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聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜  作者: 白雲八鈴


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閑話 ある日の教会の朝 2

「そのAランクの冒険者たちがね」


 アンジュは名前を言うのを諦めて話の続きを始めた。


「どうも、るでぃ兄の事を知っているみたいだったの。出来損ないの黒虫だとか、兄の出がらしだとか、黒いゴブリンはここで始末しておかないととか言うものだから、締めてあげたの」


 アンジュはリザに天使のような微笑みを向ける。言葉と表情が全く合っていなかった。

 その笑顔を見たリザは相変わらず見た目()可愛いわねと思っているが、これはとても良い仕事をしたというアンジュの顔であることがリザには理解できたので、アンジュの言葉を遮らずに聞き手に徹した。


「でも、Aランクっていう割には、すっごく弱かったの。この街にいるレクトさんやヨクスさんの方が強いと思ったぐらい」


「アンジュちゃん。レクトールマルトさんはSランクよ。それにヨクスメディルさんはもうすぐSランクになるって噂だから、都会のお坊ちゃんと比べたらだめよ」


「所詮、この世は金ってことね」


 アンジュはリザの言葉から冒険者のランクを金で買ったと判断したようだ。しかし、アンジュの強いという認識はSランクの冒険者だと言う。それは、憧れの人物に値することなので当たり前だと言えば当たり前だ。


「それから、何故か。俺も殴ってくれだとか、踏みつけてくださいとかいうゴミ虫が湧き始めて、るでぃ兄が私を抱えて冒険者ギルドを出ようとしたのだけど、人垣が酷くて出られなくって、何だ何だと人が集まり始めて収拾がつかなくなったから、向かって来た者たちをシバいてやっただけ」


「そうなのねー」


 アンジュの言葉の中に明らかにおかしな内容も含まれていたが、リザはそういう事もあるだろうと受け入れていた。


「それで、神父様が現れて、来るのが遅いという意味も込めて蹴りを入れてみたけど、簡単に受け止められてしまったの。はぁ、どうすれば神父様に一撃入れられるかなぁ」

「あれは八つ当たりだったのですか?」


 いきなり背後から男性の声が聞こえ、アンジュもリザも足を止め、背後を振り返った。そこには金髪の40歳ぐらいの男性が聖職者の衣服をまとい、ニコニコと笑顔を浮かべ立っていたのだ。


「あ、神父様。おはようございます」

「リュミエール神父様。おはようございます」


 アンジュもリザも聖職者の姿をした者に、朝の挨拶をして頭を下げた。この人物はこの教会を取り仕切っている者であり、ここにいる者達の教師でもあるのだ。


「シュレインからアンジュのお仕置きが多すぎると抗議があったのですが、先程の話は本当ですか?」


 先程の話ということは幼女に向かって殴って欲しいだとか踏みつけて欲しいだとか言った者たちの話だろうか。するとアンジュは神父に向かってニコリと笑って言った。


「アンジュは子供だから、問題が起きたら保護者が迎えに来てくれるのは普通だと思うの」


 首を傾げて子供が無邪気浮かべる笑顔でそう言い切ったのだ。アンジュの言い分としては正論ではある。


「問題を起こしたの間違いですよね」


 神父はニコニコとした笑顔のまま、アンジュの間違いを指摘した。そもそも、Aランクの冒険者達に手を出したのはアンジュが先だったようなので、神父の言葉も間違いはない。


「でも差別は駄目だと思うの」


「だからと言って、何でもしていいというものではないですよ」


 差別されたのであれば、それに対しての報復を認めるべきだというアンジュに対して、神父はそれは暴力を振るっていい理由にはならないと答える。だが、アンジュは納得してはおらず、更に神父に向かって言い返した。


「でも、相手が剣を抜いたら、正当防衛は認められるべきだと思うの」


 確かに命の危険性が出てきたのであれば、それに対して身を守ることは必要だろう。しかし、神父はアンジュに対して首を横に振った。


「アンジュ。貴族という者は色々面倒なので、何か言われたのであれば、さっさと逃げる方が良いのですよ。それに、慰謝料代わりに身柄を求められるかもしれませんよ?」


 その神父の言葉にアンジュは笑顔から一転、この世の全てを見下したかのような顔をした。貴族中心に回っているこの世界の全てが愚かだと言わんばかりの表情だ。それは幼子がするような表情ではなかった。


「どいつもこいつも銀髪なんかに狂酔して、気持ち悪い」


 いや、違った。特別な髪色ということがアンジュをこのような表情にさせたようだ。


「正確には200年前の聖女様の御髪と同じ銀髪に皆が興味を持っているということですね」


 それは興味という言葉で収まる範囲なのだろうか。恐らく違う言葉を当てがった方が良いような感じだ。

 そこに、割り込む声が入って来た。


「それは許せることじゃないよな。アンジュは俺と結婚するのだからな」


 先程神父に抗議してくると言って消えていったルディがいつの間にかアンジュを抱きかかえていた。


「るでぃ兄。アンジュはまだお務めが終わっていないよ?」


 アンジュはルディの結婚という言葉を無視して、地面に下ろすように促した。普通であれば、15歳の少年が5歳の幼女にいう言葉ではない。いや、これが貴族同士であれば、婚約者であろうと納得もすることはできるが、先程の内容からみても、アンジュが貴族でないことは明白だ。


「リュミエール神父。先程言った通り、午前のアンジュの勉強を見れば、朝の水汲みはこれで終わりということでいいですよね」


「え゛?」


 ルディはアンジュのお仕置きの水汲みを切り上げる条件を神父と交渉して得ていたようだ。そのルディの言葉にアンジュは嫌そうな顔をしてルディを見上げている。


「ええ、良いですよ。本日はレンガルト王朝の歴史から始める予定ですから、お願いしますね」


 神父は今日の教える予定をルディに伝え、アンジュのお仕置きを水汲みから勉学に切り替えたのだった。

 ルディと神父から午前の予定の変更を言われたアンジュはリザに助けを求めるような視線を向けるが、リザはアンジュの方には決して視線を向けようとしていなかった。それどころか、フルフルと震えてうつ向いてしまっている。


 そして、アンジュはご機嫌なルディに何処かに連れられてしまった。その背中をリザは大きくため息を吐きながら見送っていた。


「リザネイエ」


「はい」


「あれぐらいの、殺気は耐えれるようになりなさい」


「はい。リュミエール神父様、このような事を聞いては駄目なのかもしれませんが、アンジュは大丈夫なのでしょうか?だってあの方は忌み子の第二王子なのですよね」


 忌み子の第二王子。これがルディに与えられたもう一つの呼び名である。だから、冒険者ギルドで貴族と思われるAランクの冒険者に絡まれることになったのだろう。


「リザネイエ。誰しも己の立場を望んで生まれて来たわけではないのですよ。アンジュはそれを理解しているから、あのようにシュレインの事に対して理不尽だと憤っているのです。聖女も聖女として生きることを望んでいなかったように」


 神父は身近な誰かを思い出しているかのように、目を細め日が昇りきった冬の冷たい空を見上げるのだった。


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