123 新聞紙が燃えた!
あの後、私はファルにお願いをして、ドラゴンの着地によって破壊された森の修復をしてもらった。まぁ、タダではなく交換条件を出されてしまったが。
そして、私は闇オークションの潜入捜査ではなく。ドラゴンを駆逐した日から2日後の早朝には再び空の旅人と化していた。
王都のことは担当の騎士団に任せることになったようだ。聖騎士団は魔物討伐専門だからね。
「別にそこまで急ぐことないと思うのだけど?」
「どうせ、王都にいてもあの聖女もどきの噂しか聞かないからな」
もどき!ルディ。彼女は正式に聖女になったからね。
あの聖女のドラゴン討伐の噂は一気に広がった。まぁ、新聞の表紙を飾って宣伝すれば、噂も何もないのだけれど。民衆の聖女シェーンの認知度は一気に上がったようだ。
そして、聖騎士団の中でも彼女の人気はうなぎ登りだ。聖女様専用のお屋敷が聖騎士団敷地内に完成し、彼女にお近づきになろうという聖騎士たちが出入りしているのを耳にしている。建物が建つのが早すぎると思ったら、貴族たちがこぞって出資したらしい。色々思惑が動いているようだ。
しかし、ルディ。そこまでガシリと私のお腹を圧迫するように抱え込まなくてもいいと思うのだけど?早々にワイバーンからは飛び降りないからね。一言断ることを認識したよ?
前を飛ぶワイバーンから降下するとの指示が出た。それに倣ってルディもワイバーンの操縦をする。前を飛ぶワイバーンに乗っているのは、勿論ファルである。
え?何処に向かっているかって?それはルディの機嫌の悪さを収めるものを取りに行っているだけです。はい、キルクスの冒険者ギルドに。
それは、私よりもファルの方が限界を迎えてしまったからだ。昨日はいつもどおりポツンと一軒家で過ごしていた。しかし、4人の騎士は鱗を売りに行って来ると言って詰め所内にはおらず、書類をしかめっ面で見ているファルに、不機嫌ではあるもののまだ人のままで済んでいるルディの膝の上に乗って、私が書類の不備を指摘している。ここまでは、まぁいいのだ。
あ、これがファルから出された交換条件ね。大胆な横領を指摘していたところに、酒吞と茨木が居間に入ってきたのだ。新聞というモノを持って。
「なぁ。これって何が書いてあるんだ?」
「ここの皆さんが嬉しそうに読んでいるので気になったのですよ」
多少自由になるお金を渡しているようで、そこから新聞を購入したようだ。ただし、文字は読むことはできない。しかし、この鬼の二人は適応能力が高いな。
「ん?」
ファルが二人から新聞紙を受け取り、視線を紙面に滑らせる。
「ああ、昨日の事が書かれているな。『聖女シェーン。華々しく誕生』とな「あ゛」····シュレイン、落ち着け。『飛来したドラゴンを太陽の雨によって浄化する』だってよ」
「聖女シェーンって誰だ?ドラゴンを殴っていたのは、アマテラスだろう?」
酒吞。私は殴ってはいないよ。蹴っただけだからね。
「空を見上げていた者なら誰でもわかりますよ?シェーンという者が誰かは知りませんが、アンジュ様が倒しただろうということぐらい」
まぁ、そうなんだけどね。ここで重要なのは聖女シェーンが存在することをアピールできたらいいだけだからね。はぁ。また後ろがピリピリしだしてきたよ。
「これはな、読んでる者に聖女が誕生したと印象付ければいいんだ。アンジュの規格外な行動を見たものの中で、それがアンジュだと知っている者がこの王都の中でどれほどいるか。はっきり言って殆ど居ないに等しい。実際に目にした者がこの新聞を読めば『ああ、あれが聖女シェーンか』となるわけだ」
「ギリッ」
「見ていない者が読んでもドラゴンを倒せるほどの聖女が誕生したことを印象付けられる。一種の情報操作だ」
「あの聖女もどきが!!」
背後から恐ろしい声が聞こえて来た。そして、私を膝の上から下ろしソファに座らせ、ルディはファルから新聞を奪い取っ····いや、触れた瞬間に黒い炎に包まれた。
「うぉ!俺まで燃えるだろう!シュレイン」
「あの聖女もどきを擁護するなら、滅べばいい」
「俺は擁護してないぞ。ただ新聞の記事を読んだのと一般的解釈を口にしただけだ。落ち着けシュレイン。俺をどう殺そうかという視線を向けてくるな。あ、そうだ。アンジュ」
え?私に振らないでもらえる?魔王様に対抗する武器なんて私は持っていないからね。
「ドラゴンの魔石をキルクスの冒険者ギルドに預けていると言っていたな」
言ったけれど?
「取りに行こう」
「は?」
「それでシュレインに守り石を作ってやるでどうだ?」
どうだと言われても、キルクスって山脈越えしなければならないから、王都に来る時に半日かかったんだよね。ん?でもあれは飛狼だったからで、ワイバーンならもう少し早く着くのかな?
あ、でも····
「神父様に文句を言いに行ってもいいのなら、キルクスに行ってもいいよ」
この際だ。ウキョー鳥をぶっ殺していいか聞いてみよう。
「よし、決まりだ」
え?本当に文句を言いに行っていいの?
ということで、私達はキルクスに到着したのだった。