184 私の攻略マニアルを言わなくていい
「恐らくこれが彼女の言っている第12部隊壊滅の流れです」
私が締めくくると、侍従の不服そうな視線が突き刺さってくる。
「貴女は報告義務があるということを知らないのですか!」
知ってはいるけれど、全てをそのまま報告するわけにはいかない。私の味方はとても少ないのだから。
「知っていますが、私のような下っ端に全てが開示されないように、私も報告の精査はさせてもらいますよ」
「処罰対象になりますよ」
この聖騎士団に連れてこられたこと自体が私にとって不服だ。私は全てを賭けてこの場にいるのだから、いざとなれば、こちらもなりふり構ってはいられない。
「するのであれば、構いません。これ以上私が言うべきことはありません。黙秘権を施行します」
私は処罰するというのであれば、これ以上の情報提示はしないと口を噤む。
「フリーデンハイド。アンジュに上から押し付ける物言いは逆効果ですよ。その様にゴリ押しをするのであれば、四方八方を封じてからダメ押しをしなさい」
神父様。私の攻略マニアルを言わなくていいよ。
確かに私が大人しくこの聖騎士団に居るのは神父様の策略があってのことだ。誰もいないと思って油断していた私の背後から現れて、どん底に叩き落す悪魔的な所業。
その神父様はおもむろに立ち上がって、私の方に来きた。そして、私に紙袋を差し出してくる。
こ……これは!『レメリーゼ』のお菓子!
私は紙袋をガシリと掴んだ。
しかし、神父様は袋を放してくれる様子がない。私は人の良さそうな笑顔を浮かべている神父様を睨みつけた。
「第3部隊の壊滅の理由はなんですか?」
「それだけでいい?」
「アンジュが話そうと思っていたこと全てですね」
「わかった」
交渉が成立する。お腹が空いている私はお菓子を手に入れたのだ!
紙袋を開けて、中から紙のカップに入ったマフィンを取り出して、かぶりつく。
オレンジピールが入った『レメリーゼ』の人気の定番商品だ。
あの親父は私の言ったことを守っているとわかって満足だ。人気の商品はレシピは変えずに作り続ける。これが案外難しい。
私の小腹は満たされた。横から朧がティーカップを差し出してきたので、受け取って飲み干す。準備が良いね。
そして、私は続きを話し出した。
「第3部隊の壊滅理由は恐らく、第10部隊より救助要請があったオーガの変異種です」
「何?」
「え?関係ないですよね」
そのことを依頼した団長と侍従から声が上がる。
一見すれば関係がない。第10部隊と第3部隊の任されている地域は隣接しているものの、要請があった場所はかなり辺境にあたるため、第3部隊とは関わりがあるはずはない場所だ。
「普通であれば、見逃すところです。変異種のオーガは西から東に向かって爆走中のところ、上空から単身で襲撃しました。しかし、そのまま放置していれば、ジジェル?「ジジェルクです」……そのジジェルまでたどり着き、街を蹂躙していたことでしょう」
ルディに訂正されてしまった。しかし、先程から背後の気配が増々悪くなってきているのは気の所為ではないはずだ。
「これが、第3部隊の壊滅理由です」
「しかし、ただのオーガの変異種だったのでしょう?」
侍従がオーガ如きに第3部隊が壊滅するなどありえないということを言いたいのだろう。
私の意見だけでは判断には足りないということであるなら、ルディがどう思うか聞いてみよう。
「ルディは彼らを見てどう思った?一部隊を壊滅させる力はあると思う?」
私はルディを仰ぎ見ると胡散臭い笑顔を浮かべているものの、その目は私の持っている紙袋を狙っていた。
私がもらったものだから、ルディにはあげないからね。紙袋を再び開けて、チュロスを取り出して食べ始める。うん。美味しい。
別のところから視線を感じて、そちらに目を向けると団長からも物欲しそうな視線で見られていた。だから、これは私の物だからね。
「そうですね。確かに一人ひとりの持つ力は将校並みです。ただ、力を奮うだけの存在であれば、危惧することはないでしょうが、思考し人の弱点というものを熟知しているところがあります。あとは強靭な肉体でしょうか。鋼のような筋肉は軽く振るうだけで、人の骨を打ち砕くほどの威力です」
あ、うん。大天狗の頭をかち割る程の威力だからね。そこは否定しない。何かとティオと酒呑が手合わせしているけれど、ティオの遊ばれている感が半端なかったよね。
「住民を盾にされれば、我々は手を出せない。護るものがある我々では市街戦となると分が悪くなるのは予想できます」




