146 王家の影
「神父様。取り敢えず、ぶっ殺していいですか?」
私はルディの父親と母親の死を聞いたところで、神父様に聞いてみた。何を殺すか。勿論、狂信者共をだ。
「だめですよ。アンジュの場合は無差別殺人になりますからね。それに、何度も言っていますが、貴族に手を出したらアンジュは死より恐ろしいことになりますよ」
神父様は恐ろしい脅し文句を言った。R18禁の事態になると言っているのだ。
「ちっ!」
思わず舌打ちが出てしまった。これは人知れず暗殺するべきじゃないのだろうか。
「アンジュ。闇討ちは王家の影に邪魔をされるのでやめておきなさい」
私の心を読まないで欲しい。しかし、神父様がなんかおかしな事を言っている。私が始末したいのは高位貴族であって、王族ではない。
「なぜ、王家の影に邪魔されるのかと思っていますか?」
神父様の問いにコクリと頷く。
「簡単な理由ですよ。侯爵以上の者たちは少なからず、王家の血が入っていますからね」
「それは王位継承権に関わってくるからですか?」
「そうですね」
言われてみれば、そうなのかも知れない。公爵は王族公爵と臣民公爵があるけど、今現在王族公爵はいないと教えられている。もし神父様が公爵の地位を得れば王族公爵になることだろう。
ん?でも神父様の息子という人物が居たはず。
「あの神父様に強制的に王都に行くようにされたときに、神父様のご子息という騎士がいたのですが、その人も王族にはいるのですか?」
「強制的とは失礼な言い方ですね。ラファーガは母方の遠縁の子を引き取っただけですから、王族にはあたりませんよ」
母方ということは、前王妃様の親戚筋の子だってこと。その遠縁の子を養子にしたってことか。それなら、なんとなく似ていることも頷ける。でも、胡散臭い笑顔は似なくて良かったと思うよ。
「そして、スラヴァールが王位に立ったときに大将校の地位から降ろされましてね」
「ちょっと待ってください!」
私は思わず右手を上げて神父様の言葉を止めた。おかしい。おかしすぎる。何故、第二王子であり王太子であった神父様の進退を第三者が決めることになるのだろう。騎士団という組織は王族の権力に屈しないということなのだろうか。
「この国の王族とはなんですか?余りにも貴族の言いなりですよね」
「アンジュ。聖騎士団の最高権力者は誰ですか?」
神父様が呆れ気味に聞いてきた。聖騎士団の最高権力者····一番トップは教会組織の最高権力者である···
「教皇です」
「そうですね。教皇に命じられれば、一組織に身を置くものとしては、その法に準じなければなりませんよね」
言われてみれば、そうなのだけど、今現在教皇は存在しない。教会の今の最高権力者は枢機卿が3人存在し、協議した結果を各教会に周知している。
「そういうことで、スラヴァールから離され、キルクスの神父として着任したのですが、スラヴァールも中々の子でしてね。10年間で13家の高位貴族の当主の首を挿げ替え、教皇を退け、その甥だった大将校を排除したのですよ」
うわぁ~。あの白銀の王は色々手を下したみたい。だけど、その大将校は恐らくルディが関わっていたことだろう。
え?でも、王に立った歳が8歳だと言っていたから、8歳から18歳の間で両手では足りない人数を排除してきたようだ。それはあり得るのだろうか。いや、もしあの白銀の王の偽者の人が、それを実行していたとしたら、あの他の人には見えない血の池もわかる気がする。
だから、また私は右手を上げて神父様に質問する。
「偽物の王様が手を下した張本人ですか?」
すると、ルディとファルから息を飲むような引き攣る音が聞こえたが、神父様はニコニコとした笑顔を崩さず、答えてくれた。
「そうですよ。彼が王家の影の長ですからね」
あ、そこまでの情報はいらない。YesかNoで教えてくれればよかったのだけど。
「しかし、スラヴァールはやり過ぎましてね。きっかけは聖女に頼らない国を作ろうと発言したことでしたが、『警世の毒』を使われまったのですよ。普通であれば、四肢が不自由になる程度の毒なのですが、呼吸もままならない程の量を盛られましてね。動けないスラヴァールの代わりに、その王家の影の者がスラヴァールに成り代わったのです。彼自身かなりの者達を排除してきましたから、いい牽制にはなっていますよ」
すごくいい笑顔でそんなことを言わないで欲しい。しかし、これで偽物の態度が悪い王様のあの状況が理解できた。
普通の人が目に見ることができない血の池。その血の海に沈み込んでいるモノ。偽物の王の周りにいるモノ。呪いの言葉でも吐き捨てるかのように、恨みつらみを言い続けている人の形をしたモノたちは殺された貴族の者達だったのだろう。




