151 力技で解決?!
「一つ言っておきたい。アンジュには感謝はしているが、強引な力が技には些か問題だと思っている」
そう言っているのは、淡い金髪で菫色の瞳を持った気だるそうな雰囲気をまとった人物だ。
ああ、この人は見たことある。普段はダルそうにしているのに、訓練中はキリリとした感じになって、そんなに訓練が好きなのかと思ってしまった。後でファルに聞いてみると、神父様に膨大な課題を与えられてから、訓練は真面目に受けるようになったらしい。
この人物がギルらしい。
というか先程から気になるのが、そのギルの斜め後で直立不動になっている人物だ。
まぁ、わかるよ。ルディの機嫌が悪いからね。そう、朝が早すぎたために、キルクスのケーキ屋さんはどこも開いていなかったのだ。しかし、遅くなると王都に着く時間も遅くなるため、北地区にある団長行きつけのリリーマルレーンのお菓子屋さんに行く約束をして、何とか第12部隊の駐屯地まで来たのだった。
だけど、ルディが機嫌が悪いことには変わらない。
「ガゼス兄。久しぶり!」
「おい!俺の話を聞いているのか?」
ギルに何か言われているけど、知っている人がいるなら、挨拶をするべきだ。
私が軽く挨拶をすると『ヒィッ!』と軽く悲鳴を上げ、ギルの背後に隠れてしまった。あれ?もしかして私が原因?
「え?なんで隠れるの?」
私が疑問を口にするとガゼスは床にしゃがみ込み、ギルが座っている長椅子の後ろに隠れてしまい、見えなくなってしまった。そ、そこまで私が嫌われている!何故に!
「なぁ、アンジュ。お前、ガゼスに何をしたんだ?お前への拒否反応が酷すぎるのだが?」
ギルに問われてみたものの、私がガゼスに何かをした?はて?
考えてみてもさっぱりわからない。すると、背後から扉が開く音が聞こえ、誰かが入ってきた。
「それは、アンジュちゃんの暴走の余波をくらったからよー」
後ろの扉から入ってきたのはリザ姉だった。あれ?なんでここにリザ姉がいるんだろう?
「リザ副隊長。余波ってなんだ?」
ギルがリザ姉に聞いているが、私には何が余波なのかわからない。いや、言葉の意味はわかるよ。だけど、ガゼスに何かした覚えはない。
「確か六年前だったかしら?冒険者ギルドでガゼスと数人とで依頼を受けた帰りね。冒険者ギルドに入ると騒ぎが起こっていて、その中心に焦げ茶色の髪の女の子とアンジュちゃんがいて、冒険者たちと言い合っていたのよね」
そ、それは10歳のときにカーラをかばっていたときの話では?
「口で敵わないと思ったのか、相手の冒険者達が、アンジュちゃんに拳を振り上げたのよ。その時私は逃げようって言ったのよ?でも、ガゼスと数人があれはヤバイって言って騒ぎの元に行ったのよ。何がヤバイって、勿論相手の冒険者達がボコボコにされる未来しかないってことね」
あ、うん。その時のことは覚えているよ?カーラのことを馬鹿にしていた冒険者達にカーラの何が悪いのか!人は見た目じゃない!っていい続けていたら、相手が私に向かって殴りかかって来たんだよね。
「案の定。アンジュちゃんは相手の冒険者をボコって、その騒ぎを聞きつけた他の冒険者たちも混じりだして、大乱闘の中に止めようとしていたガゼスたちも混じっていて、死屍累々をアンジュちゃんが生産していったのよ」
まぁ、その後神父様がやってきて、脱兎のごとく逃げ出したけれどね。
しかし、あの中にガゼスが混じっていただなんて知らなかった。向かってくる敵をぶちのめしていただけだったから、全然気づかなかったよ。
「アンジュ。もう少し周りを見ろ、どうせシュレインはお前の暴挙を許しているんだろう?」
いや、全く。色々小言を言われ続けているよ。
「でも、今回の事は神父様の許可がでました。怪我をするほうが悪いと」
私は反論する。恐らくギルが言いたいのは『旋風の静寂』のことなのだろう。今回は常闇から出てくるモノの被害を受けるか、私の攻撃で怪我をするかのどちらかの選択肢だった。
神父様は予測不可能な異界のモノによる被害よりも、私の攻撃でこの辺りに一帯にいる人を排除することを良しとしたのだ。
「いや、わかっているがな。あれを見てしまったからには、それが正しかったと理解してはいるが、納得はできない。もう少し自重しろ。あと···まぁ····なんだ」
ギルは突然歯切れが悪くなった。私に文句を言って、まだ何かを言うつもりなのだろうか。
「アンジュちゃん」
リザ姉が私の名を呼んだ。なんだろう?昨日王都にいたはずのリザ姉がここに居るのと何か関係があるのかな?
「お皿じゃないのね」
「は?」
「ぶぐっ!」
お皿って何?ファルは何故吹き出しているわけ?
リザ姉は手のひらを頭の上に掲げて、もう一度『お皿』って言った。これはまさか!私は思わずリザ姉の側に駆け寄る。
「見たの?」
「見たの」
「え?昨日王都にいたよね」
「ギルフォード副部隊長に呼び出されて丁度キルクスに着いたときだったのよね」
何と!!まさか、天使の聖痕を掲げた姿を他の誰かに見られていたなんて!!




