119 血の雨か。それは怖いね。
「そう言えば、聞きたかったのだけど、君は何故武器を持っていたのに、それをドラゴンに使わなかったのかな?」
白銀の人が私に聞いてきた。私はドラゴンのお肉に満足して、食後のお茶を飲んでいた。満足だ。とても満足だ。しかし、隣のルディの不機嫌さに変化は見られない。
「あの戦斧を?あんな上空で振るったら、血の雨が降るから」
比喩ではなく、正に血の雨が地上に降り注ぐことになるだろう。ただの野山ならまだしも、王都の街の中に血の雨を降らせるわけにはいかない。
「あ、血の雨か。それは怖いね」
「それに、あの斧では私の力に耐えきれないから、ドラゴンの首を半分斬ったところでポッキリ折れると思うよ」
以前の時と同じで、中途半端にしてしまったおかげで、ドラゴンが暴れて余計に血の雨が降ることとなっただろうね。
「はぁ?なぜ、そんなバットルアックスを持ってドラゴンに向って行ったのですか?」
侍従、なに?その馬鹿にしたような目で私を見るのか。別に戦斧持っていなくても良かったのだけど。
「アルーさんがくれるって言うから、そのまま貰っていっただけ」
「アルー····」
はっ!隣の怪しい気配が濃くなってきたように感じる。恐る恐る隣を伺い見る。
「アルージラルドのことか。どういう事だ?死の商人はここには入れないはずだろう?」
や、やばい。口が滑ってしまった。私が事務局だけでなく、王都の街の中に行った事がバレてしまった。
「アンジュ。どういう事か説明しろ」
隣からの威圧が酷い。うぅぅぅぅ。はぁ。バレてしまったのなら仕方がない。
「リザ姉に古着の隊服を貰って、お礼に守り石を渡したら、最近流行っているって言われて思い出したの」
「リザ?ああ、リザネイエの事か。それで、何を思い出した?」
流石ルディだね。リザ姉が誰かわかったんだ。第12部隊長はわからなかったのにね。
「私が提案した商品の売上金の2割を振り込んでもらう口座の変更をお願いするためにアルーさんの商会に行って交渉してきた。そこに飾ってあった戦斧で脅しながら」
「ぐふっ。死の商人を脅すって、どういう事だ?アンジュ」
ファル。どこに笑いのツボがあったのだろう。相変わらずファルの笑いのツボがわからない。
「え?アルーさんって商品になりそうなことを根掘り葉掘り聞き出そうとしてくるから、交渉の席につくには脅しておかないと話にならない」
「確か死の商人の『シストヴァ商会』は最近飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長している商会ですよね。守り石が最近は有名ですね」
侍従はアルーの商会を知っているようだ。侍従にも守り石の事は耳に入るほど有名みたい。
「そうそう、私の考案したものだね。守り石も魔武器も結界盾もそうだね」
「「「は?」」」
6つの目が私を見るが、白銀の人だけは微笑みながら紅茶を飲んでいた。
「アンジュ。それは『シストヴァ商会』の基盤と言っていい商品だよな」
「魔武器って冒険者の間でそれを持っていたら一流だって言われているやつだろ?」
「守り石をいただけません?中々手に入れられないのです」
ルディ、そうなんだ。アルーの商会の基盤の商品になっているんだね。それは毎月良い金額が振り込まれるわけだ。
まぁ、魔武器は冒険者たちの命を守る為に作ったものだからね。ゴブリンなどの弱い魔物は普通の武器でも倒せるけれど、オーガともなると傷一つ付けられないのだ。倒そうと思えばわざわざ教会で作られた聖水を武器に掛けて清めなければならないというとても面倒な作業が入る。誰が、危機的な状況で冷静に対処できるというのだ。そうなれば逃げの一手しかない。
それにしても侍従。なんで、私が侍従にあげないといけないわけ?侍従は無視でいいか。
「そんなことで、アルーさんにお願いしていたところに、ドラゴンが飛来してきて、どうやら闇オークションに出品される卵を探していたみたいだったけど、お肉がそこにいるのなら、私が貰っていいよね。ということでステーキになった」
「アンジュ!重要な事をさらっと流すな!」
ファル、声が大きい。あ、どうやって討伐したかは、私の聖痕の力の説明をしないといけないから、言わないよ。
「闇オークションね。その話を詳しく知りたいね」
白銀の人が聞いてきたけれど、私も詳しい話は知らないよ。
「それは、他の人に聞いて。私は知らない。あ、卵はどんな味がするのかは興味があるけど」
「ぐふっ。ドラゴンの卵の味って」
「クスクス。面白いですね」
「卵を食べる気なのですか?」
「アンジュ。ドラゴンの卵は食べる為に出品されるわけではない」
何故かルディがアルーと同じ事を言ってきた。食べるためじゃないのなら、何のために卵を出品するのか。絶対に美味しいと思うのに!!




