魔紋
アティリオ目線です。
「魔紋が現れただと?」
「はい、ドゥルイカ殿下の身体にくっきりと。」
「まさか……」
「魔紋ってなんだ?」
ラミエルが割って入ってきた。
「家紋と同じと思っていただければ。どの血筋の魔力使いかを表すものです。」
この医師は魔力使いではない。ただ彼の家系は代々我が王族一家の医師として仕えてくれている。よって彼の家系なりに魔力や魔力使いについて知識を蓄えているのだろう。
「それがドゥルイカ様の身体に現れたということは…」
「魔力を受けた、ということです。しかもかなりの強さの魔力を」
もはや1人しか思い当たらない。
「ネフェリアーナ嬢」
「バルドメオの妖精」
「バルドメオ公爵のご令嬢」
3人がそれぞれ同時に別々の呼び名で、それでいて、ただ1人の人物を言い当てた。
ちなみにこの医師は昼間にネフェリアーナの傷の手当てをしたので彼女と面識はある。
「魔紋が残る理由は2つしかありません。
自分が誰であるかを示し力を誇示したい時。もしくは魔力が暴発した時です。
おそらく今回は暴発と考えてよろしいかと。」
「そうだな、ネフェリアーナ嬢が力を誇示したとは考えにくい。」
「そんな力があるならわざわざあんな一撃をかます必要ないしな。」
ラミエルはまた「ククッ」と笑った。
「公爵が異常なまでに娘を表舞台に出さなかった理由はこれだったか」
「で、どこの血筋なのだ?」
「それです、殿下。それを探していてこんな時間になってしまいました。
どの文献を探しても見当たらず。結局見つけたのは最古の書と言われる書物でした。」
医師は抱えていた書物を机に置きページを開いた。
「レオデオール家」
「はい、しかもこの魔系は何百年も前に途絶えたと言われています。それゆえ見つけ出すのに時間がかかってしまいました。」
「しかし途絶えてはいなかった。脈々と繋がっていたということか。」
「はい。誰にも何にも知られずに」
「母親の血筋か」
「ええ、そうですね。
そしてこの血筋には特徴があるようです。」
「なんだ?」
「レオデオール家は一世代に1人魔力を持つ者が生まれるようです。」
「我が一族と同じか!」
「はい。魔力を持つ者が魔力を持つ子を産むと。」
「待て!ちょっと待て!ってことはアティリオ、お前の長年の問題が今この瞬間に解決したじゃないか!
お前は男、天使は女。共に魔力を持つ子どもを生む者同士。解決だ!よし、結婚しよう!」
しかし私と医師はラミエルのように諸手を挙げて喜ぶことが出来なかった。
「なんだ?なぜ2人してそんな難しい顔をしてるんだ?」
「ラミエル様、たしかにお2人が結婚されれば魔力を持つ子が生まれることは確実です。」
「そうだ。だから言ってるじゃないか」
「しかしながら、これは我が国王の血筋を揺るがす大問題です。」
「わからん、アティリオ訳せ。」
「つまり我らの間に魔力を持つ子が生まれるとする。が、それは一体どちらの血筋が影響して生まれたのか?セレスティノ家か?レオデオール家か?」
「問題か?」
「ああ、問題だ。
その子がレオデオール家の血筋だった場合、数世代先には我がセレスティノ家の血筋は途絶える。我が国の国王の血筋がレオデオール家になるのだ。」
それから我々3人は終わるともない議論を重ねた。空が白み始めた頃、ラミエルが言った。
「そういえば薄っすらとした記憶だが昔、父上が話していたことがある気がする。今突然思い出したんだが…昔は国王に寵愛された魔力使いもいた、と。」
「可能性は否定できませんね。長い歴史の中ではもしかすると違う魔系の血筋も混ざったことがあるかもしれません」
ーーーたしかにあるかもしれない。しかしながら今、私が決断できるのだろうか。決断して良いのだろうか。
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あれから丸2日。私は考え続けている。どうしても答えが出せない。
一人の男としての答えはとっくに出ている。
しかし王位継承者としての答えを出す勇気がないのだ。
父に相談したい。そう思って病から目を覚まさない父の枕元に何時間も座った。
父なら何と言うだろうか。構わないと言ってくれるだろうか。それとも…
3日目の朝、目を覚ますと同時に何故か不意に心が決まった。
そしてバルドメオ公爵家を訪ねるべくラミエルを呼んだ。