157 それはアンジュの正しい使い方だ
「そうなんだが、そこで、2つ提案がある。腕が折れている理由で棄権するか、準々決勝ぐらいで敗退するかだ」
え?それはもう一択しかないよね。
「私、イスラに腕を折られたので、棄権します!」
うん。貴族の前で目立つことはしたくない。ヒューとアストにもバレてしまったので、何がきっかけでバレるかわからない。
「まぁ、それが一番いいだろう」
選択肢というか、元から一択しかなかったと思うけど?一応、私の意見を聞いたという体裁を整えたかったということかな?
ファルは納得したように頷いて、食事を再開させた。
しかし、公開演習かどんなことをするのだろう?ちょっと気になる。こっそり見に行ってみようかな。
「アンジュ。駄目だぞ」
ルディ。私の心を読むのはやめて欲しいな。あと、お肉はもういらないよ。
「だって、気になるし、どういうことするのかなって」
するとルディもファルも苦笑いを浮かべた。え?その笑いはなに?
「アンジュが見ても興ざめするだけだ」
ルディは見る価値もないと言わんばかりだ。
「教会でやっていた、集団訓練と全く同じだ」
ファルが内容を教えてくれたけど、教会の集団訓練って、陣形を組んで班長の指示通り動いて敵を追い込む、知略と戦術が物を言う訓練だよね。何処が興ざめなのだろう。班長によって戦略が違うから面白いと思うのに?
「アンジュ。期待しているようだが、教会の訓練ほどじゃない。そうだな、10歳児ぐらいの集団訓練ぐらいか?」
「ファルークス。まだ、キルクスの10歳児の方がましだ。全然指示通りに動かない部下など必要ない」
はっ!私のこと!いつも集団訓練じゃ遊撃隊にされていた。『アンジュは一人で遊撃隊ね』とか『アンジュ。取り敢えず、後で旗を守っていろ』だとか仲間はずれだった!暇だから、トラップを仕掛けていたら神父様に拳骨をくらうし、スナイパーのように遠くから相手の子達を撃退していたら、シスター・マリアに訓練の意味合いが違うとお説教をされてしまった。私、必要ない部下だったんだ。
「なんで、アンジュが落ち込んでいるんだ?」
「集団訓練じゃ、一人遊撃隊だとか、後方の旗の護りをさせられていたなと思って」
私の答えにファルがため息を吐いた。やっぱり、呆れるよね。
「はぁ、アンジュ。それはアンジュの正しい使い方だ」
使い方!使い方って何!私が邪魔だってこと?
「アンジュは一人で数十人分の動きをするから、敵を撹乱する役は適任だし、アンジュが拠点の護りにつけば、容易には近づけない。だから、その作戦は定石といっていい」
定石!だから、誰が班長になっても私は仲間はずれにされていたんだ。
「そんな訓練をしているアンジュからすれば、お遊びのようでイライラするだけだから、見る必要もない」
ルディがバッサリと話を切ってしまった。
ちょっと気になったのに、残念だな。その日は外をうろつかない方がいいってことだね。
シュレインとファルークス Side
夜中の薄暗い部屋の中で、ワインを傾けているファルークスの向かい側では、難しい顔をして一枚の紙を眺めているシュレインがいた。
「で?なんだって?」
団長に報告に行った時に侍従フリーデンハイドから、渡された一枚の紙だった。その内容を読んでいたシュレインは段々と険しい表情になったのだ。それはファルークスも気になるだろう。
「見るか?」
そう言って、シュレインは向かい側に座るファルークスに読んでいた紙を差し出す。差し出された紙をファルークスはワイングラスをテーブルに置き、手に取った。その紙に記されている文字を目で追うごとに、ファルークスの眉間にシワがよって来た。
「これは誰の指示だ?」
「さぁ、兄上ではないことは確かだ。兄上の名を騙った誰かだろうな」
その紙の一番下には『スラヴァール・ファシーノ・レイグラーシア』というサインがされているが、シュレインはそのサインは偽物だという。
「それで、どうするつもりだ?」
「誰が、あの偽物の聖女を娶るものか」
どうやら、王族であるシュレインに聖女シェーンを娶るように指示を出してきた者がいるようだ。
「明日、兄上のところに行って、相談してみるか。この指示書はどこから来たのかも調べなければならない」
「おい、あまりスラヴァール陛下の負担になることをいうなよ。あの人は病み上がりなんだからな。わかっているよな」
シュレインが兄王のところに向かうと言葉にすれば、ファルークスは腰を上げシュレインに食って掛かるように、国王の負担になるような無理難題を言うなと言葉にする。
白銀の髪は神聖なる聖女と同じ色。その同じ色をまとうスラヴァール王は神ごとき王。従兄弟であり、粛清するために容赦のない決断力。そして、幼い頃から王としての力量を発揮した賢王。
全てがファルークスにとってスラヴァール王を敬愛する理由になるのだった。




