205 お説教
思わぬ世界からの攻撃や私の魔力の妨害があったけれど、事は順調に運び、異形が常闇の中心にたどり着いた時に茨の檻に覆われた霊獣を投げ入れ、常闇を閉じて全ては順調に終わった。……順調だったよ?
月が西に傾き始めた夜中に全てを終えることができた。
今現在、私は地面に降り立ち正座をさせられ、銀色の鎧から説教を受けている。
私、頑張ったのに理不尽だ。
「アンジュ。聞いていますか?」
ちなみにルディとファルは周りを巡回して異常がないか見回りをして行ってこの場にはいない。あの黒い鎖が悪影響をおよぼしているかもしれないからだ。
「アンジュ!」
「聞いてますよ」
そう言ってへろりと笑う。お説教は聞き慣れてしまっているので、私が凹むことはない。面倒だから逃げようかと思ったのだけど、私だけスポットライトを浴びているので、早々に見つかってしまうだろうから逃げるだけ無駄なので、私は大人しく説教を受けている。
まぁ、逃げても神父様との追いかけっこが始まってしまうだけなので、最終的に捕まってしまうのだ。
「はぁ。シュレインがいればもう少しアンジュの行動制限ができると思っていたのですが、意味が無かったですね」
「神父様。ルディからの行動制限は受けてますよ。大体、詰め所から出るなが多いです」
そう、めちゃくちゃ行動制限を受けている。散歩に行くのも一苦労するのだから。
「そういうことではなくてですね。その傍若無人な行動のことです」
「神父様、失礼ですね。そんなに私はわがままを言っていません」
「常識の範囲の事を言っているのです」
「神父様に常識を言われたくないです」
大体いつもこんな感じで言い合いになってしまう。そこに気だるそうな声が聞こえてきた。
「腹へったー。酒がのみてー」
酒吞だった。確かに昼から何も食べてはいない。
「酒吞。声が少し大きいですよ」
茨木が酒吞をたしなめているけれど、声の問題じゃない。先程から酒吞の腹の虫が凄く鳴り響いている。うるさいのには変わりはなかった。
「食べれそうなオークの肉ならあります」
今まで全く存在感がなかった朧が何やら巨体を引きずって戻ってきた。
「黒い鎖にひかかって居たのを取ってきたのですが」
うーん。やっぱりあの常闇の中に落とし込むことができなかったものが残ってしまっていたのか。
「鎖は意外と脆く剣で切れるほどでした」
そうなの?あの鎖の性質を私は理解しているわけではないので、獲物として見定めた鎖でないのなら、案外脆いのかもしてない。
「4キロメル四方を見回って見つけ次第、切ってきましたがそれでよろしかったでしょうか?」
朧を見かけないと思ったら、どうやら単独で行動をしていたみたい。まぁ、彼は王家の影だから、その行動に私が口を出すことはないので、いちいち私に確認をしなくてもいいよ。
「良いでしょう。確かアンジュに仕えることになったようですが、アンジュの行動を諫めるのも貴方の役割だということを覚えておきなさい」
神父様が朧にいらなことを言っている。ルディにも私の監視をするように言われていたけど、そこまで私の行動は酷くはない。
「申し訳ございません。シュレイン様からもそう命じられていますが、その行動の意味が私には理解できず戸惑うことが多々あり、現状では役目を果たせていません」
そう言って朧は銀色の鎧に頭を下げている。
だから、私を問題児のように扱わないで欲しいのだけど。
「行動の意味を理解しようとするだけ無駄です。ただ美味しいものが食べたいという理由で噴火している火山に登っていたこともありましたので」
そんなこともあった。教会に置いてあった絵本に南にある火山に年に一度飛来してくる赤い鳥を冒険者たちが美味しく食べたという話があり、どんなに美味しいのか興味が湧いて幻影のダミーを教会に置いて、狩りに行ったことがあった。
もちろん、神父様にバレて目的の赤い鳥を捕まえられずに、私が捕まってしまったのだ。もちろん、説教部屋行き決定案件だった。
「うまいっていうのは大事だと思うが?」
酒吞はそう言いながら朧が持ってきた魔物を解体し始めた。うん。美味しいって大事だよね。
少し離れたところで茨木が火を起こしている。もしかして、ここで食べる気なのだろうか。私はそういうことに抵抗ないので、大いに構わない。
「アンジュ様はアマテラス様の化身でありますから、深く考える方がおかしいのですよ。先程の天の裁きを見てもおわかりでしょう?怒らせた方が悪いのです」
茨木は私を擁護してくれているのか貶しているのかわからない言い方をしてきた。
そう言えば、先程の気になったことを聞いてみよう。
「ねぇ。茨木、さっき言っていた坂東の虎って、何ていう名前の人?」
私には全く心当たりがなかったので確認の為に聞いてみた。
「そうですね。確か、相馬小次郎将門と名乗っていたそうです」
そうま?誰のことか名前を聞いてもさっぱりわからない。
「平将門じゃなくって?」
「自ら相馬を名乗っていると噂で聞きましたよ?」
全く知らない人物だった。きっと私が知らないだけで有名な人物だったのだろう。とても強い人っぽかったから。
「アンジュ。全く反省の色がないですね」
あ、お説教の最中だった。




