158 過去は過去です
「これ美味しいね。この前なんだかわからない物を出されて、一口食べて食べるのやめてしまったよ」
なぜ、私の前に白銀の王が私の作った昼食を食べているのだろう。それも私の作った丼をスプーンで食べていらっしゃる。貴方は王城に居るべき人じゃないのでしょうか?
今日も朝早くからウキョー鳥に叩き起こされ、ルディとの攻防の末、やっと朝ごはんにたどり着いたときに言われたのだ。今日は王城に行くから大人しくしているようにと。
私は表情を出さずに内心喜んだ。
自由だー!!と。
だが、第13部隊のぽつんと一軒家から出ないようにと言われた。どうも、明日の公開演習に備えて、外部の者が出入りするそうで、面倒が起こることは避けるようにと言われてしまった。
仕方がなく私は素直に頷いておく。散歩をしたいけどね。
仕方がないので朝からぽつんと一軒家に行けば、居間兼プレイルームでさめざめと泣くヴィオがおり、ミレーが慰めていた。どうも今年ヴィオの弟が入ってきているらしく、色々言われたらしい。不出来な姉の代わりに公開演習で活躍してやるという感じのことを言われたようだが、もう帰ってくるなというような事も言われたようだ。
私がぶん殴ってやろうかと言ってみると、「駄目ですぅ」と涙ながらにヴィオから言われたのでやめておく。
どうも家族が公開演習を観に来るらしく。絶対に顔を出すなということをわざわざヴィオが住んでいる宿舎まで言いにきたらしい。そこにミレーもいて、ヴィオは悪くないから泣く必要はないと言っている。何なら雷撃を落としてきましょうかと言われていたがそれにも「駄目ですぅ」と答えていた。
ヴィオの駄目はどういう意味の駄目なのだろう。何を言われても弟だからという意味なのか。相手をすることはないという駄目なのか。ミレーの雷撃の余波が及ぼす被害を予想をして駄目といっているのか。どれなのだろう。
と考えている横で、ティオが何故か酒吞に食ってかかっており、松葉杖を使わなくてよくなる程回復したようで、手合わせしろと言っている。
部屋の端ではシャールと茨木がチェスのような対戦ゲームをして遊んでいる。まぁ、仲良くできているようだ。
それを横目に私はキッチンに籠もり、昼食を作るのと大量のドラゴンの肉を保存するために、燻製にしようか、塩漬けにしようかと考えながら、米を研いでいた。昨日の麦飯を見ていたら、やっぱりお米が食べたいと大量の米を炊こうとしていたら、ルディが転移で現われたのだった。
何かと便利に使われているよね。『束縛の腕輪』
「アンジュ。何もなかったか?」
「え?ルディが出て行って1時間も経っていないのに、何があるわけ?」
朝食を食べ終わって、早々に部屋をルディが出て行って、その後出勤時間に合わせて第13部隊の詰め所に来て、ヴィオの話を聞いて、キッチンに来たのだから、何かある方がおかしい。
私はそう思いながら、お米に水を吸わすためにザルに上げておく。
「会議が始まって1時間もしない内に、転移で吹っ飛んできたが?」
はい、そんなこともありました。あれは仕方がなかったと思う。だって、転移される範囲が分からなかったからね。
「過去は過去っていうことで?ルディがここにいるってことは、早くに話し合いが終わったんだね」
何を話し合いに行ったかわからないけれどね。
「終わっていない」
「え?」
「あそこは色々な者がいるから、あそこで話すべきではないと場所を変えることになった」
「場所を変える?」
「あと1時間後に兄上がここに来る。恐らく、フリーデンハイドも来るだろう」
「何故ここに?」
別にここでなくてもいいはず。それも王城で話せないことをここで話し合いしないでよ!
「ここは滅多に人が近寄らないからな」
それはそうかもしれない。はみ出し者の寄せ集めの第13部隊。
でも、どうやってここに来るのだろう。普通であれば、外部の者は聖騎士団の敷地内に入れないはず。
そう思いながら、私はドラゴンの肉の塊からスライスを作り出していたのだった。
そして、冒頭に戻るのだった。昼前に来た白銀の王様は来て早々にお腹が空いたと言った···らしい。私はキッチンに籠もって牛丼ならぬ、ドラゴン丼の肉を煮込んでいたので、その言葉を聞いてはいない。
ルディに作っているものを出して欲しいといわれたが、ご飯がまだ炊けていないと却下した。王様、お城でご飯ぐらい食べてきてよ。
仕方がなく何時もより早めの昼食にして、王様にドラゴン丼を出したのだ。王様は美味しいねと言いながらスプーンで丼を食べているけど、隣にいる侍従は無言で黙々と食べている。
あの?家畜の飼料ですがって説明していないけどいいかな?後で文句いわれても困るのだけど。
ちらりとルディを伺いみると、胡散臭い笑顔で食べており、ファルは以前食べた後で、家畜の飼料だと説明をしているから、スプーンを持ったままドラゴン丼をガン見して、ちらちらと周りの様子を伺っている。そして、私に非難する視線を向けてきた。きっと、何ていうものを出したのだと言いたいのだろう。
美味しいから良いじゃない。大好きな王様も喜んで食べているよ?




