148 聖王と聖女の物語
「太陽の聖王と月の聖女が始まりの王族と記されています」
始まりの王族?あれ?てっきりこの国の話だと思ったけれど、違うってこと?
神父様は物語を語るように淡々と話を続けている。
「太陽の聖王と月の聖女はこの世を楽園にしようとしていたのです。飢えも苦しみもない世に」
え?無理でしょ。そんなことは有り得ない。
「太陽の聖王は飢えることがないように、作物が実り続ける昼の大地を作り上げました」
作っちゃったの!どうやって?作物が実り続けたら、その内、土の養分が無くなって、何も作物ができない土地になりそう。
「月の聖女は人々の心が穏やかになる安寧なる眠りの夜を作り上げました」
こ··これは精神操作じゃないの!いや、確かに精神操作すれば、人々の間に争いは生まれないとは思うけど、それが幸せだとは限らない。
「確かに楽園と言えましたが、あまりにも強大な力を使い続けたために、世界が悲鳴を上げ始めたのです」
わかるよ。絶対に無理があるもの。精神操作は駄目だよ。
「太陽が昇らなくなり、水は腐り、風は凪いで、季節を運ばなくなり、大地は黒ずみ何も生み出すことはなくなりました。
そして、世界に亀裂が走り、異形なるモノ達が世界に溢れ始めたのです。聖王は太陽の火で異形なるモノを焼き払い、聖女は闇を月の光で満たし亀裂を閉じていきます。何年もの戦いの末、聖王と聖女は世界を守りきり世界にひと時の平穏が戻ったのです。
しかし、その世界は楽園とは程遠く、異形なるモノが人々の生命を脅かし、冬は凍てつくように寒く、夏は大地がカラカラに乾くほどに灼熱にさらされるようになったのです。
聖王はその生命を持って凍てつく冬を身を寄せ合えば生きることができる冬にし、聖女はその生命を持って灼熱の夏を恵みの雨が降る夏に変えたのでした。
だた一つ、人々の生命を脅かす異形なるモノ達から身を守るために、人々は身を寄せ合い、街を作り、国を作り、戦う者達を作っていったのです。その者たちとは世界に還っていった聖王と聖女の欠片を宿して生まれてきた者達なのです。
ですから、彼らは戦わねばなりません。聖王と聖女の罪が消えるその日まで」
「最悪じゃない!何でお花畑みたいな脳ミソをもった聖王と聖女の尻拭いのために戦わないといけないのか、さっぱりわからない!」
思わず叫んでしまった。最悪の何ものでもない。馬鹿な考えをもって、恐らくだけど世界の力というモノを使って、世界全体の変革をもたらそうとしていたのでは、ないのだろうか。
世界の力が枯渇すれば、それはひび割れて魔物という負の要素が入り込んでくるだろう。
そして、この話を聞いてわかってしまった。聖痕とは何か。それは、世界の力を世界から引っ張り出すための媒体。聖痕の力を使用するのに魔力は使用しない。使用するのは世界の力。
聖騎士は世界の力を使って、この世界に侵入してきた異形なモノたちを排除していく。だけど、世界は力が枯渇し別の世界から力を得ようと妖力というものを使う妖怪達を呼び寄せ、世界がその力を食らう。しかし、そのためには世界のキズをひろげなければならず、その修復のために太陽の聖痕と月の聖痕が必要だと。なんという悪循環。
そして、月は太陽の受け皿。太陽の力を···恐らく魔力を聖痕を通して使うことができるが、太陽の聖痕は世界の力を大いに使ってしまうため、頻繁に発現することは不可能。だから、約100年から200年周期に生まれてくるのだろう。
これを踏まえると、故意に聖女を作り出そうとするのは無理だということがわかる。狂信者どもは、この話を知らないのだろうか。知っていれば自分たちが行っていることが、無駄だということに気がつくはず。
ああ、だから聖女に頼らない国を作るということか。結局、世界を守るために太陽の聖痕を使ってしまっては意味がないと。世界を疲弊させれば、人々の暮らしが魔物だけではなく、世界からも生命を脅かされるということになるのだ。
私は大きくため息を吐いた。これは聖王と聖女という者を作った世界が失敗したということではないのだろうか。よかれと思ったことが、己の首を絞めていることになってしまったと。
恐らく一番いい方法は月の聖女が私の魔力を使って、全ての常闇を閉じてしまうことが一番いい。そして、聖痕の力を使わずに聖水と剣を持って魔物を駆逐していくのが、世界に傷を広げない一番いい方法なのだろう。だけど、それにはとても膨大な時間がかかることだし、多くの生命を失うことにも繋がるだろう。
ということは、やはりどこからか世界の力になるモノを世界に食わせなければならないということか。
若しくは、世界を壊すか。
そう言えば、ゲームのエンディングはどのようにして終わったのだろう。めでたしめでたしだったのだろうか。それとも悲劇のヒロインで終わったのだろうか。
もう少し真面目に妹の話を聞いておけば、よかったのかもしれない。