160 殺人兵器は作っていません
「何か知っているのですか?」
侍従に尋ねられてしまった。これはどう答えるべきか。うーん。
私はヘラリと笑って答える。
「秘密です」
「上官命令です。答えなさい」
わぉ!上官命令と来た。これは困った。
「上官と要相談で」
私はすぐさま声が漏れないように結界を張り、後ろを振り向く。
「ルディ。困った。説明が出来ない」
「何故だ?」
「えっと。太歳って大きな湖のところで常闇と一緒に押し戻した、気味が悪い肉塊のことなの。あれは本当に危険で地中の中を移動する厄災。外に出れば死を撒き散らすという恐ろしいモノだったの。説明をすると、常闇を閉じたことを言わないといけない」
私がそう言うと、ルディは一瞬考える素振りを見せたが、私が張った防音の結界に魔力で干渉し壊した。
あまり強固には張っていなかったけど、簡単に壊されるなんてちょっとショック。
「フリーデンハイド。以前、セスト湖の任務を言われた時に巨大な骨と一緒に始末したものがそうだったらしいです。報告書に上げたのは巨大な骨のことだけでしたが、アンジュが言うには、骨よりも一緒に始末したモノの方が危険なものだったと。ただ、見た目は赤い肉の塊だけだったので、そんな大層なものには見えなかったのは事実ですね」
赤い肉の塊だけど、気味が悪いほど目が付いていたけどね。
ルディの言葉に納得したようで、していない雰囲気の侍従はそれ以上突っ込んでくることは無かった。隣のファルは不可解な顔を私に向けてきたけど、視線を送って突っ込んくれるなとアピールする。
「で、それがなぜ第6部隊長の恋人が死んだという妄想になるのかな?」
白銀の王様が疑問を口にするけど、私は聖女本人じゃないので答えられない。そう言えば、これもヒューとアルトがおかしな事を言っていた。
「ねぇ。ヒュー様とアスト様がイヤーカフを外したのって、いつぐらいだった?」
私は後ろを振り向いてルディに聞いてみる。あれは私が3歳か4歳ぐらいだったと思う。気がつけば二人はイヤーカフを外していた。
「確か···14歳の春ぐらいでしたか?それがどうしましたか?」
「ヒュー様とアスト様が変なことを言っていたの。聖女様から『なんでイヤーカフをつけていないの』って、そんな10年近く前のことを何で彼女は知っているのかな?ヒュー様とアスト様は気味が悪いって言っていた」
「それはおかしな話だね。彼女には普通の人が見えない何かを見ているのかな?」
白銀の王様が聖女は常人では見えないものを見ているのではと言葉にした。確かに見えるものがある。言われてみれば納得できることだ。
「聖女のことも問題だけど、そろそろプルエルト公爵を始末した方がいいかなぁ」
白銀の王様が物騒な事をボソリと呟いた。ここで殺人宣言をしないで欲しい。するなら、こっそりと、バッサリとロリコン貴族を始末して欲しい。
「兄上。そんなことを堂々と口にされるから、毒を盛られることになるのです」
王様の隣にいる侍従が諌めているが、それは堂々と口にしていたのなら、次は自分かもしれないと、何かしらの対策を打たれることになるだろう。
こんな事を口にしてしまう王様だから、ルディも侍従も王城ではないここで話し合おうとしたのかもしれない。
で、話し合いって結局なんのことだったのだろう。聖女を誰に押し付けるかという話し合い?でも、聖女が住む屋敷に出入りしている人がいると聞くから、嫁の貰い手ぐらいいるんじゃない?
「それで王様はなんでここに来たの?」
「アンジュ!!」
ファル、声が大きいよ。だって、これだと昼ごはんを食べに来たのかと思ってしまうからね。
すると白銀の王様はクスリと笑った。
「そうだね。君に会いに来たと言えばどうするかな?」
私に?王様が私に会いにくる意味ってないと思うけど?
「会ったなら、もういいよね」
「アンジュ!目の前におられるのが陛下だとわかって言っているのか!」
わかっているし。本当にファルって王様のこと大好きだよね。そして、王様はこの状況がおかしいと言わんばかりに笑っている。
「クスクスクス。先日、作ってもらった指輪のお礼をしようと思ってね。あれから、本当に不思議なくらい僕にとって目障りな者たちが目の前から排除されていってね。ここまで気楽に過ごすことがなかったから、本当に感謝しているんだよ。だから、何かお礼ができないかと思ってね」
え?私は別に殺人兵器を作ってはいない。目の前から排除って何?恐いから、お礼はいいよ。王様は自分の仕事をして欲しいです。
「お礼はいいです。私は護りの指輪を作っただけで、殺人兵器は作っていません!」




