180 『ここ重要』って言って欲しかった
『それにあの双子はなんでイヤーカフをしていないのよ!あれじゃ、どっちがどっちかわからないじゃない』
それは本人たちの問題だから、彼女が怒るところではないと思う。それに、そんな物に頼らなくても、私も神父様も見分けられるよ。
『名前を呼ばないと好感度が上げられない』
また、好感度って言った。でもこれで、私はわかってしまった。彼女も転生者であることが。
『なんか、主要メンバーの顔ぶれが違うし、会議のあの場で女性騎士なんていなかったはずなのに!』
流石に部隊長として女性騎士が立っている部隊はないけど、顔見知りの女性騎士の副部隊長は程々いた。その彼女たちは本来であれば、あの場にはいなかったと。
『それにこの時点で、3と12は壊滅状態のはずなのに、そんな話を聞かない。おかしすぎる。それに次は私が活躍するところなのに、謹慎って何よ!絶対におかしい』
彼女は知っていたんだ。第3部隊は第10部隊が見逃した酒呑と茨木が進んでいった先に駐屯地がある部隊だ。その第3部隊は酒呑と茨木によって壊滅状態になったのだろう。
そして、第12部隊は牛若丸(仮)と大天狗によって蹂躙されキルクスを中心に壊滅状態になっていた未来があると。その2つは私が阻止したから無事だったけれど、もしあの時行動を起こしていなかったと思うとゾッとしてしまう。私が知る人達が居なくなってしまったのかもしれないと。
【次】、彼女は自分が活躍すると言っているけれど、彼女からはほどんど魔力を感じない。それでどうやって活躍というものをするのだろうか。
『あー。このままだと最悪のパターンだし、使えない聖女だと、あの偽物の王の言うとおり産み腹直行じゃない。公爵家は全部黒。侯爵家は双子が爵位を奪い取るか、灰色の隊長が当主を殺さないと駄目だし……』
何かすごいことを堂々と口にしている。ヒューとアストが爵位を奪い取る?灰色ってことは第6部隊長のことかな。貴族だろうと思っていたけど、当主を殺すって何が起こったらそんなことになるわけ?
『後の侯爵家は黒。伯爵家では力が足りない。あの侍従は絶対嫌。というか、攻略法なかったし。一番無難な王弟は私を殺そうとするし、流石、人殺しは違うわ』
その言葉に私は怒りしか出てこない。あんたにルディの何がわかるって言うの!
『でも、王弟の妃に収まれば、産み腹は回避できるのよね。だけど、選択肢と同じ台詞を言ったのに、好感度上がっていないし、逆にマイナスになってるって、バグってない?もしかして、これは自力で攻略すろってこと?』
また、おかしな言葉が彼女から出てきた。人からの好感度が可視化しているように言っている。それはゲーム設定を引きずっていることになってしまう。
だけど、ここがゲームの世界かと問われれば、そうだと思うことはあるけれど、現実は厳しく甘くはないのは、あちらの世界もこちらの世界もそれは変わりはないということだ。
そして、私は勘違いをしていることを思わされた。私はてっきり聖女となることを進んで申し出てきたので、聖女の役割というものを受け入れていると思っていた。いや、説明がされていない可能性もあったのだけど、偽物の王様が彼女に対して伝えたと受け取れる言葉を言っていたことから、知らないわけではなかった。
そう、彼女は18禁乙女ゲームの本質である、複数の男性とのもにょもにょを拒否したいがために、高位貴族と縁を取り持とうとしていたのだ。そこになぜ平民の第1部隊長が入っているのかは知らないけれど……何かが頭の中に降って湧いてきた。
“おねーちゃん!推しのキラキラ貴族スチル、やっと手に入れたんだよ!”
“あれ?推しの騎士くんは平民って言っていなかった?”
“ちっちっち!おねーちゃん。私の推しが平民で終わるはずないじゃない。なんとプルエルト公爵の落とし胤だったのだよ!”
“お姉ちゃんに登場人物の名前を言われてもわからないからね”
……ブタ貴族の血縁だった!妹よ。重要なところは『ここ重要』って言って欲しかった。
いや、もしかしたら、周知の事実なのかもしれない。……と、考えると妹がやっていたゲームの結末が見えてきた。私はてっきり妖怪と戦って国を平和に導く聖女というストーリーだと、勝手に解釈していたけれど、いわゆる世代交代の歴史の一幕を描いたものだったと予想できる。
恐らくゲームの未来はルディが王位に付くことになったはずだ。そして、侍従が後に聖騎士団を率いる存在となり、その下にいる高位貴族の将校。
ここで問題になるのが、ルディと侍従だ。王様も含めあの兄弟は何かと人の命を奪おうという言葉を口にする。
物語のターニングポイントは白銀の王様の死だろう。そこで復讐を誓ったのではないのだろうか。
父王と母王妃の自死を選択した理由であり、兄王を死に追いやった高位貴族たちが掲げる聖女至上主義。
それは一種の下剋上だったと思われた。




