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出会い。そして処刑宣告?!

ネフェリアーナ目線です。

ネフェリアーナとアティリオが出会います。

ネフェリアーナの人となりが詰まっています。

 廊下から人々の声が聞こえた。

 扉が開けられると駆け込んできたのは憲兵…ではなく明らかに高位の方だとわかる真紅の軍服を身に纏った背の高いなんとも美しく凛々しい男性だった。


 その方は私に向かい姿勢を正し挨拶を…しようとされたのだと思う。思ったけれど私は彼を押しのけた。彼の後ろにいるシスターに気づいたからだ。


「シスター!!」

「おっと」彼の小さい驚きの声が聞こえた気がした。が、そんなの今はどうでもいいのだ!


「シスター!シスター!マリリエは?マリリエは大丈夫でしたか?」

「ネフェリアーナ様!ええ、ええ、大丈夫ですよ。それよりネフェリアーナ様こそお怪我は?」

 いつもはゆっくり落ち着いた口調で話すシスターが早口で答えた。

「私なんてどうでもいいのです、シスター」


 そして私は横にいる殿方に聞こえないように小さい声でシスターの耳元に囁いた。

「あの…本当にマリリエは大丈夫でしたか?何も…あの…その…」

 私の質問の意図をすぐに理解したシスターは温かい微笑みをたたえ

「ええ、大丈夫です。押されて転んだ時にネフェリアーナ様が来られたと。それに先程、王宮から来てくださった医師が診てくださったので大丈夫ですよ。」

 いつものゆっくりとした口調で答えて下さった。


「そうですか!」

 良かった!良かった良かった良かった!それだけがずっと心配だったのだ。


 私は急に身体から力が抜けていく気がして思わずその場に座り込みそうになった。

 その瞬間、横にいた真紅の軍服男性が私の身体を支えてくれた。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい」

 ーーって、近〜いっ!!顔が、お、お顔がすぐここに!!


 自慢じゃないが私は父とダンスの先生以外の男性に触れられたことはない。日本人JCの記憶にも男性は登場しないのだ。それがいきなりこんな…しかもこんな…美の暴力!!


 私は急いで立ち上がり

「大丈夫です。大変失礼いたしました」と深々と頭を下げた。というのは口実で一刻も早く離れたかったし、何より明らかに真っ赤になっているであろう顔を隠したかった。


「ふっ、いえいえ」

 男性が私を見て優しく笑った。

「少しお話をさせて頂きたいので座りませんか?」


 お、お話?!その瞬間真っ赤だった私の顔から一気に血の気が引いた。


 ーーお話=処罰だよね、はいはい、縛首?ですよね?そうですよね、まぁ仕方ない。

 ーーでもマリリエを助けられたんだもの後悔なんてないわ!堂々と受けて立ってやる!…最後にこんな美しいお顔を拝めたのはラッキーだし…いやいや、きっとこの方に今から死刑宣告されるのかしら、私…。




 シスターと私が並んで座ると、男性は向かいのソファに腰を下ろした。

 私の監視役をしていた人物は彼の後ろに立った。


「さて、あらためて…アティリオ・セレスティノ・エドマンド第二王子です」


 ーーはああああ???だ、だ、第二王子ですって?!先に言ってよ!!


 私は急いで立ち上がると膝を折り最敬礼の姿勢で述べた。

「大変失礼いたしました。第二王子殿下とは存じ上げず先からのご無礼お許し下さいませ。

 私はバルドメオ公爵娘、ネフェリアーナ・バルドメオでございます」


「バルドメオの妖精!!!」

 第二王子の後ろに立っていた男性が声を上げた。

「ゴホゴホッ、大変失礼いたしました」

 第二王子は後ろの男性を少し睨んで言った。

「彼は私の側近ラミエル・ロドルフォートです。

 …そうですか、あなたがバルドメオ公爵令嬢ですか。

 どうぞお座り下さい、ご令嬢。」


 第二王子はまた柔らかく微笑んだ。それにしてもなんて優しく微笑む方だろうか。


「失礼しました、でも彼が驚くのも無理はありません。私も実は驚いています。

 バルドメオ公爵にお美しいご令嬢がいらっしゃることは噂で聞いていましたが…公爵はご令嬢を大変大事にされており、決して表に出されない。

 私もお会いするのは今日が初めてですね。

 私の顔もご存知なかったくらいだ」

「!!!!!申し訳ございませんっ!!」

「ハハハ、冗談ですよ」


 ーーやらかしすぎ、私。そして、ごめんなさい、ヘンな汗かきすぎて全然お話が頭に入ってきてません。

 とりあえず非礼を謝り続けとこう。…ん?今さらなのか?手遅れなのか?

 ーーいやいや、だってだって、たしか第二王子は我が国の王位継承者。ということはこの方には魔力があるってこと。

 ーー待って…ということは、もしかして処罰って…魔力でネズミにされたりとか…ネズミ…ネズミかぁ…縛首よりマシ?ネズミになってもお父様とお母様は可愛がってくれるかしら…


 頭の中大パニックな私は完全に上の空でかなり挙動不審だったのか

「大丈夫ですか?」

 と聞かれてしまった。

「はい、大丈夫です」…縛首かネズミか気になるだけです。


 ラミエル様が彼に何かを耳打ちした。

 すると殿下は大きく目を見開き私に言った。

「あなたは私があなたに処罰を下すと思っていらっしゃるのですか?」

「…はぁ、それは…あの、当然のことかと…」…縛首ですか?ネズミですか?


