170 絶対に暇ですよね
「は?意味がわからないが?」
困惑した声で、お前の頭が大丈夫かという視線を私に向けてくるファル。私の頭は正常だ。
「アレからも報告を受けたけど、本当らしいね」
ファルの疑問に答えたのは私ではなく、何故か目の前でお茶を飲んでいる白銀の王様だ。昨日に引き続きこの第13部隊のぽつんと一軒家を訪問している王様。この王様は暇なのだろうか。
「第13副部隊長ファルークス。死亡説」
そう言いながら、澄ました顔でメモを取っているのは、侍従だ。
「それを言うならアンジュもだろう!」
自分の死亡説をメモられたファルは侍従に文句を言っている。
「それはリュミエール神父から、死亡説が出ていましたので、書き加えることではありません」
まぁ、それはルディを私から切り離すための強引な手段だった。その件はルディ以外には公然の秘密だったので、新たに問題視することではないのは確か。
それで、この場で何が行われているかといえば、いわゆる事情聴取というものだ。ことの発端という物は恐らくブタ貴族にあると思われるが、一番の被害を出したのはルディのため、上官からの聴取が行われている最中だ。そんな最中だというのに、私はなぜ、ルディの膝の上で抱えられているのだろう。そして、なぜ私が説明しているのだろう。
いや、ルディが口を開いても、『ぶっ殺してきていいか』しか言わないからだ。それで、仕方がなくファルと私が答えることになっている。
今は、聖女が発言したことを報告しているところだ。
「あの聖女の中では俺は死んでいるのか?そして、アンジュも。それから···」
ファルは言葉を止めてしまったが、聖女は何故か王様が瀕死で余命幾ばくもないと知っている。これはかなり問題視しなければならないことだ。まぁ、目の前の王様は元気だけれど。
「兄上の死期が近い説に、シュレイン第13部隊長が時期国王説ですか。それから、アレの存在を知っているとなれば、アレの言う通りに消した方が良かったのではのではないのですか?」
侍従がメモを書きながら、王様に聞いている。どうやら侍従も聖女の彼女の存在を危険視している。
そう、王家の問題を何故彼女が知っているのか。聖女だからと理由付けされればいいのだろうけど、月の聖女は太陽の聖女の受け皿と認識されている王族や上位貴族にとって、聖女の血を繋げることにしか意味を見いだせない。
ただ、これは条件がつく。太陽の聖女がいなければという条件だ。
「それも考えたのだけどね。このまま泳がしておけば、何かが釣れそうと思っただけだよ」
それはブタが釣れるという意味ですか?王様。
「それから彼女の目には何も映っていなかったようだしね」
ん?何も映っていない?
「アレの一族は代々、王家の闇を背負っているからね。母は絶対にアレを近づかせなかった」
それは代々あの血の海を受け継いでいるってこと?それはそれで恐ろしい。
「そうだよね?」
王様。私を見て尋ねないで欲しい。私は何も見ていません。私は無言のままで何も答えることはない。
「さて、アレから聞いた内容と一致しているのでそこは問題ないね。だけど、存在しないはずの第13部隊長を表に出したことは問題じゃないのかな?フリーデンハイド」
「その件ですが、私は容認していませんでした。どうも第2部隊長が関わっているようでして」
第2部隊長?知らない人物が出てきた。
「ああ、確かイグレシア家の者だったね。教皇の血を絶やしたかったなぁ」
王様。ここでポロッと問題発言を漏らさないでください。だから、ここで緊急会議する羽目になるのです!
「フリーデンハイドからの報告を聞く限り、イグレシアの者は色々好き勝手しているし、そろそろ始末してもいいんじゃないのかな?」
王様!ここで殺害宣言しないでよ。だから、毒を盛られることになったのでしょ!
「そうですね。今回の事は団長も、闘技場に第13部隊長が出てきたことで、どうなっていると私に尋ねてきましたからね。予想外だったのでしょう。しかし、貴方の後ろに控えていた私が何故知っていると思ったのでしょうね」
侍従、何気に団長を貶しているよね。後ろにいる事をわかっているのかと。いや、恐らくルディから連絡を受けているのかという意味だと思うよ。
前も思ったけどこの兄弟、姿は似ていないのに性格の悪さがよく似ている。
「じゃ、今回の責任はイグレシアの者に取ってもらうとして、聖女は騎士団本部内で謹慎だね。先日行った第6部隊の管轄地の常闇を封じたらしいけど、揉め事も起こしたみたいだし、今回のことと合わせて謹慎」
「了解しました。プルエルト公爵家の者はどうしましょうか?」
「ああ、そっちはシュレインが制裁を加えたからいいよ。当分の間動けないと聞いているからね」
ここで、重大なことを決めないで欲しい。そこは、王様と侍従の二人しか居ないところで決めて欲しいよ。そして、私はできれば部外者でいたい。
「兄上。あの女が謹慎だけというのはぬるいのではないのですか?」
ルディ。もう王様がそれでいいって言っているのだから、蒸し返さなくていいと思う。それで、聖女の彼女の呼び名が『あの女』に変わっていた。
ルディの怒りは収まらないようだ。