113 レッドドラゴンの襲来
外に出てみると多くの人々が空を見上げていた。その人々が見ている先に視線を向けてみると、赤い物体が空を飛んでいた。
「レッドドラゴンじゃないか」
隣りにいるアルーが言ったが、私の目にはお肉にしか見えない。美味しそう。じゅるりとヨダレが垂れそうだ。
「何で、こんな所にお肉がいるのだろう」
「おい、お肉じゃないぞ!ドラゴンだ」
アルーは何を言っているのかドラゴン=お肉じゃない。
「確か、週末の闇オークションでドラゴンの卵が出品されると聞いたな」
「卵!卵もきっと美味しいよね」
思わず、口元を拭う。どんな味がするのだろう。やっぱり普通の卵とはひと味もふた味も違うよね。
「いや、ドラゴンの卵は食べるために出品されるんじゃないからな」
え?じゃ、何のために売りに出すの?食べるためじゃないなんて。
王都上空を飛んでいる赤いドラゴンは何かを探しているのか、空をぐるぐると回っている。離れているからわからないけれど、恐らく全長20メルはあるのではないのだろうか。あんなモノが地上に降りて暴れてもしたら、王都の被害は甚大なものになるだろう。
そのドラゴンがある一点を向いてホバーリングをしだした。
「ねぇ、あっちの方向って何があるの?」
ここからじゃ、建物が道の両脇に建っており、ドラゴンが見ている方向に何があるのかわからない。
「貴族街だな。あと、王城もか」
「ふーん。この場合ってどこの管轄になるのかな?」
王都の管轄の部隊ってどうなっているのだろう。王都の近くに常闇が開けば王都に待機している全部隊が出動すると聞いてはいたけれど、王都上空はどうするのか聞いてはいなかった。
「いや、そもそも空を飛んでいるドラゴンをどうやって倒すつもりだ?」
「普通にぶった切るけど?そのドラゴンがなんだか火を吐きそうだけど、あのお肉は私がもらっていいのかな?」
レッドドラゴンが大きく口を開けて、その喉元の火袋を膨らます動作をしているから、火を吐き出す兆候に見える。
「アンジュ!そのバットルアックスをやるから、行って来い!」
「え?お肉は?」
「肉の権利は自分で何とか、もぎとって来ればいい」
そうか、お肉の所有権は私にはないかもしれないと。あ!そうだ!
「わかった。行ってくるけど、私のお金はきちんと新しい口座に振り込んでおいてよ」
「聖騎士になったのなら、そこまでがめつくお金に拘る必要はないだろうに」
アルーがそんな言葉を言っているが、お金はあっても困ることはない。私は戦斧を担いで、重力の聖痕を使い、支点をドラゴンに置いた。
そして、空中を一直線にレッドドラゴンに向って行く。今にも炎を吐きそうなドラゴンの顎を下から思いっきり蹴り上げた。顎を蹴ったことで開いていた大きな口が閉じ、ボフッという音と共に炎が上空に撒き散らされ、ドラゴンを中心に同心円状に広がってしまった。
「『広がりし炎を手の内に』」
撒き散らされた炎を左手に集めるように呪を唱える。同心円状に広がった炎が渦状に集まってきた。ドラゴンは信じられないという驚いた視線を上空にいる私に向けてきている。
空は己の領分だと思っていたら、こんな小娘に邪魔されたという感じだろうか。
私は左手に集めた炎を勢いよく更に上空へ放り投げた。上空へ向かう炎をよそに、私は右足を振り上げ、ドラゴンの頭にかかと落しをする。身体強化と重力の聖痕の力を使った重い一撃だ。
「『たまや〜』」
上空に打ち上げた炎の塊が火の花となって飛び散った。この火の花を作った意味は特にない。強いて言うなら目を更に上空に向けさせるためだ。
ドンッ!!!
という低い音が上空から空全体に響き渡り、心臓を掴むような衝撃波が上から降り注ぐ。
そして、私はドラゴンと共に地上に落下した。
ただ、落下するのではなくドラゴンに基点を置き、支点を北の森に合わせ、重力の聖痕で引き寄せるように急降下した。
きっと地上から見れば、巨大な花火の光に目を奪われドラゴンの影を隠してくれることだろう。
頭部への強烈な一撃で意識を失ったドラゴンの角に捕まり、ドラゴンを覆うように結界を張る。勿論、お肉を守る為だ。流れ星のように南から北側の地上に引き寄せられ、地面に接触する直前に重力の聖痕の力を解き、惰性で木々をなぎ倒しながら地面を滑っていく。
あ、勢いがありすぎたかも····。
結界が衝撃の緩和をしてくれたおかげで地面にめり込むことはなかったけど、このままだと王都の外壁にぶつかりそう。そうだ、第13部隊の詰め所のぽつんと一軒家に支点を置いて、引き留めることにしよう。
ファルの魔力を感知できたので、そこに向けて重力の聖痕を使う。ガクンという衝撃の後に、逆に引っ張られる感覚が····。あ、聖痕の力の感覚を間違えてしまった。
直ぐに力の解除をしたけれど、逆に引っ張る力が強すぎて、ドラゴンの巨体が跳ねた。
巨体は再び宙を飛び、地面に激突した。
ふー。やばかった。ドラゴンの巨体でポツンと一軒家を押しつぶすところだった。そう、巨体の少し離れたところに第13部隊の詰め所が存在していたのだった。