鉱山街の寂酒場
遅くなって大変申し訳ございません。
隣町コーラルに向かうため、駅にやってきた私たちですが、汽車に乗るなんて初めての体験です。
「絵本で読んだことありますけど、確か石炭を燃やすことで動くんでしたよね。なんか、煙を出しながら」
「ネールさん詳しいですね。ですが確か、出しているのは煙ではなく蒸気だった筈です」
ゼルさんに駅の利用方法を教わったので、その通り動きます。ちなみに、ゼルさんによると、この2枚は行き用と帰り用だったらしく、帰りの分は向こうで買わなくちゃいけないそうです。
まず駅員さんに持っている切符を見せ、切符を切って貰います。これでひとまずオッケー。汽車が止まる、ホームまで進みます。
緊張しながら待つこと1分弱。ポッポー、という音とともに汽車がその姿を現しました。
「おー! これはテンション上がりますね!」
「えぇ。本で見た通りです」
真っ黒でシックな雰囲気を醸し出す先頭車両。そこに客車が数両続きます。駅員さんの案内に従い汽車に乗り込むと、外見とは反し、ふわっとした木の香りがしました。どうやら車内は木製のようですね。
座席には黒や赤の平らなクッションが置かれ、座り心地を良くしています。地獄のような揺れを生み出す馬車とは大違いです。
そして、汽車が駅を発車しました。
窓から見えるのはウィレッド村の街並み。まばらに並んだ家々の中に、ゼルさんのお家も見えました。遠目に箒に乗っているゼルさんが見えます。あ、落ちました。お怪我が無いことを祈ります。
ウィレッド村を抜け、丘の上を走る汽車。車窓からは、のどかな草原が見えています。
「わぁ、ヴァイオレットさん、見てください! 鳥さんと並走してますよ!!」
「本当ですね。飛んでいる鳥をここまでじっくり見たのは初めてです」
それからしばらく、私たちは初めて乗った汽車を堪能しました。
目的地のコーラルへは小一時間ほどで到着しました。到着のアナ
ウンスが流れ、汽車を降りました。そのまま駅から外へ出ます。
「ここがコーラルですか。何というか、ウィレッド村とは随分雰囲気が違いますね」
「あれ? ネールたちが乗ってきた汽車とは別に、小さめの線路がありますね。あれって何でしょう?」
ネールさんの指差した先にあるのは、鉱山の方へと続く線路。一度、本で見たことがあります。確か、鉱山街では採れた鉱石を運搬するのにトロッコを使うのだとか。
「あれは、トロッコ用の線路だと思います。鉱山で取れた石炭や鉱石類を運ぶのに使われるそうですよ」
「へぇ〜、流石ヴァイオレットさん。物知りぃ〜!」
「前に本で見ただけですよ」
キラキラした眼差しを向けてくるネールさんに少し戸惑いつつも、私たちは鉱山街コーラルへと足を踏み入れました。
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「それで私たち、何を採りに行くんでしたっけ?」
「ネールさんったら、もう忘れちゃったんですか? 私たちが探すのは白金、プラチナですよ」
「あ、そうですプラチナです! 確か、空飛ぶ箒の軸に使うんでしたっけ」
「そうです。では、まず情報を集めましょうか」
「はーい!」
情報といえば……酒場です! 鉱山に潜る鉱夫さんや、一攫千金を狙って訪れる冒険者さんたちが集まる場所。……正直、あそこの空気は苦手ではありますが、集まる情報量は確かですからね。
少し歩いていると、すぐに見つかりました。大通りから少し外れた場所。少し色褪せていますが、店先に貼られたビールジョッキの看板。あそこが酒場で間違い無いでしょう。
私は、そっと扉を開けます。
「失礼しまーす……ってあれ?」
「どうしたんですか? ヴァイオレットさん」
「い、いえ、何でも」
開いた扉から中を覗いてみると、そこは、お客さんの一人も居ない、閑散とした酒場でした。そこで唯一、カウンターで煙草を蒸している方が居ました。
「おう、いらっしゃい。うちはお客さんが来るってだけで珍しいってのに、まさか嬢ちゃんらみたいな別嬪さんが来るとはな。ま、座んな座んな」
「あっ、は、はい。失礼します」
「お邪魔しまーす」
私たちは、カウンターにいる方に勧められるままに、ネールさんと並んでカウンター席につきました。彼はややお年を取られた方ですが、なんというか、カラッと晴れた荒野のような雰囲気でした。
「それで、何にする?」
「では……紅茶を一つ」
「ネールはミルクティーで!」
「あいよ。紅茶にミルクティーね」
彼は戸棚から材料を取り出し、手際よく紅茶を淹れていきます。まだ淹れている途中だというのに、茶葉の良い匂いが鼻腔をくすぐってきます。
「ほら、完成だ。飲んだら是非、感想をくれないか?」
「えぇ。では頂きます」
「ネールのはどこです?」
「ははは、ちょいと待ってな。今出してやっからよ」
程なくしてネールさんのミルクティーも用意され、それぞれ注文したお茶を口につけます。
「どうだ?」
「美味しいです! これは、フルーツ系の茶葉でしょうか?」
「お、嬢ちゃん分かってんじゃねぇか。そいつはアールグレイって言ってな。柑橘系のフレーバーがついてる。見たところあんたは旅人だろ? だから長旅ご苦労さん、ってことでリラックス効果のあるやつを選ばせてもらったよ」
「おっしゃる通り。私はヴァイオレット、旅人です」
「ネールはネールです! ヴァイオレットさんのメイドなのです!」
「自己紹介あんがとな。俺はジーク。ここ、酒場『木漏れ日』のオーナーだ。よろしくな」
「ジークさんの御慧眼には恐れ入ります。まさか、一目見ただけで旅人とわかるなんて。荷物も少ないですし、よく分かりましたね?」
「ま、それは年の功ってもんさ。大方どちらさんかが『アイテムボックス』でも使えんだろ? 今まで色ーんな客を見てきたからな。それくらい分かるぜ」
素直にすごいと思ってしまいました。積み上げた経験が、あの鋭い観察眼を生むのでしょうか。それにしても、こんなに美味しいお茶と、鋭い観察眼を持ち、人柄も良いオーナーさんが揃っているのに、どうしてお客さんがいらっしゃらないんでしょうか?
「お嬢ちゃん……どうしてこの店がすっからかんなのか疑問、って顔してんな? 教えてやろう。この店の人気が無いのは、ひとえに、酒をださねぇからだ」
「……お酒を?」
「おうともよ。正直、酒は人を狂わせると思ってる。飲みすぎるとその理性をも奪ってしまうからな。それに、あんな事故はもう御免だ。……おっとすまんな。空気を重くするつもりは無かったんだが……」
「いえ、大丈夫です」
恐らく、過去にお酒絡みでトラブルがあったんでしょう。でも、それならどうして酒場を開いているのでしょうか……しかし、それを聞くのは憚られますね。またいつか、教えて頂けたらなと思います。




