137 駐屯地にいて一番いいことは(ギルフォードSide)
第12部隊 ギルフォード副隊長 Side1
はぁ、今日は朝早くから叩き起こされて、凄く憂鬱だ。せっかく王都の宿舎じゃなく、ゆっくり寝られる駐屯地の宿舎にいるというのに、日が昇る前に叩き起こされたのだ。
こっちにいて一番いいことは、あのクソ鳥に···いや魔鳥に叩き起こされないことだというのに。あー。一瞬リュミエール神父の顔が浮かんでしまった。
「ギルフォード副隊長!大変です!」
俺が寝ているところに駆け込んできたのは騎士ライガーだった。
確か今日の夜勤勤務だったか。
「なんだ?俺を叩きお起こして、つまらんことだったら、ぶちのめすぞ」
機嫌が悪く睨みつけるようにライガーを見ると身につけている甲冑が、ところどころ血で汚れているようだ。
「常闇から見たこともない魔物が溢れております!騎士サリエ、同じくザイール死亡。騎士カストルとマイヤーが俺を送り出すために足止めをしてくれましたが、恐らくもう」
は?寝起きで頭が回っていない俺には理解するのに時間がかかってしまった。
おかしいぞ。このキルクスはそこまで強い大物が出てくる常闇ではなかったはずだ。いや、一度あのアンジュが大物を倒したという話が出ていたな。それ以外は聖騎士からも冒険者ギルドからも聞いてはいない。
「他の駐屯地に最低人数だけ残して、キルクスに来るように伝えろ。それから、もう少し詳しい情報が欲しい」
そう言って俺は立ち上がった。あー、目覚ましに珈琲が飲みてーと気楽に思いながら重い腰をあげたのだ。そう気楽だったのだ。
将校ローラの言葉を聞くまでは
「事態は最悪です。見たこともない飛行する鳥型の魔物が森の奥から出てきているのを騎士ジェイクが確認しました」
騎士ジェイクは鷹の目と呼ばれる遠見ができる聖痕持ちだ。ジェイクが見たというのなら、その情報は信頼できる。時々心の恐怖はその場にいない物を映すことがある。迫りくる死の恐怖に虚幻を見ることがあるのだ。
だが、安全なところでその場にいるように見ることができるジェイクは冷静に物事を判断できる。それは正確な情報が欲しいこちら側としては大変助かる能力だ。
「そのジェイクが言うには森の深部にいた魔物が浅瀬に向かっているようです。どうやら、その見たこともない魔物に追い立てられているようで」
その言葉に俺は頭を抱えてしまった。
ここの森はどれほど広いと思っているんだ。そこを全てカバーできる人数なんて元から存在していない。
「冒険者ギルドに依頼しろ、森の浅瀬にいる魔物の駆除だ。できれば手練を向かわせて欲しいと付け加えてくれ。それからリュミエールしん····いや、いい」
リュミエール神父に頼ると後が怖そうだ。
「それから隊長には俺から連絡する。恐らく今からだと間に合わないだろうがな」
急いでも王都からキルクスまで半日はかかる。そして、第12部隊の王都の待機部隊を連れて行く許可をもらうのに半日はかかるだろう。
ここについても日が暮れていて戦いに決着がついているか、もしくは俺たちが全滅しているかのどちらかだろう。
「他の駐屯地の者達が来るのに1刻ほどか。その間に準備等を全て終わらせておけ」
「はっ!あ、そう言えば」
将校ローラは今思い出したばかりと言葉を紡いだ。
「昨日の夜遅くに連絡があり、第13部隊長と副部隊長の両名がこのキルクスに来ると連絡がありました。なんでも副部隊長の私物を取りに戻るとのことでした」
その言葉に微かに希望の光が見えた。あのシュレインとファルークスが来るのか!いやちょっと待て。副部隊長両名ということはアンジュも来るということだよな。私物を取りに来るというのはアンジュのことか?ダメだ。頼れない。
アンジュが関わるシュレインに頼ると碌でも無い未来しか浮かんでこない。
俺はため息を吐き出し、ローラを見る。
「第13部隊長を出迎えるのは女性の騎士にしろ」
「は?どういう意味ですか?」
機嫌がいきなり急降下していくローラ。そうか、ローラはキルクス出身でもなく。あの惨劇の後に将校になったからシュレインのアンジュに対する異常性を知らないのか。
「別に差別的な意味で言ったわけじゃない。その私物を取りに戻るっていうヤツは第13部隊長の婚約者だ。はっきり言って目を引く容姿だ。ヤローだと絶対にその婚約者のヤツを見つめることになる。で、そいつの胴と首が繋がっている保証は俺は出来ない。だから、第13部隊長の嫉妬対象にならない、女性騎士にお願いしているんだ」
そう、見た目は良いんだ。あのアンジュは。問題はその思考能力と性格と力技で解決しようという馬鹿なところだ。それをシュレインが全てを認めてしまっているから、誰も止められない。いや、唯一アンジュを止められて、シュレインを牽制できるのはリュミエール神父ぐらいか。