124 「生きてるよ。失敬だね」
昼過ぎにはキルクスに到着した。ワイバーンはここの管轄にしている第12部隊の駐屯地に預けて、キルクスの街の中を歩く。普段は見かけることのない白い隊服の者がキルクスの街の中を歩いているのだそれは視線を集めることになっていた。
先頭にファルが立ち、その後にルディとルディに手を繋がれた私。そして、その後ろに濃い灰色の隊服を着た大柄な酒吞と美人の茨木がいる。目立ってる。どう考えても目立ちすぎる。
そう、あの後酒吞が付いていくと駄々をこねたのだ。退屈は嫌だと言っていた彼らにとってポツンと一軒家は暇でしかなかったのだ。私の騎獣の申請分のワイバーンを彼らに渡し、ここに至ったのだが、キルクスまで付いてきても暇なのは変わらないと思う。
「お!アンジュじゃん!最近見かけないと思ったら聖騎士になったのか」
「あれ?もしかしてアンジュちゃんかい?美人になったねぇ」
「アンジュ!ポーターの依頼受けるって言って、いきなりいなくなるなよ!あの後大変だったんだぞ!」
いや、私が目立っているようだ。露天商の兄さんや八百屋のおばちゃんや冒険者の顔見知りに声をかけられ続けた。まぁ、色々バイトをしていたおかげで、キルクスの街の中では顔が広くなった。
「アンジュは人気者ですね」
胡散臭い笑顔のルディに言われてしまったが、別に人気者というわけではない。ただ単にお金を稼ぐためにバイトしていた結果だというだけだ。
声を掛けられながら私たちは剣と盾の看板を掲げた二階建ての建物にたどり着いた。キルクスの冒険者ギルドだ。
その建物の中に入っていく。今はお昼の時間帯なので····人がごった返していた。おかしいな今の時間帯は人が少ないはずなのに。
そして、凄く注目を浴びてしまっている。普通は白い隊服の者が冒険者ギルドに足を運ぶことなんてないのだから。
あ!
私は知っている子がいたので、手招きをする。
「アンジュ姉ちゃん。生きてたの?」
「生きてるよ。失敬だね」
キルクスの教会の灰色の粗末な服を着た女の子で、2つ下の10部屋で共に過ごしたベルだ。
「それでこれは何?」
「常闇から次々に魔物が溢れているんだって、聖騎士たちが駆逐しているけど、数が多くて取りこぼしを冒険者に対処してほしいっていう依頼」
あれ?確かに駐屯地の人の数は少なかったけれど、第12部隊長さんもリザ姉の姿も王都で見かけたよ?
「ふーん。ありがとう」
そう言って私はベルに私の作った焼き菓子を渡した。その焼き菓子をすぐさま口の中に放り込んだベルがキラキラした目で聞いてきた。
「ほれで、ふぁんじゅ「食べてからでいいよ」もぐもぐゴックン。それでどうやって聖水の儀を生き残ったの?」
「神父様への怒り」
「それ参考にならない」
「自力で頑張れってこと」
私は私より背の高いベルの頭をポンポンとたたき受付カウンターに足を向けた。しかし、聖騎士団という組織がよくわからない。これぐらいなら、第12部隊の全戦力で対処しなくてもいいってこと?
「もしかして何か不備がありましたか?」
受け付けに行った早々、受付けの女性からそんな言葉をかけられてしまった。た、確かに将校は冒険者ギルドになんか用はないよね。それも3人。背後に圧迫感のある巨漢とある意味プレッシャーを感じる程の美人がいるからね。私だけギルドに行ってくるよと言えばよかったね。
「いいえ。預かってもらっていたものを引き取りにきただけです。金庫436番です」
私は金庫番号を言って、冒険者ギルドのタグを見せる。
「え?あ···はい」
戸惑うような表情を見せた受け付けの女性は奥へと消えていった。
「ねぇ。今日、王都で第12部隊長さんとリザ姉とすれ違ったけど、部隊長と副部隊長って、ここに来なくていいの?」
私は疑問に思っていたことを隣りにいるルディに聞いてみた。
「規模がどれ程かはわかりませんが、基本的には一部隊の将校が常時3人は王都に詰めておくということが決められていますからね。今回の事は他の者達で対処できると判断したのでしょう」
「え?3人って決められているの?」
3人かける12部隊だから、常時王都には36人の将校がいるってことになるよね。全将校の約3分の1って多くない?
あ、第13部隊は常時王都で待機中だから数には入れていないよ。
「多いって思うかもしれないが、王都とその周辺は担当部隊が存在しないからな。その代わり何かあれば、王都に詰めている者達で対処にあたるんだ。って最初に説明したよな。王都周辺で常闇が開けば全部隊で対処に当たるって」
確かにファルが今と同じ様に説明してくれたけれど、まさか将校の王都勤務の人数が決められているなんて思わないじゃない。確かに上官用の宿舎って一定の人数がいるなって思ってはいたけどね。




