離れなさい!
ネフェリアーナのやらかし、始まります。
意見の分かれそうな表現・描写があります。ご了承ください。
あれから6年経った今、私の日常はまさに平穏だ。
魔力とも、本当に私に魔力があるのかと疑ってしまうほど無縁で過ごしていた。
学院には行っていない。
舞踏会に関しては、年に数回、我が家が立場上主催せざるを得ない舞踏会にのみ出席している…お迎えの挨拶だけだが…それも何回かに一度だが…。
舞踏会はたしかに華やかなドレスを着ることが出来るという1日お姫様体験的にはワクワクするが、友人もいない私には何一つ楽しい場ではない。ただひたすらジロジロと好奇の目に晒されるだけの時間で苦痛でしかない。
私の日常の中で1つだけ10歳の時から変わったことがある。
私は数年前から領地内の孤児院にお手伝いに行っているのだ。
孤児院は国に属する。が、もちろん国が直接運営・維持するわけもなく教会に託され、数名のシスターが子ども達の世話をしている。
様々な理由から両親と離れた子ども達の集まる場所。『母に捨てられた私』の記憶を持つ私がその子どもたちに思いを重ねてしまうのは必然だった。
心配する両親を説き伏せ、週に1〜2回通うようになった。
私は公爵令嬢という肩書きがあるものの、なんせ家が世界なのでたいていのことは遊び感覚で教えてもらってきた。
侍女達は裁縫や刺繍の先生で、料理長も大好きな先生の1人、そして掃除も庭仕事も皆が教えてくれて手伝わせてくれた。
両親も決してそれを咎めることはなかった。
そして日本人JCの経験もとても役に立っていた。母に捨てられたも同然だった私は幼い時から身の回りのことは自分でしていた。
そんなこんなで私は孤児院でもシスターを手伝うことができたのだ。
最初の頃は「そんなことお嬢様にさせられません」と言っていたシスター達も今では「ネフェリアーナ様これをお願い!」なとど用事を任せてくれる。
それがとても嬉しい。
子ども達も私を慕ってくれる。私にはとても大切でかけがえのない場所だ。
そんなある日、孤児院で事件は起きた。
その日は子ども達とパンを焼こうということになった。
私は調理室のある建物からほんの少し離れた穀物庫へ調理に使用する粉を取りに行ったのだが、穀物庫の扉を開けようとしたとき、誰かの話し声と「ひっ!」という消え入るようなか細い声が聞こえた…ように思えた。
胸がざわつき、穀物庫の横に回ってみると…
5歳になるマリリエという少女に見知らぬ男が馬乗りになっているではないか!
『ブチンッ!!!!』脳がキレた音が聞こえた。
「離れなさい!!!!」
私が叫ぶと男は横に吹っ飛び仰向けになった。
私は手にしていた穀物庫の扉の閂棒で男をガンガン殴った。
「や、や、やめろ!!ふざけるな!!やめろ!俺を誰だと……うわっ!」
「誰であろうと!関係ないっ!」
「やめろ!俺は…俺は…第一王子だぞ!誰か助けてくれ!やめろ〜〜!!」
だ、だ、第一王子?!
その瞬間の私の脳内の高速回転ときたら…
こいつ第一王子→私、縛首→こいつ無罪放免→私、死亡→こいつ絶対またやらかす→私既に死んでる、助けられない。
ーーーーー決まった……潰す!
私は右足を上げると、思い切り全体重をかけて第一王子の股関を踏みつけた。