100 レイグラーシアの指輪+α(おまけ話)
「アンジュは何を言っているんだ?」
とんぼ返りでファルを置いていった街に戻ってきた。初日に泊まったジジェル?の街ほど大きくないけれど、ワイバーンを預かってくれる牧場がある街だ。うーん、ワイバーンは速くて移動には便利だけど、中々預かってくれるところが無いようで、そこが不便だよね。
そのファルが眉間にシワを寄せて、お前馬鹿という視線を私に向けている。
「だから、酒吞と茨木を第13部隊で面倒みれない?」
再度、私は同じ事を言ってみる。
「そもそも、俺はこいつらが何者か理解出来ていない。だから、反対だ!」
「それは、今回依頼を受けていた討伐対象。第10部隊の人たちからオーガの変異種だと言われている鬼たち」
その鬼達は人の姿のまま、夕食を食べている。酒吞は酒が主食かと言わんばかりに、酒を飲み、つまみに肉を食べている。朝とは大違いだ。茨木は使い慣れていないだろうに、器用にフォークとナイフを使って食べている。箸はこの世界に無いからね。
ファルのこめかみがピクピクと動いている。どうしたのだろう?
「ちょっと待て!オニというモノはオーガの事だったのか!」
うーん?オーガと同じかと問われれば、どうだろう。見た目はオーガに似ているかもしれないけれど····
「オーガって炎を操ったり、氷を操ったりできる?」
「そんな事になれば、それはもうオーガじゃないだろう···え?魔術が使えるのか?」
「我々は妖術と言っていますね」
食事に舌鼓を打っている茨木が答えた。
「一般的には鬼火が有名ですかね」
そう言って手の平を上に向けた茨木が青白い炎を出した。あ、うん。鬼火だね。
その炎を見たルディとファルが一斉に私の方を見た。え?私は何もしていないよ?
「鬼火だよ?私は何もしていないよ?」
「アンジュ、本当に何もしていないのか?」
ファル、疑り深いね。私は両手をヒラヒラさせて、何もしていないアピールをする。
「あと、気になったことがあるのだが、アレは聖痕なのか?」
ファルは酒を水の様に飲んでいる酒吞を指し示した。いや、正確には右側のこれみよがしに見せつけている青い入れ墨だ。
「あれは入れ墨。元々は罪人の証だったかな?相手を威圧するためだったり、ファッションの一部だったり多様化はしているけれど?」
因みに酒吞の入れ墨は虎のように見える。眼力がすごい虎だ。
「ああ、これのことですか?」
茨木は襟元を緩めて、左腕をそこからぐぐっと出した。遠○の金さんですか!桜吹雪であることを期待していると、左の胸から腕にかけて鱗だった。正確には龍の入れ墨だ。
虎と龍!!信玄と謙···失礼しました。
こちらも眼力が威圧的な龍の絵柄だった。
「ただの自己満足ですよ」
そう言って、茨木は微笑んだ。その微笑みと龍の図柄があっていない。恐らく茨木も怒らすと怖い鬼なのだろう。
「その絵」
ルディが茨木の入れ墨を見て言った。
「コレと同じだ」
ルディが懐から一枚のハンカチを出した。私が刺繍をした攻撃力が倍化するアイテムだ。
それを見た茨木は苦笑いを浮かべる。うっ。下手な刺繍でごめんなさい。
「正確には違いますよ。それは昇竜ですよね。私の図柄は八方睨みですよ」
茨木は図柄にこだわりがあったようだが、恐らくルディは生物的に同じだと聞きたいのだろう。まぁ、これも想像上の架空生物だけどね。
「龍も種類がいっぱいいるからね。有名どころは青龍かな?『出でよ青龍』なんちゃって」
どこぞかの7つの玉を集める漫画風にふざけて言ってみたら、私の左の方からバフッと音がした。恐る恐るそちらに視線を向けていみると、左手の小指の呪いの指輪から青い蛇がうねうねと飛び出ていた。
「ぎゃー!!呪いの指輪から!神父様の呪いの指輪から変なのが出てきた!!」
思わず遠ざけるように手を前に出してみたけど、指輪が抜けないから意味がなかった。
「おい、アマテラスが呼び出すから青龍が出てきただけだろ?すっげー項垂れているいるぞ」
酒を水のように飲んでいた、酒吞が呆れたように言う。酒吞が言ったように青い蛇は指輪から、でろーんと垂れ下がっていた。
「だから、私の名前はそんな大層な名前じゃない!アンジュだって言っているし!」
いくら酒吞に言っても名前を覚えてくれない。
「同じだろ?」
という風に毎回言われてしまうのだ。私はそんな神の名を騙ったことはない!