 すると彼は困ったような顔で笑った。…そんな笑顔すらも素敵だ。

「心配させて申し訳なかった。あなたを処罰するつもりなどありませんよ。むしろ私はあなた方に謝らなければなりません。」


 私とシスターは思わず顔を見合わせた。

「シスター、そしてネフェリアーナ嬢、今日のことは本当に申し訳なかった。」

 そう言うと殿下は私達に頭を下げた。

 シスターが驚いて彼を制止した。

「いや、シスター、これは全て私の責任だ。私の判断が間違っていたのです。」


 柔らかな微笑みは影をなくし、彼の顔には苦渋の色が広がった。

「第一王子である私の兄は数年前から心に病を抱えていました。

 そして最近になってあるまじき問題行動を起こすようになった…今日の彼の蛮行で察して頂きたいのだが…

 彼を幽閉すべきという意見もあった。

 しかしこれまでの彼の蛮行は城内であり全て未然に防げたこと、そして何より私にとっては…彼は唯一の兄弟。兄を幽閉するという決断がどうしても出来なかった。

 しかし私のその甘さが今日の蛮行に繋がったのです。

 私がもっと早く決断していればこんなことは起きなかった。」


 第二王子は両手で顔を覆い、たった1人苦痛に耐えているように見えた。


「ネフェリアーナ嬢、今日あなたが兄を止めてくれなければ本当に大変なことになっていた。考えるだけでも恐ろしいことだ。

 あなたには感謝こそすれ処罰などとんでもないのですよ。」

 彼はそう言うと弱々しく微笑み、そしてしっかりと前を向いて言った。

「今日を限りに私も決断を下すつもりです。」



 真摯に謝罪する第二王子を見ながら、いつか聞いた父の言葉を思い出していた。


「ネフィ、我が国の国王が国民に慕われているのは魔力を持っているからではない。

 陛下は魔力を持っているにも関わらず決して奢ることなく常に真摯に国民に向き合い、国民を思い、国民の声に耳を傾けようとされている。

 その姿に人々は感謝しお慕い申し上げるのだよ。」


 今私の目の前にいる第二王子もきっと国民が心からお慕いできる国王になられるに違いない。


「アティリオ殿下、そのようなご事情でしたら、今日のことはこの場所で終わりにしてはいかがでしょうか?」

 私はいたたまれず声をかけた。


「いま、この場で、私達の胸におさめ、終わりにいたしませんか?

 マリリエのためにも、ここにいる子ども達のためにも、そうすることが最善かと…」

「…よろしいのですか?」

 シスターと私は相談したわけではないが、共に顔を見合わせ頷いた。

「すまない、ありがとう」


 第一王子の蛮行が広まったら王室が大変なことになる。それくらい私にだってわかる。そしてそれを殿下が言い出しにくいことも。


「ということで、今日のことは私の父にも内緒にしていただけますか?」

 処罰がないなら…いっそのこと何もなかったことにできないものだろうか…あわよくば的に言ってみたところ

「それはいけません、ネフェリアーナ様」

 横から矢が飛んできた。

「でもシスター」

 シスターは私の会心の一撃をご存知ないから…


「そうですね、申し訳ないが、さすがにバルドメオ公爵に報告しないわけにはいきません。私が大目玉をくらってしまいます」

 殿下の顔に少しだけ柔らかさが戻った。

「大丈夫ですよ、あなたの『勇姿』はかいつまんでご報告しますから」


 ーーうっ……ま、そうですよね、ムリですよね、世の中そんなに甘くない、はいはい。 


 気づくと殿下が私を見て笑っていた。

 絶対あきれられてる…穴があったら入りたい…


 殿下は「失礼」と言うとラミエル様に何かを言った。

 殿下の言葉を聞いた彼はなぜか驚いて私を見たあと

「すぐに」

 と部屋を急いで出ていった。


「では私はこれで失礼いたします。」

 殿下が立ち上がった。

 私達にもう一度謝罪し、立ち去る挨拶を済ませると、

「今、ラミエルに王宮から連れてきた医師をこちらへ案内させています。

 ネフェリアーナ嬢、あなたの手もきちんと手当てしてもらって下さい」

 殿下は優しい目で私を見ながらそう言った。

「ネフェリアーナ様!やはりケガをされていたのですね!」

 シスターが慌てた。

「いえいえ、違います違います。大丈夫です。こんなの舐めとけば治ります、はい」


 私は第一王子を殴った閂のせいで少し手を擦りむいていた。

 ーー今の今まで痛みは感じなかったし、それどころではなかったし…第一、どんだけボコったんだよって思われそうで黙ってたんだけどな。

 殿下はいつ気づかれたのだろう。


 ーーま、とりあえず縛首からもネズミからも解放されたことだけはたしかだわ!

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