185 行ったであろう己の行動の予想
「市街戦はこちらの不利ですか」
侍従はルディの言葉に納得したのか、何かをメモっている。
さて、ここからが本番だ。
「ですから、この時点で神父様はいません」
「ん?」
「え?」
「まぁ、そうなりますね」
私の言葉に神父様だけが納得した。ルディの反応はわからないけれど、偽物の王様からピリピリと殺気が漏れ出ている。
「彼女は言っていましたね。ルディが王に立つと。となると、王様もいなくなるということです」
「貴様!」
偽物の王様から殺気が膨れ上がる。
「それは聖女の言葉で、アンジュの言葉じゃないから落ち着きなさい」
白銀の王様が、偽物の王様の怒りを沈める。うん、私が言ったことではないからね。
「因みに私はルディに殺されたことになってい……ルディ、私は生きているから、これ以上お腹を締めないでほしい」
食べたお菓子が出てしまう。ここで、キラキラエフェクトを出すわけにはいかない。
「ということなので、ルディが王様になり、侍従が大将校となる。じゃ、二人は何をしようとする?」
「何をしようとするとは?」
侍従は私が何を言いたいのか理解できないようだ。まぁ、あったであろう未来の話をして、行ったであろう己の行動を予想しろと言われても、無理なこと。
「神父様の死。王様の死。王族はルディと侍従だけになった未来はどの様な感じなのかなぁ。因みにルディ、そのときはファル様も居ない。恐らく第6部隊も半分崩壊状態。あ、第6部隊長さんとヒュー様とアスト様は生きている」
「最悪の状態ですね。これではバランスが完全に崩れさります。アンジュ、何か足りないのではないのですか?その状態ではシュレインもフリーデンハイドも行動には移しません」
流石神父様、私がどこに導きたいのかわかっているみたい。っということは現時点では、公にはなっていない。
「鍵は第1部隊長です」
「アンジュ、先程もロベル第1部隊長の名を出していましたね」
「名前を出していたのは聖女の彼女です」
私が言ったのではないことは明確にしておかなければならない。
「第1部隊長はどこの貴族の方ですか?」
私は念のため確認する。誰の血を引く存在か知っているのかと。しかし、その答えは誰も持っていなかった。
いや、ルディは何かが引っかかっているのか、低く唸っている。そして、いやまさかと声が漏れ出ている。
「シュレイン、何が気になるのですか?」
神父様がルディに尋ねる。神父様が気が付かなかった何かをルディは知っているらしい。
「何度かプルエルト公爵が隠れてロベルと会ってるのを目撃しました。お金のようなものを渡していたようですが、ロベルは受け取るのを拒否していました。ただ、そのときに『お前はこの中をさぐれ』と指示をされていました。それだけです」
「確かロベルは親戚に連れてこられた子でしたね。母親が死んだと言って……そうですか。アンジュ。シュレインとフリーデンハイドは高位貴族の当主の首をすべて、すげ替えたということですね」
「過去形にしないでください。あったかもしれない未来です」
「それはいい!それをしよう!」
黙って聞いていたと思っていた王様がいきなり立ち上がって、ヤル気満々の意気込みを見せるけど、だからあり得たかもしれない未来ね。
「そうであれば、悪しき習慣を排除できるか。そうか、そうか、今はアンジュのお陰で最悪の事態は避けられている。既にエヴォリュシオンの首はすげ替えて、ヒューゲルボルカが侯爵を引き継いだ。こちらにはファルークスがいるとなれば、必然的にコルドアール公爵もこちら側だ。ヴァルトルクスはアンジュに服従を誓った」
何だか後ろから怪しい言葉が漏れ聞こえてくる。私は聞かなかったことにしたい。
「兄上、粛清するのであれば、一気にかつ迅速にです。こちらの動きを悟られることは、以前と同じ結果を招くことになるでしょう。ですが、公爵家の内3家がこちらについたとすれば、これは大半の貴族はこちら側に従うでしょう」
以前と同じ……もう既に一度この兄弟はやっていた。だけど、王様はアンド家に毒をもられて終わってしまった。
「そうなればアンジュ!アンジュが危惧することは、なにも無くなる」
ルディはそう言って私を後ろから抱きしめた。確かにブタ貴族がいなくなれば、聖女信仰を仕切る者はいなくなるだろうけど、ここまで根付いてしまった聖女信仰を完全に無くすことは難しいだろう。
実際に天に日を掲げる者が存在するのだから。
「そして、あの女も始末しておこう」
あの……耳元で恐ろしいことを呟かないでほしい。本当にこの兄弟は人殺し宣言をするのをやめてほしい。