「呼び出しておいて、それはないと思いますよ、アンジュ様」
私に様付けしないでよ、茨木!私はそんな偉い人物じゃないから!
「グフッ。レイグラーシアの指輪から精霊を呼び出しておいて否定するなんて、アンジュは酷いな····ブフッ」
この笑い上戸が!!私は断じて呼び出していない!
「なぜ、リュミエール神父のレイグラーシアの指輪からなんだ?なぜ、俺の方の指輪じゃないんだ?」
私の隣から不穏な気配が醸し出されていた。ルディ。だから、私は呼び出したわけじゃない。黒い何かを出してブツブツ言わないでほしいのだけど?周りがなんだか歪んで見えるのだけど?
「アンジュ!何でもいいから呼び出してシュレインの機嫌を取ってくれ」
先程まで肩をピクピクさせて笑っていたファルが慌てて私に無理難題を言ってきた。だから、呼び出そうとして呼び出したわけじゃないから!!!
100話のおまけ話
✦わたくしと婚約者様のお茶会
今日はとても楽しみにしていましたの。だって、私の婚約者様のアイレイーリス公爵様に一ヶ月ぶりに会えるのですもの。
普段は魔物を討伐をお仕事としている聖騎士団にいらっしゃるので、普段は王都の北側の聖騎士団の敷地から出られることはないのですけど、今日だけは特別なのです。だって、わたくしに会うために来てくださるのですから。
一月ぶりにお会いしたアイレイーリス公爵様はお変わりないようで、キラキラとした金髪に宝石のような美しい緑の瞳をわたくしに向けて微笑んでくださっているのです。
どうして、こんな素敵なアイレイーリス公爵様をお姉様が嫌っていたのか、わたくしには理解できませんわ。
「この一月はどのように過ごされていたのですか?」
アイレイーリス公爵様がわたくしの事を聞いてくださいます。ですから、この一ヶ月あった事をお話したのです。
劇場に行ったことや、仲のいい侯爵令嬢のお茶会に行った話や、庭に秋の花の見頃になっているので、後で庭を案内するとお誘いのお話もしましたの。
アイレイーリス公爵様と二人きりでお庭を散策するときはいつもと違う感じがして、とてもドキドキするのです。
きゃっ!
な、何でしょう。何も見えないぐらい真っ暗になってしまいましたわ。こ、怖いですわ。まるでこの世界に光が失われてしまったかのようです。
「カトリーヌ嬢。大丈夫ですか?」
アイレイーリス公爵様はわたくしの手を握ってくださいました。わたくしは全く見えませんのに、アイレイーリス公爵様は見ることができるのでしょうか?
「アイレイーリス公爵様はこの闇の中見ることができるのですか?」
「見えませんが、見えなくても良いように訓練しておりますので」
さすが、聖騎士でいらっしゃるのですね。でも、なんだかドキドキしてしまいます。まるで、この世界にはわたくしとアイレイーリス公爵様しか居ないようです。
「カトリーヌ嬢。申し訳ないのですが、問題が発生したので、今日はこれで退席させてもらいます」
「え?」
そのとき、世界が元に戻りました。闇の色から、金と緑の色が私の目に映り込みます。
しかし、見慣れたアイレイーリス公爵様の顔はとても厳しい表情をしておられました。まるで、知らない人のようです。
いいえ、これが聖騎士としてのアイレイーリス様のお顔ですのね。
「今回のお詫びは何か贈り物をお送りします」
そう言葉を残されて、アイレイーリス公爵様は部屋を出いこうとされています。わたくしは慌ててその背中を追いかけます。
「でしたら、来週に行われます訓練の演習に行ってもよろしいでしょうか?」
半年に一度、外部の人が聖騎士団の敷地に入ることが許される日があるのです。それが、全12部隊が揃う公開演習の日なのです。何度かお願いしているのですが、毎回カトリーヌ嬢が見ても面白いものではないですよ。と言われ断られてしまうのです。
「今回のお茶会のお詫びは、わたくしを公開演習に呼んでいただくことでよろしいですわ」
我がままかもしれませんが、少しでもアイレイーリス公爵様のお姿を見たいのですわ。
「わかりました。今回のお詫びとして、公開演習の招待状をお送りしましょう」
嬉しいですわ。やっと公開演習に行けるのですわね。
「私は公開演習には参加はしませんが」
そうお言葉を残してアイレイーリス公爵様は部屋の扉を閉じられました。
え?どういうことでしょう?全12部隊が参加するのですわよね?あ、きっとアイレイーリス公爵様は忙しいのですわね。さすが、わたくしの婚約者様ですわ。
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