125 「は?思わされている?」
「こちらでよろしいでしょうか?」
そう言って先程の受け付けの女性が木のトレイの上に置かれた革袋をテーブルの上に置いた。それもゴトンゴトンと中の物の重量が感じられる音を響かせて。
私は革袋を手に取り、中身を伺い見る。問題はないようだ。
「あ、あの?」
受け付けの女性が遠慮がちに声をかけてきた。視線を向けるとなんだろう?不安気というか何かを心配している表情を向けられた。
「先発隊が随分前に行ったまま連絡が何もないのですが、状況はどの様になっているのでしょうか?」
え?第12部隊管轄のことは私にはわからないよ。この場合はどう答えるべきなのかわからないので、私の横の人物にお任せしよう。
「詳しい内容は語れないが、問題は起きていない」
あ、ファルが適当な返答をした。今現状で表に出るほどの問題は起きていないという意味だね。嘘は言ってはいない。
そして、私はルディに促され、外に出るように背中を押される。私は足を外に向けて進めながら、先程の言葉を考える。先発隊から連絡がない。だから、第二陣を送り込むのに戸惑っているのか。
ゲームの知識は皆無だと言っていいけれど、普通ならなにかしらの問題が起こったと考えるべきだよね。
このキルクスの常闇は森の浅瀬にある私が投げ入れられた物と森の奥にある2つだ。しかし、そこまで大きくはなく小物の魔物を吐き出しているのみだった。
いや、ちょっと待って私のときは番犬が3体も出てきたよね。ここには神父様がいる。そして、神父様に仕えている人たちが組織化して存在していることも、ここ数年で確認済みだ。
その人達が大物を狩っていて、見た目では小物しか存在しないように見せかけていたとしたら?今現在大物が森の中を蹂躙しているとしたら?
「うぁ。もしかして最悪な状態?」
「どうしました?アンジュ?」
胡散臭い笑顔のルディから声をかけられたけれど、部隊の管轄が違うことで口を出すのは違うと思う。でも、ここには教会のみんなも住んでいるし、顔見知りが多くいる街だ。
外に足を踏み出し、教会がある街外れの方向に向かう。
はぁ。確かあの妹が言っていた『宴の始り』か。ここのような小さな常闇でも異常が見られるのなら、常闇の活性化が始まったと思っていいのだろう。いや、既に私の背後には鬼が二人もいるのだった。
「『宴』が始まったかなぁと」
「『うたげ?』ですか?」
「常闇の活性化ってこと。あの聖女の子が頑張ってくれればいいってこと」
まぁ、このキルクスは神父様次第ってことだけど。
「ふん。あれが頑張るって何だ?」
ふぉ!隣から禍々しい気配が!ルディの聖女の子の毛嫌いは相当のようだ。
「アンジュ。最悪の説明になってないぞ」
ファルが道端で禍々しい気配を発しだしたルディの思考を変えさせるために、慌てて私に説明になってないと言ってきた。
「あの受け付けの女性の感じだと、朝早くから行った先発隊が音沙汰なく何か問題が起こったのではと感じ始めているってことだよね」
「いや、問題も何も元々ここの常闇は小物の魔物しか出てこないから、ただ数が多くてさばけないだけだろう?」
「そう、それ!私たちはキルクス周辺の森は小物しかいないと思わされているってこと」
「は?思わされている?」
「誰にです?」
「神父様に」
「·····」
「·····」
ルディもファルも有り得そうだという顔をしている。
「だって、12歳になると教会の子たちが冒険者のマネごとをしだすよね。その中には貴族の子も入っているってことは、教会側としては預かっている子供を魔物に殺されたっていうことは避けたいと思うんだよね。大物は教会側で狩ってしまっていたとしたら?その大物が今現在湧き出てるとしたら?最悪だよね?」
私の話を聞いた二人は無言のまま早足になって教会へ向かっていく。私はルディに手を繋がれ、駆け足になってしまっていた。あの?足の長さが違うのだけど?
2ヶ月ほど前に追い出されるように···いや、犯罪者紛いに眠らされて出ていった教会の変わらない姿が、目の前にあった。
正面の扉をファルが開け、中に入って行きその後にルディに捕獲されたままの私が入って行った。
中には全員のシスターと神父様。そして、冒険者風の姿をした者が3人いた。
その全員の視線が入ってきた私たちに向けられる。
「シスターマリア!ドラゴンのお肉持って来たから皆で食べて!」
私はルディの手を振り切って、後ろに居た酒吞から大きな革袋を奪いとり、シスターマリアの元に駆け寄って行く。
流石にあの大きなドラゴンのお肉は全部食べられないから、教会の子達にお土産として持ってきたのだ。
背負うほどの大きな革袋をシスターマリアの足元に置いてにっこりと笑う。
「アンジュちゃん。いつも言っているけれど、教会に入って来る時は挨拶が必要よ?」
あ。
「ただいま!!」




