103 でも、必要な時もある
「駄目ですよ。クスッ」
なんですと!いや、私は関係ないから戻っていいはず。ルディと侍従の兄弟同士で話し合えばいい。
「今回の原因も貴女ですよね。これだと貴女を側に付けた意味がないですよね」
今回の原因も?ルディの機嫌の悪い理由ってことか···。うん。わかった!
「わかりました。今後、飛行中のワイバーンから飛び降りる時は、許可を得てから飛び降ります!」
これでいいでしょ!
「····」
「····」
「····」
何故に、3人が無言で私に視線を向けてくるのか。
因みに鬼の二人は、侍従が席に付いたところで、ファルが荷物と一緒に別の部屋に連れ出していたので、ここにはいない。ズルいなぁ。私も付いて行っても良かったと思う。
「普通は飛び降りません」
「アンジュ。この前飛び降りて、シュレインから散々怒られていたのに、また飛び降りたのか?」
「アンジュ。あれだけ注意したのに、許可が出ると思っているのか?」
許可でないの?
侍従は、何を言っているんだこいつという呆れた顔をしている。
ファルはルディの後ろに居るようで、私からは見えないけれど、クツクツと笑う声が耳に障った。
「でも、飛び降りることが必要な時もあると思う」
「「「ない!」」」
三人共、仲がいいね。
「そもそもですね。今回は常闇から出てきた魔物の討伐だったのです。何処にワイバーンから飛び降りる必要がでてくるのですか?ないですよね」
侍従、決めつけるのは良くないよ。何事にも臨機応変に対応することは大事だと思う。
「その常闇から出てきたオーガの変異種が西から東に向かって爆走しているのを発見すれば、足止めするよね」
「ちょっと待て、アンジュ。お前飛行中のワイバーンって言ってなかったか?」
ファル。言いましたけど、何か?
侍従。なんですか?その不可解な物体を見る目は?
「シュレイン第13部隊長。その時、低空飛行していたのですか?」
「いや、通常通りの移動飛行高度を保っていた」
確かに空気が薄く、昼間でも肌寒い感じだった。遮る山もなく、眼下には広大な大自然が広がっていて、眺めも抜群だったね。
「なぜ、その高度からオーガの変異種だとわかったのですか?」
え?そんなの
「遠見の魔術を使ったからに決まっているし」
「···”とおみの魔術”とはどういう物ですか?」
「···え?何言っているの?普通に遠見だし」
この侍従は何を言っているのか。遠くを見るだけの魔術にどういう物もないと思う。
「アンジュ。アンジュの使った”とおみの魔術”について説明してくれるか?」
説明?ルディ、説明と言われてもただ単に景色を拡大して見ていただけだし。
うーんと首を捻って、ルディの膝の上から降りて、今回持っていっていた私の荷物のところに行って、その荷物を漁る。
私は金になるものは基本的に持ち歩く様にしている。共同部屋だと誰かに取られるからね。だから、元々私物はできるだけ持たないようにしている。いざとなったときに物が多くて逃げ出せないとなったら困るからね。
その荷物からヴィオが報酬として渡してくれた、魔石が入った袋を取り出し、その中でも透明度の高い水晶のような魔石を選びだした。大きさはこぶし大程の大きさだ。
それを持って、今は空席の3人掛けのソファに座ろうとすれば、途中でルディに捕まり、定位置に鎮座することになってしまった。いや、空いているのなら、座ってもいいと思うけど?
まぁ、気を取り直して、私は透明な魔石を両手で掴んで、手の中で風の魔術を駆使して、形を凸型レンズに削り形成した。
私はルディの目に映るように凸型レンズの形にした魔石を右手で掲げ、その後ろに私の包帯ぐるぐるの左手を持って行く。
「簡単に言えば、こんな感じ?」
レンズ越しに見れば、拡大された包帯の繊維が良く見えることだろう。要は、虫眼鏡だ。
「遠くのモノをこうして大きく見られるように目の前に、これと同じ様な状態を魔術で作って、拡大して見る。これが遠見。まぁ、色々調整は必要だけどね」
「こういうことですか。リュミエール神父が言っていた『彼女の理解不能な行動は理由を聞いて訂正しないと被害が拡大する』ということは」
ふぉ!近くから侍従の声が!!
というか、神父様!被害って何!被害って!私、そんな被害を及ぼしたことはないからね!
「アンジュ。質のいい魔石をそんな物を作るために削ってしまうなんて、もったいない!いらないのなら俺にくれても良かったのに、代わりに別のクズ魔石ぐらい用意したぞ」
「え?なんで、私が貰ったものをファル様にあげなければならないの?どういう風に使おうと私の勝手じゃない」
私が貰ったものの使い道を、なぜファルにお伺い立てなければならないのだろうか。意味がわからない。