122 守り石
「あれは死だけを燃やすだけの火だからね。生きているモノとか森の木々とか燃やさない仕様なの」
「そんな事が可能なのか?」
可能かと言われてもできてしまったのだから仕方がない。まぁ、作りたい魔術は沢山あるので、今回の死を燃やす炎もその一つに過ぎない。
「だって、街の近くで魔物を倒してそのままって問題になるし、集めて燃やすのも木々に引火すると大変だから気をつかうからね。魔術で何とかできるのなら、それに越したことはないよね」
「はぁ、これだからアンジュを一人にはできない。次からは勝手に火の中に飛び込まないように、もう心臓が止まるかと思った」
ルディにそう言われ、お腹をぎゅうぎゅうに絞められた。そんなに絞めたらせっかく食べたドラゴンのお肉を吐いてしまう。
しかし、また駄目なことが増えてしまった。
「わかった。今度は声を掛けてから飛び込む」
「そうじゃない!」
「アンジュ!普通は飛び込まないからな!」
「クスクス。シュレインのお気に入りは面白いね」
「よくリュミエール神父は彼女の行動を押さえられていましたね」
4人が好き勝手なことを言ってきた。ルディ、声を掛けただけじゃ駄目ってこと?
ファル、必要があれば、火の中に飛び込むこともあると思うよ。
王様。私ってルディのお気に入りと思われているの?お気に入り?まぁ、言われればそうかも知れない。
侍従、私は別に神父様に押さえつけられてはいないからね。
「それで、この魔石がどうしたの?」
私は赤い魔石を指して言った。魔石としては最上級であり、売ればかなりのお金になるが、高額のためすぐには換金不能な物だ。換金出来ないモノは私には必要ない。
「それで兄上の守り石を作って欲しい」
私を膝の上に抱えたルディが言った。ふーん。この兄弟仲がいいんだね。王族の兄弟ってギスギスしてそうだけど、殺されかけたお兄さんに守り石を渡したいと。
「どういう形状がお好みで?指輪とか腕輪とか」
はっ!それは私の呪いのアイテムの形状だった。
しかし、使用する人が常に身につけられる物となると、形状はおおよそ決まってくる。
「指輪だね」
白銀の人物が当然のように答えた。
まぁ、そのあたりが無難だろうね。
私は人の頭部よりも一回り小さな魔石の上から右手を置いて、魔石を私の魔力で覆う。
「『一難去ってまた一難。続く困難。疲弊する心に降り注ぐ慈雨。満ち満ちる潤いが心を癒そう。悪意は元凶に返そう。災いは緩やかに回避をしよう。そして、天恵を周囲に施したもう』」
一気に魔力で押し固める。そう、高魔力をまとう魔石を私の魔力で更に圧縮するのだ。そして、それと同時に形成もしていく。
テーブルの上には血のような真っ赤な指輪の形をした石が出来上がっていた。それを私は手に取って、向かい側にいる白銀の人に差し出した。
「はい」
「·····」
何故に受け取ってくれない。中々の出来だと思うのだけど?
「え?ただの輪では駄目だった?私に装飾品のデザイン性を求められても困るのだけど?」
「いや、アンジュ。その前におかしすぎるだろう?何で、かなりの大きさがあった魔石がそれだけの大きさになってしまったんだ?」
ファルは何を言っているのか。目の前で私が圧縮しているのを見ていたじゃない。それに先程の魔石と色が全く違うよ。
「圧縮しただけだけど?その方が魔石の力を全部使えて良いものができるし、これ程の物を付けていると空から隕石が降ってきても避けれると思うよ」
「普通は空からそんなモノは降ってこないからな」
ファルに飽きられるように言われてしまった。そして、白銀の人物は恐る恐る私の手から血のように赤い輪を取り、右手の中指に通した。
うっ!なんだか、キラキラエフェクトが増えたような気がする。おかしいな。そんな機能は付けていないのだけど。
「アンジュ。ドラゴンを狩りに行こうか」
「は?」
いきなりそんなことを言い出したルディを振り返り見上げる。しかし、ルディは赤い指輪を凝視していて、その真意を私は計り知ることができない。
「お肉はいっぱいあるから、もういいよ」
「アンジュが作った魔術具を兄上だけが持っているってずるいよな」
そっち!いや、別にそれはドラゴンでなくても良いはず。
「だから、魔石を用意してくれたらいいって、言っているし」
「確か、東のモルド山だったよな。ドラゴンの巣が複数目撃されていたところは」
ルディはそう言って私を抱えたまま立ち上がった。ちょっと待って!多分そこって···。
「そこって、今回卵が盗まれたところじゃない?行ったらドラゴンの気が立っていそうなんだけど?それにドラゴンの魔石が欲しいのならキルクスの冒険者ギルドに預けてあるよ」
私の言葉を聞いてルディがハタッと動きを止めた。ふぅー。流石にドラゴンからの総攻撃は受けたくない。
「ああ、そのドラゴンの卵の事があったね。フリーデンハイド。その闇オークションの事を調べて貰えるかな?また、ドラゴンが襲来してきたら困るからね」
「はっ!」
キラキラエフェクトが増した白銀の人物が困ったと言いながらも笑顔で侍従に命令をした。そう言えば、この人はいつまでここにいるのだろう。




