154 不吉な双子と言われた者たち
帰ってきたよ。やっと王都に。もう、後ろの魔王様のご機嫌が超絶に悪くて、居心地が悪すぎた空の旅も、やっと···やっと!日が暮れて終わりを告げた。
何度、ファルのワイバーンに飛び移ろうかと考えたほどに。しかし、私が身動きを取れないように腰をガシリと抱えられていたため、飛び移ることを諦めた。
え?第6部隊の担当地区がどうだったかって?それは勿論以前第10部隊が担当していた場所と同じく、大きな常闇があった場所に私の魔力が大量に残されており、他には何もない状態だった。
だから、ルディの機嫌が悪いのだけど。
騎獣舎に戻ってきて私はやっと魔王様から解放された。今、私は騎獣舎の前でぐぐっと伸びをして、解放感を味わっているところだ。
ルディはワイバーンを騎獣舎に戻しているため、ここには居ない。
「あ、アンジュだ」
名前を呼ばれて振り返れば、金髪金眼の同じ顔が二つ私を見ていた。ヒューとアストだ。そして、私に声をかけたのはアストの方だ。
「ヒュー様、アスト様。どこかにお出かけですか?」
騎獣舎の前にいるのだから、今から何処かに行くのだろうか。何かあれば、24時間体制で動くことを強要される聖騎士団だ。日が暮れてから動くものあるらしい。第13部隊には関係ないことだけどね。
「アンジュ。お前どこかに行っていたのか?」
ヒューが私に聞いてきた。まぁ、騎獣舎の前に私がいることの方が珍しい。
「キルクスに行っていた?帰っていた?ちゃんと手土産持って帰ったよ」
「そうなの?アンジュは偉いね」
そう言って近づいてきて私の頭を撫ぜているのはアストだ。きっとアストの中では私はまだ幼子なのだろうか。
「昨日は何処にいたんだ?」
またヒューが質問してきた。いったいどうしたのだろう?
「昨日の朝から王都を出て、キルクスには昼ぐらいに着いて一泊して、今王都に帰ってきたところ」
何が聞きたいのかわからないから、昨日からの行動を教えた。王都とキルクスの往復しかしていないと言えば、二人して変な顔をされた。
「だったら、あれはなんだ?」
「アンジュなら、あれぐらいのことをしてもおかしくはないと思っていたけど?」
だから、いったい何の話?
「「あの聖女からアンジュの魔力が大量に放出されていた。アンジュが裏で何かをしてたわけではない?」」
ふぉ!ステレオスピーカー!!というか、私の背中に冷や汗がたらりと流れた。わかる人にはわかってしまっている。私が天使の聖痕を持っていることはバレてはいけない。どう説明するべきか。
「え?よく意味がわからないよ?」
取り敢えず、すっとぼけてみた。すると側にいたアストがガシリと私の肩を掴んだ。そして、私の目を覗き込むように見る。だから私は視線を下げ、虹彩の中にある聖痕を隠す。
「うん。わかった」
何が!!何がわかったの!アスト!!
「原因はアンジュだったよ」
アストは後ろにいるヒューに向かって言った。
何、何、何、何!!何がわかって、何故私が原因と判断したんだ!
「うん。うん。おかしいと思ったんだ。あの聖女が力を使えていること。朝から転移で駐屯地に来てさぁ。色々騒いで、あちこちウロウロして、隊長をブチ切れさせて、やっと常闇を封じるって言って3時間も祈ったポーズのまま動かず、昼過ぎに辺りが光に満ちたかと思えば、常闇が消えていたんだよね」
色々つっこみどころがある事を言われた気がする。確かに、ファルとよく二人は話している姿を見かけたから、高位貴族なのかもしれない。だから、聖女には月の聖痕と太陽の聖痕を持つ対になった聖女が存在することを知っているだろう。これは完全に私が太陽の聖痕を持っていることがバレている?なぜ、バレた?聖痕は隠しているのに?
それにしても、あの聖女は何をして第6部隊長を怒らせたのだろう。第6部隊長が誰かは私は知らないけれど。
取り敢えず、この二人の口を封じる?死人に口無しって言うしさぁ。過去の聖女のような扱いをされるのは、御免だね。
私は視線を上げると、目の前には同じ顔が二つ揃っていた。
「アンジュ。お前、物騒なこと考えているだろう。アストは『追憶の聖痕』を持っている。相手の過去の記憶をたどれるんだ。そして、俺は『仁の意の聖痕』だ。人の意志を行動を感じ取れる。アンジュが心配することは何もない」
「そうだよ。何も心配することはないよ。それにシュレインを怒らすのは恐いしね。今もすっごく怒っているし」
ん?それは騎獣舎の中ですれ違ったってこと?確かに今日は魔王様モードだったよね·····え?なんで、空がひび割れているのだろう。私の視界にはヒューとアストの背後の空がまるで、卵の殻を叩き割ったかのように、ひび割れていた。
なんで、裂けるようなヒビが空間に入っているのだろう。




