呪い
引き続き、アティリオ目線です
私の一族には一世代に1人必ず魔力を持つ者が生まれる。
そしてその者は国王となる。
簡単な話だ。だが現実は簡単ではない。
なぜなら魔力を持つ者、それが誰との間に産まれ、何番目の子どもとして生まれるかわからないからだ。
考えてみてほしい。それは地獄の始まりだ。
1人の女性を娶る。だがその女性との間に魔力を持つ子が生まれなかった。では次の女性。その女性もダメだった。では次の女性、次の女性…魔力を持つ子が生まれるまで永遠に繰り返されるのだ。
もはや男の甲斐性などという話ではない。義務だ。終わりの見えない仕事なのだ。
私の父は2人の妃をもった。
2人目の女性で決着が着いて良かったとでも?まさか…
我が国では国王の妻は妃。魔力を持つ子を生んだ妃だけが王妃と呼ばれる。
第一妃は第一王子を生んだ。彼は魔力を持たなかった。
その後、第一妃との間に子どもが恵まれず、父王は私の母を第二妃として迎えた。
魔力を持つ私が生まれた。
母は王妃となった。
そして第一妃は自害した。
第一妃の自害に母はひどく心を痛めた。
同じ女性としてどこまでも偶然に左右される運命の残酷さと悲しみに耐えきれなかったのだ。
ある時、病に臥した母はそのまま帰らぬ人となった。
命を取られるような病ではなかったが、母にはもはや生きる気力が残っていなかったのだ。
そして兄上が正気を失ったのも、やはり魔力のせいだ。魔力を持たないということが彼の心を壊したのだ。
父が私に言ったことがある。
「アティリオよ。
国王とはなんだ?魔力とはなんだ?
私には呪いにしか思えない。
そして、そう思う人間が国王でいいのかすら…
今の私にはわからないのだ。」
父の深い悲しみの言葉は抜けない棘となり私の心に今も刺さったままだ。
私は21歳となり、王子としてはとっくに婚約者を見つけ、なんなら結婚していても良い年齢だ。
なのに私には婚約者どころか恋人すらいない。
ムリなのだ。考えられないのだ。
愛する女性に第一妃や母のような悲しみを味わわせるのか。
では愛していない女性ならばいいのか?
まさか。愛情がないからと言ってその女性を苦しめて良いわけではない。
それに私自身、愛していない女性と生涯を共になどしたくない。
いや、わかっている。私には将来国王となる者としての責任がある。
魔力を持つ子を生まなければいけない。
生まれるまで何度でも、何人とでも、誰とでも…考えるだけで反吐が出る。
いっそこの血を絶やしてしまいたいと思う。
しかし小国である我が国が歴史上一度も侵略を許していないのはひとえに魔力を持つ国王がいるからだ。
そして小国ながら他の国々と同等かそれ以上の繁栄を誇っているのも同じくだ。
魔力を持たない国王が誕生したら…明日にでも侵攻されるであろう。
結局いつかは心を殺し女性を迎えなければいけないのだ。誰を?何人?…本気で反吐が出そうだ。
正直に言おう。ネフェリアーナを見た瞬間、おそらく私は恋に落ちた。
卑劣な事を起こしながらも内密にすませたいと思う私の意を先回りした彼女の気遣いと聡明さ。
擦りむけた手の平を気づかれないよう平然と振る舞う彼女。たまらなく愛おしく感じてしまった。
女性に対してこんな想いを抱くのは初めてだ。
だからこそ尚更強く思うのだ。
論外だ。
論外だと思わなければいけない…彼女の幸せを思うなら。
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激しいノック音に、私の思考は現実にもどされた。
入室してきたのは王宮医師。彼は真っ青な顔をしてひどく慌てていた。
「で、殿下、このような時間に申し訳ございません」
「構わない。どうした?」
「それが…大変なことが」
『大変なこと』はもう十分だ。勘弁してほしい。一体今日はなんなのだ。
しかし彼の報告は、『大変なこと』どころか私の、敷いては我が国の未来を大きく揺るがす事柄だった。