201 絡め取る死の鎖
その坂東の虎とかいう怨霊は青い炎の馬ごと数十本の黒い槍に地面から突き刺され、動きを止められてしまった。恐らくルディだろう。
その動きを封じられた鎧武者に向かって銀色の鎧をまとった者が掲げた剣に光をまとわし、上段から振り下ろした。
『まだぞ!まだぞ!戦い足りぬ!』
坂東の虎は戦い足りないようだが、その戦っている相手に怨霊の言っている日本語は全く通じていない。神父様はそのまま横一線に鎧武者の首を切り落とした。
しかし、元は首だけの怨霊だ。その首は落ちることなく宙に浮き笑い声を上げている。
『良き良き』
だが、その笑い声を上げている首だけの怨霊に黒く太い鎖が一本伸びていった。
「あっ」
思わず私は声が漏れてしまう。
私には黒い鎖に繋がれてしまったように見える首に、神父様がトドメと言わんばかりに光輝く剣を突き刺したのだ。
そして、闇を切り裂くように光輝く神父様の剣。今までの攻撃に笑っていた怨霊が苦しんでいるように悲鳴を上げだした。
その時、更に空間から数本の黒い鎖が怨霊に向かって伸びていく。それを見た私は文字通り飛んでいった。
一番怨霊に近い神父様に黒い鎖が届くかと言う時に私は鎖を刀で弾き、神父様の腕を掴んで、怨霊と距離を取る。
怨霊の近くにいれば死の鎖に囚われてしまう。
「距離を取って!死の鎖が出てきた!」
私は大声で叫び注意を促す。そして、黒い鎖が私が作り出した茨に向かっているのが見えた。
「酒吞!茨木!霊獣を常闇の方に運んで行って!霊獣も鎖に狙われている!ファル様常闇の方に案内して!」
霊獣の近くに居た酒吞と茨木に霊獣の身の確保をお願いをする。すると酒吞が地面から茨の塊を引っこ抜き、ファルが指し示した方に向かって行ってくれた。
霊獣の方に向かっていった鎖は斬撃を飛ばして弾いておく。
そして、問題は目の前の鎖に絡まれ叫び声を上げている怨霊だ。いや、私の目には怨霊ではなく鎖だらけの怪しい物体だ。
「神父様。鎖だけの物体が叫んでいるのですが、どうなっています?」
神父様の前に立ち鎖に向かって刀をむけていると、後ろから思いっきり引っ張られてしまった。
「アンジュ。前に出るな」
ルディに腕を掴まれて後ろに連れて行かれてしまった。ああ、前に出過ぎというやつね。
「アンジュ、あのモノに絡まっているという鎖とは切れるものですか?」
神父様が聞いてきたけど、実は切れる鎖とそうでない鎖がある。生きているうちに印として付けられた鎖は細くて自力で切れるけど、世界が死者を取り込もうとした鎖は太く普通では切れない。だから、私はファルが鎖に絡められたときは何もしなかった。いや何もできないので状況の改善を行ったのだ。
「あれは切れない。私は鎖の軌道を変えることしかしていない」
だから、絡まったら私は助けられないから、距離をとるように言ったのだ。
「そうですか。それは私でも無理なのですかね?その鎖ごと叩き切るのは」
「いや、私には鎖しか見えないので怨霊の状態が全くわからないので、なんとも言えないのですが?」
本当によくわからないから。しかし、神父様なら鎖ごと叩き切れるかもしれない。
「アンジュ。首だけのモノは苦しんでいるようだが、何かに捕まっているようにジタバタしているように見える。例えでいうなら、蜘蛛の巣に捕まった虫のようだ」
ルディがわかりやす説明をしてくれた。
鎖に捕まっていようが、恐らく本人には自覚はないはずなのだけど、怨霊だと何かを感じることになるのだろうか。
その怨霊から、無数の火の玉が浮かび上がっている。こちらに攻撃を仕掛ける気?
いや、その炎をまとい身体を構築していっている。そして、先程の鎧武者の姿になり青い炎の馬にまたがった姿になっていた。
あれ?もしかして振り出しに戻っている?先程、神父様の攻撃を受けて悲鳴を上げていたから攻撃は通っていたはずなのに、何事もなかったかのように鎧武者が馬にまたがった姿になっている。
ただ違うところは顔にぐるぐる巻に黒い鎖が巻き付いており、よりいっそラスボスっぽくなってしまっている。
「神父様、あの怨霊を浄化すると言っていましたが、できそうなのですか?」
できないと言われれば、私が天使の聖痕を使わなければならなくなってしまう。
「先程の一撃で大方の力を削いだとおもったのですがね」
そう言って神父様はラスボスっぽくなった怨霊に向かって行く。背後にいた第12部隊長さんも神父様に続いて向かっていった。
これは思っていた以上に厳しいのかもしれない。私が一番強いと思っている人物は神父様だ。その神父様の一撃を受けて悲鳴を上げたものの一瞬にして鎧武者の姿にもどってしまった。これがゲームであれば、第二形態がありそうな感じだ。
……はっ!ここゲームの世界だったよ!




