161 所有権
白銀の王様はお礼だと言って、私の目の前に魔石の山を作り、ルディには偽装の命令書は無視していいと一言残して帰っていった。
まぁ、精神安定剤の私を生贄にしておけば、ルディは大人しいだろうという見解なのだろう。一瞬、自由が手に入ると思ったのに、残念だ。
ぐふっ!ルディ、締めにかからないで欲しい。一瞬だって、一瞬。
「アンジュ。色々あって忘れてしまっていたが、指輪を作ってもらっていなかったよな」
あ、それを思い出したの?確かに以前、私が倒したドラゴンは番であったために、魔石は二つある。どちらも素材を購入したために魔石まで買い取るお金はないと言われ、泣く泣く保管をお願いしたものだ。
支払うお金ができれば、いつでも売るよと言っていたのだけど、冒険者ギルドからは一向に返事はなかった。
今思えば、神父様の手が入っていたのかもしれない。出金制限までかけてくるのだ。それぐらいしてもおかしくはない。私の世界旅行計画をことごとく潰してきたのだ。神父様であれば、やりかねない。
「今じゃなくてもいいと思うよ?」
先延ばしを提案してみる。
「駄目だ」
駄目ですか。うーん。王様は多分あの指輪を外せと言われることはないだろうから、言わなかったけど、実は注意事項があるのだ。
「王様には言わなかったけど、『守り石』には注意事項があるの」
「アンジュ!!」
王様大好きファルがお怒りのようだ。けれど、私は侍従と部隊長から言われてしまえば、一組織に属する者として否定することは出来ない。
「王様はいいと思う。誰も王様に守りの指輪を外せって命令出さないよね。それに効果が分かれば、王様自身も外そうと思わないよね」
私の言葉を聞いたファルは大人しく浮き上がった腰を降ろしたけど、私を見る目は何をやらかしたのだ言わんばかりの視線を向けてくる。
「普通の魔石ぐらいなら、それほど影響ないのだけど、空から降ってくる隕石も回避できるぐらいの幸運の呼び込む守り石って外すとその反動が大きくなると思うよ。試しにゴブリンキングの魔石で作った守り石をつけて、キルクスの北にある魔の山に登って帰りに外したら、それはもう魔物の海かというぐらいに襲われたからね」
だから、売り物の守り石に用いる魔石はクズ魔石なのだ。リザ姉にも守り石を渡したけど、あれはレンズを作った後に出た欠片の魔石で作ったので、質はいいけど、販売されているものより少し質が良いかなっていうぐらいだ。
「おい。単独であの魔の山に行こうというアンジュの心理の方がわからないが?」
私が話している間に段々と呆れたような顔になってきたファルに言われてしまった。心理といわれてもねぇ。
「だって、あそこまで行けば監視の目は届かないから」
魔物がうじゃうじゃいる魔の山で、私の持つ聖痕の検証や新しい技の開発など、人に見られてはならない事をするには丁度良かったのだ。
「アンジュ。そもそも魔の山に足を踏み込むこと自体が無理じゃないのか?」
ルディはそもそも監視の目があって、そこまで行くことが無理だという。確かに訓練という形でなければ、魔の山には入ることが出来ない。そう、教会を中心に一定の距離まで行けば、監視する者たちの邪魔が入るのだ。そんなことは初めからわかっている。しかし、監視の目の前で、天使の聖痕の能力の把握なんてできやしない。それは確実に恐ろしい未来に直行だ。
だから、私は先程王様が座っていた目の前の席に向かってパチンと指を鳴らす。
すると、魔石の山の向こう側には白銀の髪のピンク色の瞳もった以前よりも完全に子豚化している私の姿があった。
白銀の髪を一つにまとめ、白い隊服を来た仏頂面の私は目の前で、ティーカップを片手に、紅茶を飲むふりをしていた。
「え?アンジュが二人?」
ファルは驚いたように声を上げているが、私が幻影の私を出せることを知っているルディは納得したような、ため息がこぼれ出ていた。
「幻影ね」
そう言って、私は幻影の私を再び指をパチンと鳴らして消した。
「幻影の私に監視の目を向けさせて、私自身は自由に行動できたってこと」
「ん?それなら簡単に教会を抜け出せたんじゃないのか?アンジュは教会を出ていきたかったのだろう?」
私が教会をあまり好きではないことを知っているファルが言うが、お腹の締りが徐々にきつくなってくるのは気の所為だろうか。
「ファル様。子供が一人で生き抜くにはこの世界は厳しいって知ってる?生き抜く知識と力は必要。それにお金は絶対に大事!」
「お前のそう言うところは、昔から常識的なことを言うよな。その常識があるくせに、他のところがおかしい過ぎるって気がついているか?」
失敬なファルだ。そして、ルディを仰ぎ見て私は言う。
「だから、ドラゴンの魔石は換金するから、ルディの守り石はあそこの魔石の山から選ぶといいよ」
私は王様が置いて帰った魔石の山を指して言った。
「アンジュ。本音が出ているぞ」
ファル。うるさい。ドラゴンを狩ったのは私だ。その魔石の所有権は私にあっていいはずだ。




