121 死の浄化
食後の後、侍従にしつこく守り石が欲しいと言われ続けたので、魔石を用意してくれたのなら作ってあげると言えば、思わぬところから、言葉が降ってきた。
「アンジュ。あのドラゴンの魔石はどうした?」
隣のルディを仰ぎ見て、首を傾げる。ドラゴンの魔石?私は肉の指示しかしていなかったから捨てられたんじゃない?
「酒吞に聞いてくる」
いったい何に使うつもりなのだろうと、私は隣の居間兼プレイルームに行ってみる。すると、何やらティオと酒吞が言い合っていた。いや、正確にはティオが酒吞に文句を言っていたのだ。
「何かあったの?」
「こいつら見習いのクセにすっげえー食ってるっすから、文句言ってるっす!」
ああ、鬼だものね。それは食べるでしょう。
「だから、多めに用意していたのだけど、足りなかった?」
私は鬼の二人に聞いてみる。茨木は食後のお茶を飲んでいるけれど、酒吞の方はまだ肉を食べていた。
「私は十分でしたよ?」
「この肉うめーな。いくらでも食える」
ドラゴンの肉をいくらでも食べれるなんて羨ましい。周りを見てみると、シャールは部屋の隅にある長椅子で寝そべっていた。ヴィオとミレーはドラゴンの鱗をテーブルの上に並べて、売る算段をしているようだ。文句を言っているのはティオ一人で、まだ、ドラゴンの肉は皿の上に残っている。量的には問題が無いようだけど、何がいけないのだろう。
「ティオは食べる量が多すぎると言っているの?」
「少しは上官に配慮しろと言っているっす!」
私は鬼の彼らを見る。うーん。
「無理じゃない?だって、ティオって彼らより弱いもの」
「····弱い。俺、弱いっすか?」
あ、なんだか凄く落ち込んでしまった。それは仕方がないと思うよ。だって、彼らは常闇から出てきた鬼だからね。
まぁ、落ち込んだティオは放置して、私は未だに食べ続けている酒吞に話しかける。
「ねぇ、酒吞。解体しているときに、赤い石みたいなの出てこなかった?」
「あ、それありましたよ?」
酒吞が答えず、茨木が教えてくれた。
「それ、何処にある?」
「何も言われなかったので、穴の中に」
「「「え!穴の中!!」」」
私ではなく、ティオとミレーとヴィオが反応した。私としては、何も言ってはいなかったので、処分する穴の中にあるかなとは思ってはいた。なぜなら、彼らに魔石の概念はないのだから。
「わかった。ありがとう」
「いえいえ、どう致しまして」
私は、その足で居間兼プレイルームの外に出る。そして、外に出て屋敷の近くに掘った穴に向かう。
穴の中を覗き込むと、内臓の毒素が徐々に出てきたのか、紫色の血の池に骨が浮き、皮や鱗が垣間見える正に血の池地獄になっていた。
さて、ここからどうやって、魔石を取り出すか。腕を組んで下を見ながら考える。赤いドラゴンは火竜だ。ということは火に耐性がある。
よし。
「『死を浄化する冥府の炎』」
穴に向って手をかざすと、青白い炎が穴の中を満たした。じーと穴の中を観察してみる。血の池が骨が臓物が次々に青白い炎に飲み込まれていく。
あ!あった!
私は青白い炎の中に飛び込んだ。この炎は熱くはない。何故なら、死したモノだけを燃やすものだから。魔物を討伐した後って後始末に困るよねと思って、作った魔術だ。
普通なら一瞬にして燃えきってしまうけれど、火竜は思っていたように火に耐性があるようで、燃えきるまで時間がかかるようだ。穴の底に転がっている赤い石を手に取り、燃えないように結界を張る。
そして、穴の外に向って跳躍をして、穴のヘリに右手を掛け、地上に出ようとさらに腕に力を····。
何故か、首根っこを引っ張りあげられた。
目の前にはご機嫌ナナメな魔王様がいらっしゃいました。そのまま私は抱えられ屋敷の中に連れ込まれてしまった。
え····魔石が欲しいって言っていたルディがなんで機嫌が悪いの?
そして、私は抱えられたままダイニングに連れていかれ、そのままルディの膝の上に鎮座させられた。
魔王様が何を怒っていらっしゃるのかわからないので、私は無言のまま人の頭部より一回り小さな赤い魔石をテーブルの上に置く。
「で、持って来たけど?」
「アンジュ。お前何をした?」
ファルが呆れたように言ってきたけれど、何をしたもなにも、魔石を取ってきただけだけど?
「青い火を出していたよな?」
出していたけど?ふと、横目でダイニングの窓の外を確認してみると、あ····ここから丸見えだった。やっば!青い火って使っては駄目だった。
私はへらりと笑う。
「アンジュ。なぜ、火の中に飛び込んだ?」
お怒りの魔王様からのお言葉だ。なぜって、魔石を取りに行くためって言ったらやっぱり怒られるよね。普通の火は燃えるものだからね。
はぁ、なんだかルディを怒らせてばかりだ。




