199 死の鎖が捕らえるモノ
「死の鎖で繋がれている……ですか?」
銀色の鎧から最もな疑問の言葉が出てきた。そう、別に死を示されたわけでもないのに、そこにいるだけで死の鎖が絡まっているのだ。
「ええ、後方で暴れている二人にもありました。私が引きちぎりましたけど。常闇を閉じるのであれば、周りに人がいない状況が望ましいと愚考します」
「引きちぎりった!アンジュ、そんなモノが引きちぎれるのか?」
ファルが突っ込んできたが、そこは問題じゃない。世界が飢えているのであれば、そのまま世界に飲み込まれる可能性があるということだ。
「アンジュが、そう思った理由は何ですか?死の鎖というものは常人には見えません。アンジュの妄想だと言われてしまえば無視されるものですよ」
妄想。確かに誰にも見えないものを見えると言ってしまえば、それは幻覚であり、妄想であり虚言癖と思われてしまう。
「妄想かもしれませんね。ですが、私は世界が飢えていると思ったのです。繰り返される異界から呼び寄せるように現れる異形。世界に風穴を開けてまで現れ、聖女と呼ばれる者が風穴を閉じる」
これは世界の意志によって決められたことなのだろう。
「世界の調律の為に決まった時期に生まれる聖女。太陽の聖女は世界の力を使い世界を調律し、月の聖女は太陽の聖女の膨大な魔力を使って調律する」
これが今の現状になる。私がいて聖女シェーンがいる。恐らくその昔はこの役割がはっきり分かれていたのではないのだろうか。
「しかし、月の聖女の方が頻繁に現れるということは月の聖女には太陽の聖女が現れるまでの事細かな調律が求められてきたのではないのでしょうか?そこに伴侶として王族が求められてきた理由があると考えました」
ここが恐らく一番肝心なところ。
「そして、本来アンジュという子供は太陽の聖女になり得ない存在だった。そう、10年前に死んでいたはずの私がこの場にいる。この誤差はきっと世界が望んでいない何かが起こったのでしょう」
「それは先代の月の聖女が己の役割を果たさなかったと言っているのでしょうか?」
神父様から怒気を含んだ声が漏れ出てきた。別に私はファルの叔母に当たる人物が悪いとは言っていない。多分このことはもっと以前の事が徐々に世界に負荷を掛けてきたと思われる。
「世界の目から見た数年など、ほんの瞬きの時間と同じでしょう。私が考えついた答えは200年前の双子の聖女です。いいえ、その兄の仕業と言い換えます」
「聖騎士クヮルティーモーガンですか」
私に聖騎士の名を言われても覚えていないよ。
「その兄が世界に解き放った今現在も燃え続ける蒼き炎。これは魂すらも燃やしたのではないのでしょうか?まぁ、これは予想ですね」
ただの予想だけどその兄は妹たちから聞いていたのではないのだろうか。
「ですが、あながち外れてはいないと思いますよ。何故なら、聖女もまた生きながらにして死の鎖に繋がれた者だからです」
「アンジュ!」
私の言葉にルディが私の腕を引っ張って抱き寄せるけど、鎧がガシャンと当たっているだけだからね。
「その詳しい話は後で聞きましょう。では、別行動ではなく、まずは死者を操る者の浄化を優先させましょうか」
私の突拍子もない話を以外にもこれ以上突っ込まれることもなく、信じてくれたようだ。
「アンジュ!どういうことだ!」
しかし、ルディの方は私の話を普通に受け入れることはできないようで、私の肩を揺さぶってきた。首がガクガクするから止めて欲しい。
「ルディ。首がガクガクする」
「聖女とはその身を常闇に取り込まれる存在ということです。シュレイン、それは貴方たちの母親である先代王妃も変わりありませんでしたよ」
神父様が答えられない私の代わりに答えてくれた。
自ら毒杯を飲んで自死した先代王妃。その身は野ざらしにされたと一般的にはされたようだけど、真実は違ったようだ。彼女は死した後に世界に取り込まれたのだろう。
死の鎖。私はそう言っているけれど、その死の鎖に示されない死があることも知っている。ただ、その違いが分からなかった。しかし、世界が飢えているとするならば、その糧となる者に死の鎖が巻き付き、世界の力にされると私は考えたのだ。
そして、このモノは必ず取り込むと世界が決めた者は生きながらにして印を付けられている。これは何も確証がない私の妄想。
だから、私は私の答えが合っているか答え合わせがしたくて、太陽の王と月の王妃のことが書かれた古文書があるところに行きたいのだ。
正解はそこにある。私は根拠のない確信をもっていた。
「アンジュ。危険なことはしなくていい。第9部隊の駐屯地で待っていろ」
ルディが意味不明なことを言ってきた。恐らく私に死がおよぶことから遠ざけようとしているのだろう。
「ルディ。死の鎖は引き千切ったから、私にはついていないよ」
(ぶふっ!)
ファル。今のどこに吹き出す要素があったのか、私に説明して欲しい。




