194 聖女シェーンVS鎧集団
『おい!これはどうなっていると考えればいいんだ?』
ファルが持っているタグから、焦ったような声が聞こえてきた。しかし、私にもわからないことが多すぎて、わからない。ただ言えることは……
「幻覚だったのでは?」
『幻覚!しかし、現に多くの者が命を落し怪我人をだしているんだぞ!』
「だから、首の異形の姿が幻覚だっただけで、本体はまた別の姿だったのでは?」
今考えられることとすれば、これぐらいだ。しかし、これはこれでやっかいだ。幻覚を使ってくるとは何が本体か探るのが難しくなる。
ただ、気になるのが幻覚を操る妖怪っているのだろうか。
『ちょっと部隊長と相談してくる!ファルークス!第13部隊はいつこちらに到着予定だ?』
「本日の20時の予定だ」
「え゛?」
ファルの言葉に思わず声を上げてしまった。今日の20時って……お昼に出発だって言っていなかった?
これはかなり強行な行軍になるってこと?
『了解だ』
そう言葉を残してタグからは声が聞こえてなくなった。
「ファル様。お昼に出て20時に到着ということは、そこまで辺境ではないっていうこと?」
第9部隊管轄の一番西側であるのなら、昼に出て20時であるなら、なんとか着けるが、もっと東側だとワイバーンを酷使することになる。
「いや、辺境都市の更に東側だ」
「国境じゃない!」
はっきり言ってワイバーンを休憩無しで酷使して丸一日かかる距離だ。それを8時間程度で着けると言い切る神経がわからない。
「アンジュ。今回はリュミエール神父が居るから、その時間に着ける」
神父様チート!!ルディが普通だと言わんばかりに教えてくれたけど……え?なんか凄い技を使えるってこと?
そして、昼までの時間で準備を整えて、私はルディにドナドナされるように、騎獣舎がある方に向かっていく。その後ろからは鎧がガシャガシャと付いてくる。
ある意味怖い。中身はファルだとわかっているけど、今回はそのまま戦闘に入るようなので、完全武装している。
ということはルディも完全武装しているわけで、私は鎧に手を繋がれている。そして私もフルフェイスを被っていないものの、鎧を着ているのだ。この動きを阻害する鎧は、私は好きではない。
この鎧集団の後ろからは濃い灰色の隊服を着た酒吞と茨木と朧が付いてきている。私もそっち側に入りたい。この鎧をここで脱ぎ捨てて行きたい気分で私の中が満たされていた。
しかし、人が三人に鬼が二人、そして黒狐が一人。この異様なメンバーでいくのか。頭の中では理解していたけれど、実際この目で見てみると、戦力としては過分すぎるようにも思ってしまったことは、私の心の中に閉まっておこう。敵が何者かわからないのには変わりはないのだから。
騎獣舎が近づいてくると、騒ぎ立てる声が聞こえていた、何やら騒ぎが起こっているようだ。
「私は聖女なのよ!私も連れて行きなさいよ!」
どうも聖女シェーンがどこからか、今日のお昼に現地に向かうと聞いたのか共に連れて行ってもらおうと、騎獣舎に押しかけているようだけど、また聖騎士団本部から抜け出したのだろうか。
「ごめんなさいね。今回は聖女様の謹慎が解けていないから連れていけないわ」
この声はリザ姉だ。きっと第12部隊長さんが行くことのなったから一緒に行くことになったのだと思う。
「謹慎がなによ!そもそも聖女である私を謹慎すること自体がおかしいのよ!」
「国王陛下が決められた事だから、おかしいってことないと思う」
ロゼの声もするってことは、ロゼも行くのかな?遠目から見る限り、完全武装の鎧が3体に、その目の前に突っかかる白い皿を頭の上に掲げた桜色の髪の聖女。
見た目から行けば非力な彼女に味方をすべきなのだろうけど、謹慎を言い渡されて勝手に出てきている彼女の方が悪いに決まっている。
「また、問題を起こしているようですね」
近くで神父様の声が聞こえて思わず肩が揺れてしまった。相変わらず神父様の気配が感じ取れず、ここまで近づかれても気が付かなかった。
「本部の監視はどうなっているのでしょうかね。フリーデンハイドに一度問わねばなりません」
神父様にあの侍従が怒られるのか。侍従には頑張れとしか言えない。
神父様の声が聞こえた方を見れば、白銀の鎧が存在感を放っていた。え?他の人は鈍色の鎧で、マントとサーコートの色で階級を区別しているのだけど、一人白銀の鎧って目立ちすぎ。
「アンジュ。どうしますか?」
何がどうしますか?なのだろう。私は神父様をジト目で見る。
「全ての決定権はアンジュにありますよ」
「なんて恐ろしい事を言ってくれるのですか!」
思わず叫んでしまった。私に決定権があるだって?私は人を采配するような権限はないからね!