎士として不適合と言われているのに等しい。
「アンジュ。こちらに来なさい」
ご指名入りましたー!
何故に私がそんな目立つ前に行かなければならないのか……さっき神父様の話の途中に質問した嫌がらせか!
「アンジュ」
再度、名前を呼ばれてしまったため、仕方がなく足を動かす。
背中にブスブスと突き刺さる視線が痛い。お前誰だよっという感じなのだろう。
神父様の正面に立って、いったい何の為に呼び出したのかという文句の視線を斜め上に向ける。すると、右肩に手を添えられ、180度回転させられてしまった。ということは、私は多くの視線を正面から受け止める形になる。
「この者は聖騎士になって間もないのですが、この者に勝てる自信のある者はいますか?」
すると多く手が上がった。悪魔神父は人の心を折るのが得意だ。この流れから私は遠い目をして、手を上げた者たちを見る。
「では、先程いた訓練場に行きましょうか」
私からは悪魔神父の顔は窺い見ることができないが、きっとにこにこといい笑顔で言っているに違いない。
そして、ブスブスとルディから痛いほどの視線が突き刺さって来るけれど、悪いのは私ではなくて神父様だからね!
青い空の下、私の目の前には白い隊服を着た人たちが10人並んでいた。それも見覚えのある人たちばかり……。
「さて、これから私の教え子たちの戦うところを見てもらいますが、その後にこのアンジュと戦ってもらいますから、よく見ておきなさい。それから、先程手を上げた人の顔は覚えましたからね。逃げだそうとしても無駄ですよ」
私は悪魔神父の言葉を背中で聞き、太陽の光を浴びながら、青い空を眺めていた。これは私に何を期待しているのだろう。
眼の前の10人もかなり戸惑っているようだ。そして、顔を突き合わせてこそこそと話合いをしだした。恐らく共闘作戦だろう。私を前にするとよく行われる光景に、教会の風景が重なった。
10対1とはかなり卑怯と言わざるえないけれど、正当方法では私を出し抜けないと思っている人たちからはよく私の足を止めるために数人でかかってこられた。まぁ、出し抜いてあげたけれど。
「神父様。今回は制限はあるのですか?」
私はにこにこと笑顔でいる神父様に戦闘条件を確認した。よく私は集団訓練で行動制限をされていた。空を駆けないとか、遠距離攻撃をしてはいけないとか、大技禁止とか色々だ。だから、今回も制限されるのかと確認したのだ。
「アンジュの好きなように戦って構いません」
「オワッタ」
「勝機が無くなりましたね」
「あら?私の作戦じゃだめね」
「いやー!理不尽な魔術が降ってくるー!」
「おい!どうする!」
神父様の言葉に次々と絶望の声が響き渡った。一人なんて地面に座り込んで項垂れてしまっている。あなた達の私の評価がどうなっているのか一度聞いてみたい。
そして、周りの見学者たちがざわざわと騒ぎ出した。きっと将校たちの不可解な言動がおかしいと思っているのだろう。
「じゃ、魔術を使わないでいいよ」
私は私への制限を掲げた。すると一気にやる気になったのか、目の前の10人が腰に佩いた剣を抜く。
「始め!」
神父様の開始の合図と共に10人の足が地面を蹴った。さて、魔術を使わないと言った手前、身体強化はできない。ならばと、私は左手を前に突き出す。
パリッと呪いが込められた指輪が放電した瞬間、音が消え去った。そして、耳をつんざくような轟音が鳴り響く。ミレーの雷の指輪だ。
言っておくけれど、最大出力を調整してもらって、この落雷のような状態だ。言い換えれば、何気ない指輪の発動で、落雷状態からスタンガンレベルに引き下げられただけで、調整していない最大出力は、王都ぐらいなら飲み込む程の威力はあっただろう。ミレーの恨みは相当深いらしい。
その落雷に乗じて私は重力の聖痕を使う。突然の落雷に手で視界を封じてしまっているロゼに支点を置き、引き寄せられる力を拳に乗せてみぞおちに一撃入れ、ぶっ飛ばす。そして、近くに居た男性に踵落としを食らわし、これで二人退場。
その私に太陽の光を反射した剣が向かっていた。が、重力の聖痕の作用点を相手に変え、地面を支点にすることにより、潰されたカエルのように地面に押し付けられ、トドメとばかりに背中に足を振り下ろす。三人目退場。
そして、様子を伺うように遠巻きに見ている人物に視線を向け、左手を突き出す。
「青龍 青嵐。水刃で吹き飛ばして」
『御意』
青い指輪から青蛇もとい、青龍が顕れ津波のような水の壁が立ち上る。それ水の刃じゃないからね。
「黒龍 月影。影の刃を放て」
『御意』
指輪から黒蛇もとい黒龍が顕れ、地面から墓標のように黒い刃が突き出ていた。それ放ってないからね。うん。あとでお仕置きだね。
私はこの馬鹿二匹の青蛇と黒蛇にお仕置きをすることに決めた。




