198 私絶対に悪くなかった!
私は上空のワイバーンからモヤでよく見えないミズチと呼ばれるモノに手をかざす。
「茨の監獄錠」
近づくと幻覚に飲まれるという茨木の助言から遠くからでも確実に捉えられるように茨の檻で囲んでから拘束した。
怨霊に実体な無いだろうけど、これならミズチを茨で拘束することができ、幻覚を見せるというミズチの吐き出す気も封じられるはず。私としてはぐるんぐるんに茨を巻き付けたので、大丈夫なはず。
そして、その直後に下から爆音と炎が立ち上った。恐らく酒吞だろう。一方では氷結の世界が広がっており、操られているモノは動けない状況に陥っていた。そして、もう一方では砂塵が舞っていた。正確には操られた者たちが砂のように崩れ去っていた。第12部隊長さんの聖痕の力は何かわからないけど、恐ろしい能力だ。
もしかしたら、3人で世界を制することができるかもしれない。
残りはというと、ルディは私の後ろにいるので、上空にいるのはわかるだろう。ファルと神父様、朧も実はこの上空に待機している。
本当であれば、全員で地上のゾンビもどきを倒すはずだったのだけど、ルディが3人で十分だと判断して、3人が蹂躙しているのが現状だ。
「さて、そろそろ行きましょうか」
神父様がそう言って、ワイバーンから飛び降りた。え?飛び降りた!やっぱり許されるんじゃない!
「ルディ!神父様もワイバーンから飛び降りたよ!私絶対に悪くなかった!」
私の正当性を後ろに振り返って主張する。神父様がしているのであれば、私も上空から飛び降りて文句を言われる筋合いはなかった。
「アンジュ。ここは400メル程で、身体強化で賄える範囲だ。4000メルじゃない」
ルディがグサリと釘を刺してきた。はい、そうですね。ゼロが一個多いですね。
私もワイバーンの上に立ち上がり、重力の聖痕を使って飛び降りる。そして、地面が近づくとふわりと浮き、地面に降り立った。
次いで、ルディとファル、朧も地面に着地をする。しかし、この辺りは戦闘の跡が激しく残り、地面に黒いシミがついていたり、人の一部だったり、物が散乱していたりしている。
ただ、ここには操られる存在はないので、全て後方で繰り広げている戦闘に使われているのだろう。
「ではいきましょうか」
神父様の号令と共に目的のモノに向かって足を踏み出した瞬間、目先の土がぼこりと盛り上がった。
そこから白い何かが出てきた。いや、人の骨だ。その骨が動いて、まるで生き物のように土の中から這いずりでてくる。それも歴史の本とテレビの中でしかお目にかかったことがない、鎧を着ている。外観は鎧武者と言っていい。何処から現れたの!それも一体だけではない。怨霊がいると思えるまでの平原を埋めるように現れた。
ま、まさかこの場も常闇だと言っている?
「死体の次は白骨死体か」
ファルがうんざりとしたように言葉を発した。確かにこの一面の鎧武者には辟易する感じに受け止められる。
だけど、問題ない。私は地面にしゃがみ込んで手を付く。そして、魔力を一気に一帯の地面に流す。
「泥土化!」
冬の乾燥した土の地面を泥土にする魔術を使う。相手がどれ程数が居ようが同じだ。動けば動くほど、そして重い鎧を着ているのであれば、尚の事泥の海に沈んでいく鎧武者たち。
そして、大方埋まったところで、次いで魔術を使う。
「乾燥!」
一気に地面を乾燥させて固めていく。となれば、ガチガチに固まった地面で身動きがとれなくなるのだ。
「相変わらずアンジュの魔術の範囲はおかしいな」
ファルが周りを見渡しながら言う。そして、クスクスという笑い声が、銀色の鎧から聞こえてきた。
「気を取り直していきましょうか」
土から兜が生えた地面を縫うように銀色の鎧が進んでいく。ファルはこの光景はトラウマになりそうだと言いながら、同じ様に蛇行しなから進んでいき、ルディは私の手を持って立ち上がらせ、私の手を掴んだまま進んでいく。
それも障害物があろうが、踏みしめて進んでいく。これの方がトラウマになりそうだ。鈍色の鎧が地面に生えた兜を潰しながら進んでいく光景。いや、やはり土から兜を被った頭蓋骨が顔を出している時点でアウトか。
「アンジュ。私とファルークスで幽霊の浄化を行いますので、アンジュはシュレインと共に霊獣を常闇に還して閉じてください」
銀色の鎧が振り返りながら言ってきた。だけど、本当に常闇を閉じていいのだろうか。
「神父様。一つ気になったことがあるのですが」
「なんですか?」
私はこの状況の疑問を口にした。
「この鎧武者が地面から出てきたということは、この場も常闇の可能性があると私は考えるのです」
「そう言えるかもしれませんね。アンジュは何を危惧しているのですか?」
「異界から来た異形の者たちは死の鎖で繋がれています。ですから、常闇を閉じることで、この場にいる者たちに死の鎖が絡まないかということです」
そう、世界が己の力とする為に呼び込んだ異形たち。その者たち全てに黒い鎖がつながっているのだ。そう、この地面に埋まった骨だけの存在も例外ではなかったのだった。




