美しい天使
ラミエル目線続きます。
いい味出してるラミエルを楽しんで頂けたらと思っています。
それにしても美しい。この天使はどこの令嬢なのだろう。
天使の『勇姿』場面に駆けつけた私は、被害を受けた少女をシスターに預け、気絶している第一王子を侍従達に預けた。
そして天使と共に孤児院内の部屋で殿下の到着を待っている。
私は部屋の扉の隣に立ち、ソファに座る彼女をじっくりと観察させて頂く。
地味なドレスに侍女がつけているような前掛けをしている。料理でもしていたのか?
しかし立ち居振る舞いから見るに決して村の娘などではない。
そして何より地味なドレス。いや、違う、それは地味に見えるように仕立てられたドレスだ。使われている布地、控えめではあるが緻密で繊細な刺繍。それなりの高価なドレスだろう。
高位貴族の令嬢か?
いや、それなら私も見知っているはずだ。しかも高位貴族の令嬢は、たとえ孤児院に訪問したとしても前掛けなどするはずがない。
どういうことだ?
不意に…ここであの『勇姿』が脳裏に蘇った。
「くくっ…」私はうつむき笑いをこらえた。こんな天使になら私も一度くらい踏みつけられたい…おっと失礼。
「あの…」
急に声をかけられた。もはや声すら美しいではないか。
「?」
「手紙を書いてもよろしいですか?」
「手紙…ですか?……構いません…が」
何故手紙なのかと思ったが手持ち無沙汰なのだろう。殿下が到着するまではまだ時間がかかりそうだ、了承しておこう。但し申し訳ないがあとで検閲させて頂かねばな。
天使は迷うことなく部屋の隅にあるチェストに向かうと、2段目の引き出しから便箋と封筒を取り出し、手紙を書き始めた。
窓から差し込む陽の光を浴びてテーブルに向かう天使はまるで神の祝福のようだ。私はしばし彼女に見惚れていた。
少しすると彼女が立ち上がり私の方へ近づいてきた。私の心拍数が確実に上がったことを正直に白状しておこう。
「これを託してもよろしいですか?」
「?」
「私はこのままどこかへ連れて行かれるんですよね?そうなると、私にとってはあなたが最後に自由に言葉を交わせる方かと思います。
なのであなたにお願いがございます。
この手紙を私の両親へ渡して頂けませんか?」
「?????」
ーーーなるほど、この天使は自分が重い処分を受けると思っていらっしゃる。…そんなことはあり得ないのだが。しかしそれを私から言うわけにはいかない。
とにかく私は手紙を受け取った。検閲もできるし。
「…ご両親とは…」
そう言いかけたところで廊下から数人の声と足音が聞こえてきた。
到着されたか。
「失礼」
天使に告げて、私は部屋の扉を開いた。
高潮した顔を苦痛に歪ませ、肩で息をしながらやってくるアティリオ殿下…こんな時でも美しいとは一体どういうことだろう。
部屋に入ろうとする彼の耳元で軽く状況を説明した。
「ふ、ふ、踏みつけ?」
「ああ」私は笑いをこらえた。
彼は目を見開いて驚くと同時にすぐそこに立つ天使と対面した。
彼が息を呑む音が聞こえたように思った。
だろ?天使なんだ、友よ。
おや?そういえばこうして見ると2人はお似合いなのではないか?
こんな状況でなければ「うまくやれよ」と、友として肩のひとつでも叩いてやりたいものだ。