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実験失敗

 翌朝。借りたお部屋で目が覚めました。


 ネールさんのおでこに手を当てると、うん、熱は下がっているようです。実は、昨日の夕飯の時、ネールさんの料理にはちょこっとだけエルフの里で貰った万能薬を入れていました。味に変わりはありませんし、多分気づかれて無いでしょう。


 その一手間が効いてくれたのなら、私はとても嬉しく思います。


 ネールさんの寝顔をボーッと眺めていると、ふとパンが焼けるようないい匂いがしました。リビングに顔を出すと、ゼルさんが朝食を用意してくれているところでした。


「あ、ヴァイオレットさん。おはよう。ネールさんの体調はどうだった?」

「おはようございます。熱は下がってたみたいですね。少しもすれば起きて来るんじゃないでしょうか」

「それは良かった。じゃ、これ二人の分の朝ごはん。僕はちょっと試作してくる。ヴァイオレットさんのお陰でヒントを得られたんだ。ありがとう」


 ゼルさんはそう言い残し、ワクワク顔で去っていきました。


 少し待っていると、ネールさんが起きてきました。顔色は……バッチリ戻っているようです。


「ヴァイオレットさーん! ネール完全復活です!」

「えぇ。熱もすっかり下がったみたいで良かったです」

「看病ありがとうございました。正直、ヴァイオレットさんの優しい表情をもっと見ていたくて今朝は寝たふりしてしました」

「あなたと言う人は! ……恥ずかしいのでやめてください……」

「ふふふ……この目にバッチリ焼き付けましたからね〜!」


 あぁ〜、まさか起きていたなんて! ですが、特別に許してあげましょう。まったくもう……。


「ゼルさんが朝食を作ってくれましたから、一緒に食べましょう」

「あ、ゼルさんと言えばあの人にもお礼を言いたいんですけど、彼はどこに?」

「研究室だと思いますよ。後で行きましょうか」

「分かりました」


 ゼルさん作の朝食は、バターが塗られた食パンに、トマトとキャベツのミニサラダでした。食パン……バターと合いますね。


 美味しい朝食を頂き、ネールさんと一緒に彼の研究室へ向かいます。


「失礼しまーす……って外ですか」


 研究室の中にゼルさんの姿はありませんでした。きっと、外で試作品の実験をしているのでしょう。


 シャッターを潜って表に出ると、案の定ゼルさんがいました。


「ゼルさん、朝食ありがとうございました。美味しかったです」

「それは良かった。ネールさんも体調が回復したみたいだね」

「お二人のお陰ですよ! 本当にありがとうございます!」


 回復を嬉しく思う中で、ネールさんがゼルさんの手元にある箒に興味を持ったようです。実を言うと、私も気になっていました。何ゆえ箒?


「ところでゼルさん。どうして箒を? 庭掃除でもされてたんですか?」

「いや、これも立派な試作品だよ。名前は『ウィッチブルーム』。昨日ヴァイオレットさんが言ってたよね。『上から引っ張るんじゃなくて、下から持ち上げられたら』って。だから、箒に乗っかって、下から持ち上げてもらえばいいんだ」

「それは分かりましたけど、どうして箒を選んだんですか?」

「おとぎ話でもよくあるじゃないか。魔女が箒に乗ってるシーンが」


 確かに、幼い頃好きだった旅する魔女のお話で、彼女は空飛ぶ箒に乗っていました。まさかそこから着想を?


「それにしても、見た目は完全にただの箒ですけど、本当に飛ぶんですか?」

「もちろん。見ててくれ」


 彼は箒に跨ると、軽快に地面を蹴りました。


 すると、彼の足は地を離れ、その身を空へ旅立たせました。しかし、しばらく宙を飛んだ後、箒が力の抜けたように落ちてきました。


「うわっ、とっととと。痛てて……やっぱりダメだね」

「大丈夫ですか!?」


 落ちてきたゼルさんに、驚いた顔で急いで駆け寄るネールさん。『アイテムボックス』から傷薬を取り出し、傷口に塗っていました。どうやら足を怪我してしまったようです。


「大丈夫だよ。ただの擦り傷だから。それよりも、この箒だよ。構造は多分合ってるはず。これは多分、軸にミスリルを使う必要がありそうだね」

「プラチナを?」

「あぁ。これは予想だけど、プラチナとミスリルの合金に出来れば完璧だ。今は銀を軸に使ったけど、すぐにパワー不足で落ちてくる。ミスリルは、他の試作品から取り出して再利用するつもりだけど、プラチナが足りない。 普段は姉さんが届けてくれるんだけど、いつ来るか分からないし……これはまた、隣町で鉱山に潜る他ないかぁ」


 なるほど。銀も、確かに魔力との親和性が高いと言いますが、プラチナやミスリルほどではありません。そして、プラチナが足りないと。私たちは彼に宿を貸していただいたご恩があります。なら、答えは一つです。


「私たちが採りに行きますよ」

「えぇっ!? いや、そんな、悪いよ。女の子にわざわざ採りに行かせるなんて僕には出来ないし、それに結構大変なんだよ……?」

「ヴァイオレットさんの言う通り、もちろんこのネールも手伝いますよ! ゼルさんには一宿一飯のご恩がありますし、お返しさせてください!」

「う、う〜ん……分かった。お願いするよ。あんまり女の子たちに危険な目に遭ってほしく無いんだけど……じゃあこれ。コーラルまでは汽車が出てるんだ。その切符だよ。元々自分で行く用だったんだけど……君たちに任せることにするよ。本当にありがとう」


 ゼルさんによると、ここウィレッド村の隣町、コーラルは鉱山で栄えている町。鉄や石炭に加え、深部には銀やミスリルの鉱脈もある珍しい町。この村にも一本だけ通っている線路は、コーラル産の鉄を使っているそうです。


 私たちは、ミスリルを手に入れるため、コーラルに向かう汽車が出ると言う駅へ向かいました。

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