102 退屈しなければ、それでいい
「そこに掛けてくれ」
ルディは酒吞と茨木にファルの定位置である三人がけのソファをさして、座るように言った。
「もう一度確認するが、人ではない君たちが魔物を討伐する組織に所属するということで構わないのか?」
そう、私は彼らに居場所がないのであれば、ぽつんと一軒家の二階が空いているので住まわすことはできないのだろうかと、ルディに聞いてみたのだ。しかし、聖騎士団の敷地内に聖騎士とその組織に属する者たち以外の出入りを固く禁じているため、彼らを敷地内に入れることは出来ないと言われたのだ。
それは、私がぶっ飛ばされた事件が大事になるわけだよね。元から、人の出入りに制限を掛けていたのだから。
それで聖騎士として仕事をするかという話になったのだけど、彼らは人ではなく鬼であり、しかも魔物を倒す事に必要な聖属性の魔術を使えないのだ。
だから、帰る途中で見つけた魔物を倒してもらったのだけど、普通の人なら聖水を剣にかけてやっと魔物を斬ることができるのに、酒吞と茨木の手にかかると、ゴブリンが木っ端微塵になったのだ。鬼の力は恐ろしいね。
「ああ、構わない。俺は暴れられて、面白おかしく生きていけるなら、それでいい。あと、たらふく酒を飲みたい」
酒吞らしい言い分だ。その隣の茨木はにこにこと微笑みながら答える。
「私も退屈しなければ、それでいいですよ。それに人に使役される鬼もいることですし、この選択肢もありだと思いますよ」
茨木は私の方を見てニコリと笑った。え?私は陰陽師じゃないから、鬼を使役することはないよ?
因みに私はこの部屋での定位置である一人がけ用のソファに座るルディの膝の上に鎮座している。
「ならば、こちらの郷に従ってもらうがいいか?色は違うがこの組織に所属する衣服がその袋の中に入っている。先程いた隊員に用意させたが、大きさが合わなければ、別の物を用意させよう。それから、住むところは流石に人と同じ場所に住むというのは、こちらとして問題があるので、この上で過ごしてもらうけれどいいか?」
「住むところに拘りはねーよ。雨風を凌げればそれでいい」
酒吞の言葉に同意するように、茨木も頷いている。なんだか、二人は拘りという物が本当にないのだろうか。
「ねぇ、酒吞と茨木にはこれだけは譲れないってものはないの?全部は叶えられないだろうけど、言っておいた方がいいよ。因みに私は自由が欲しい。悉く却下され続けているけれどね」
「くっ。自由か。まぁ、それもいいが。俺は退屈しなければいい。退屈ほどつまらないものはねーよな。あと酒は飲みたい」
つまり、酒吞はお酒が飲めればいいということだね。
「私はそうですね。面白おかしくあればいいですよ」
なんか二人共退屈が嫌だと言わんばかりだね。うーん、それはどうだろう?基本的に第13部隊はお仕事無くて、暇だからね。まぁ、その分自由な時間はあるけれどね。
「それなら大丈夫だ。アンジュといれば退屈しないだろう」
なんですと?!それはどういう事かな?ルディ?
ルディに向かって文句を言おうとしていたら、廊下につながる扉が開き、二人の人物が入ってきた。一人は勿論ファルだけど、もう一人は水色の長い髪をなびかせて入ってきた侍従だった。
わざわざ侍従が何の用のだろう。あ、今回の仕事の事か。しかし、微妙に角の無い茨木とキャラ被ってない?髪の毛色は微妙に違うけど、味方側と敵側だから良いのか?いや、侍従の方が悪魔神父の様な性格の悪さが滲み出て···いえ、何でもありません。
「この度はお疲れさまでした。シュレイン第13部隊長」
澄ました顔でルディに声をかけ、ちらりと鬼の二人を一瞥して、ルディが座っている向かい側の一人掛け用のソファに腰を降ろす侍従。
ルディは何も答えず、侍従から次の言葉が出てくるのを待っているようだ。
「今回、何が原因であのような事が起きたのか、確認をしたくて来たのですが、思ったよりもお元気そうで何よりです」
何故、私に視線を向けて話してくる。今の私は空気なので、無視をして欲しい。
「それで、今回も原因は同じなのですか?」
澄ました顔で質問してくる侍従。ルディは『ああ』と答えるだけに留める。
「何があったのですか?」
「何も問題は無かった。それでいいだろ?侍従フリーデンハイド」
「それはまかり通らないことですよ。シュレイン第13部隊長」
「······」
「······」
あのー。私、すごく居心地が悪いのだけど、この部屋から出ていっていいかな?部屋の空気がピリピリとしている。
今日はずっと背後がピリピリしたから、もう部屋に戻ってゆっくりしたい。お腹空いたしなぁ。宿舎に戻っていいかな?
私はピリピリした空気を打ち破るべく、右手を上げる。
「お腹が空いたので、私は宿舎に戻りたいです!」
「ぶっ!この雰囲気で腹が減ったって」
笑い上戸に言われたくない。私はもう疲れたよ。