冒険者ギルド
三話目!
「こっちは商業エリアだよ。屋台とかじゃなくて、店舗としてのお店が立ち並んでるんだ。他の街と違って、便箋や封筒なんかの紙類を扱う専門店もあるんだ」
「へぇ。流石は文通の街と言ったところでしょうか」
私はセイルさんの案内の下、街の中でも特ににぎやかな商業エリアを訪れていました。
そこはかなり賑わっているようで、赤レンガ造りのパン屋さんからは食欲をそそる香りがしますし、雑貨屋には興味をそそられる小物が置いてあります。露天の店主が元気に宣伝をする声も聞こえますし、かなり活気のある街なんじゃないでしょうか。
「あっちの方は住宅エリアだね。僕の家も向こうさ。旅人向けの宿もいくつかあるから、宿を探す時は住宅エリアに行ってね」
私が旅人ということを考慮してか、セイルさんは親切にも、いくつかオススメの宿を教えてくれました。
「お陰で宿に目星が付きました。ありがとうございます」
「気にしないでくれ。あと、向こうは貴族エリア。さっき手紙を届けたところだね。貴族様専用のエリアだから、あまり入らない方がいいかもね。他には言うべきことはないかな」
そして、セイルさんはとっておきとばかりに両手を広げて、ある施設を紹介してくれました。
「最後にここ。僕の働いている、中央郵便局だよ!」
「おぉー!」
明るめの赤を基調とした、長方形の建物。壁に書かれている文字は、『ヒュプノス中央郵便事務局』。略して中央郵便局という訳ですか。赤い外壁に太陽の光を反射していて綺麗です。
「ここは文通都市だからね。毎日たくさんの手紙が街中を行き来している。それらを総括しているのが中央郵便局さ。郵便配達員には、分かりやすい目印があるんだ。それがこの赤い制服。ヒュプノスで郵便関連の仕事をしている人は、みんな着ているいるから、いい目印になるよ」
「へぇ〜」
ちょうど通りかかった女性を見ると、制服と同じデザインで、青い服を着ていました。抱えているカバンから手紙の端が見えているので、恐らく配達員さんなのでしょう。
「あそこに青い制服を着た方がいらっしゃいますが、何か違うんですか?」
「あぁ、青い制服はヒュプノスの外、他の国や街への配達員さ。僕みたいな赤い制服はヒュプノス内の配達員。試験に受からないと青服にはなれないんだ。……既に2回落ちたけどね」
「あはは……元気出してください」
しょんぼりとするセイルさん。何というか、頑張ってください。
……おっと、忘れるところでした。身分証明書を作らなければいけないのをすっかり忘れていました。
「あの、もう一つだけお伺いしたいことが……」
「どうしたんだい?」
「身分証明書って、どこで作れるでしょうか?」
「身分証明書……ふむ。旅人でも扱える証明書なら、ギルドに登録するのがおすすめだよ」
ふむ、ギルドですか。職業ごとに色んな支部があり、仕事を受ける際に、仲介役もこなしてくれると本に書いてありましたが、どうなんでしょうか。
「この街にあるギルドは三つ。一つ、冒険者ギルド。街で傭兵なんかの雇われ仕事をやっている人や旅人なんかが多いね。時々魔物の討伐なんかを請け負ったりしているみたい。
二つ、商業ギルド。何か物を販売するとき、ギルドに登録しておくと、開店資金なんかの援助をしてくれる。商業ギルド同士の店では割引が発生する、っていう利点もある。
三つ、これはこの街独特のものなんだけど、郵便ギルド。中央郵便局の別名に当たるってだけだね。郵便関連の仕事でなければ関わる必要も無いと思う。
やっぱり、おすすめは冒険者ギルドだよ。旅をするなら自由度の高い方が良いだろうからね」
「なるほど……では、冒険者ギルドで作ってみたいと思います。セイルさんも午後のお仕事があるでしょうし、そろそろ失礼させて頂きます。頼りきりなのも悪いですから」
「僕としては特に気にしてないけど……まぁいいや。冒険者ギルドはここから南西の通りをしばらく行くと、右手側に見える石レンガの建物だよ。じゃあ、頑張ってね」
「はい、ありがとうございました」
お礼を言ってセイルさんと別れました。思えば迷惑をかけっぱなしだったので、後でもう一度お礼を言いたいところですね。
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「ここですね」
今度こそ、迷うことなく冒険者ギルドに辿り着くことができました。……何でしょう、この妙な達成感は。
「ごめんくださーい」
そっと冒険者ギルドの無骨な扉を開きます。中からは冒険者たちの喧騒が聞こえてきました。ですが、私が入った途端、誰かがゴクリと生唾を呑むような音が聞こえました。みな好奇の視線で私を見つめていました。全員、私の美貌に酔いしれてしまいましたか。私も罪な女ですねぇ……って、いくら私が美少女でも、そんなことはないでしょう。
そう思いましたが、聞き耳を立てれば、案外間違ってもなかったようです。
「なんだあの美少女……」
「すっげー髪綺麗だな……」
「おい、誰か勧誘してこいよ」
「無理だって、俺にはハードルたけぇよ!」
ふふ。意外と気分良いもんですね。勧誘はバッチリお断りですが。
足取り軽く受付へと向かいます。
たまたま手の空いていた、茶髪の受付嬢さんに話しかけます。どことなくセイルさんを連想させますね。髪色が似ているからでしょうか?
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「身分証明をするために、ギルドカードを作りたいのですが」
「新規登録の方ですね。少々お待ちください」
彼女は一度裏方へ引っ込み、書類を片手に、すぐに戻ってきました。とっても手際がいいです。
「新規登録でしたら、まずはこちらの記入用紙に個人情報をお願いします」
「わかりました」
私は、受け取った紙に名前、年齢、出身、職業なんかを書き込んでいきました。順にヴァイオレット、15、ゼタの村、旅人、です。
「これでいいですか?」
「はい。ではカードを作成している間に、こちらをお読みください」
と言って冊子を一つ渡されました。どうやら冒険者ギルドに関するいろはが書いてあるようです。
内容を掻い摘んで話すと、基本的に自己責任、依頼はギルドを通して行う、毎年一度はギルドカードを更新する、などなど、あんまり気にする必要のなさそうな内容でした。一人旅なので元々自己責任ですし、依頼を受ける気は特にないです。行く街ごとにギルドはあるでしょうし、更新も問題ないですね。
「お待たせしました。こちらが冒険者ギルドのギルドカードになります」
「おぉ!」
そうこうしている内に出来上がったギルドカード。よし、これで身分証明書も問題ありません。
「では、ありがとうございました」
「またご利用ください」
終始お堅い雰囲気の受付さんでしたが、最後は軽い笑みをたたえ、手を振ってお見送りしてくれました。きっと女性客が珍しいんでしょう。
「さてと。そろそろ宿でも探しましょうか」
日が傾き始め、地面に伸びる影も長くなっていました。私の背も、この影みたいにもう少し伸びてくれると嬉しいんですけどね。
夕暮れ時の斜陽を浴びながら、目星をつけた宿を巡るのでした。




