195 私は責任取れないよ
「あ!アンジュ!」
私が叫んでしまったことで、ロゼに私がここにいることが、わかってしまったようだ。私を巻き込まないでほしい。
そして、私に向かって鎧が手を振ってくる。その鎧が白いマントを纏いサーコートに第12部隊の紋様が刻まれているしか、見た目ではわからないので、私には声でしかロゼだと判断つける材料がない。あと、背格好ぐらいかな?
「あ……」
しかし、私の隣の目立つ鎧に視線が行き、おずおずと手を下げて、そのまま敬礼のポーズを取るロゼ。きっと隣に居るのが、神父様だと気がついたのだろう。
そして、つられるようにリザ姉と恐らく第12部隊長さんも同じく敬礼のポーズをとった。残りの鎧は声を発していないので、恐らく強制参加の第12部隊長さんかなぁとしかわからない。
「アンジュ。どうしますか?」
再び神父様から同じ言葉が出てきた。聞かれたけれど私にはあの王様に逆らう気はない。
「神父様。私は王様の命令を覆そうとは思わないですよ。謹慎を解く理由が今のところみられないですから」
「そうですが、あの者は有力な情報を持っていると豪語していましたね。しかし、その情報を話すことはありませんでしたが」
これはあの後、聖女の彼女から侍従が何かしらの聞き取りをしたのだろう。その時に神父様もいたと。
しかし、この神父様の言い方は私に情報を引き出せと言っているのだろうか。だけど、ここで時間を無駄にするわけにはいかない。それに、彼女がワイバーンの飛行に耐えきれるとは思えない。なぜなら、今までの移動は最初に王都に来た時以外、全て転移陣での移動だったのだから。
「神父様。聖女様は今回の強行的な移動に耐えれるとは思えません。それに彼女は虚偽を言って混乱に陥れたという理由で謹慎を受けたのであれば、それを払拭する理由が必要でしょう」
「そうでしょうね。聖女シェーン。貴女を連れて行くには理由が足りないようですね」
すると彼女はこちらの方を見て、胸を張って言い切った。
「私がその場にいることに意味があるのよ!」
う……うん。何かな?偶像者としてかな?確かに聖女がいることで士気が高くなるかもしれない。
「ワイバーンの8時間の飛行に耐えきれるとも思えないのだけど」
「そうですね。一度上空に上がればどこかに立ち寄ることはありませんよ。騎獣の背に乗り続けることができるのですか?」
私の言ったことに神父様が彼女に問いかけてくれる。しかし、それが気に入らなかったのだろう。
「ちょっとそこの貴女!言いたいことがあるのなら、直接言いなさいよ!」
彼女は私に指を差しながら言ってきた。
えー。あまり関わりたくないのになぁ。私は大きくため息を吐き出す。
「この度の事は緊急の要請で辺境に向かうため、今までのように聖女様待遇はできません。我々は一刻も早く現地に向かわなければなりません。ですから、途中で何処かに立ち寄りたいと言われてもできかねます」
すると、彼女は私の方にカツカツと踵を鳴らしながら近寄ってきた。聖女らしい純白のドレスを纏いその裾を揺らしながら憤りを隠しもせずにだ。
「貴女、以前も私のことを邪魔した人よね。私の婚約者であるシュレイン様に馴れ馴れしく近づいていた」
偽物の王様に婚約者のことを否定されたのに、未だに彼女の中ではルディの婚約者でいるらしい。あ、確か手の甲を刺されて聞いていなかったのか。その刺された手の甲を見てみると綺麗になっていることから、誰かに治してもらったのだろう。
「そして、昨日も何か告げ口をしたでしょう!あの後夜遅くまで色々聞かれたのよ!あの侍従フリーデンハイドに!」
告げ口じゃなくて、報告と予想ね。しかし、私が色々邪魔しているように見えているみたいだけど、私は邪魔をしているわけではなく、嫌々ながらルディを止めに入ったり、興味津々で後を付けていただけだから、彼女の行動に何かしらの阻害をしているわけではない。
だけど、今回は途中で騒がれても嫌だから、彼女にはここで留守番をして欲しい。
しかし、自称婚約者であるルディの前で猫を被らなくても良かったのだろうか。あ、いや。気がついていないだけか。未だにルディは一言も発してはいない。
「キャンキャン子犬みてぇーにうっせーなぁ」
後ろからうんざりとした感じの酒吞の声が聞こえてきた。
「本当に弱い犬ほどよく吠えるといいますからね。行きたいと言うなら連れて行けばよろしいのではないのですか?アンジュ様」
この状況に嫌気が差したのだろうか。茨木が連れて行けばいいと言い出した。連れて行っても面倒が増えるだけだと思うけど?
「ご主人さま。この者に己の無力さを突きつければよろしいのではないのですか?そうすれば、少しは大人しくなるかと愚考致します」
朧までおかしなことを言いだした。えー連れて行くの?私は責任取れないよ。