試作品
「これが僕の作った試作品たちだよ」
「わぁー、本当にたくさん試してきたんですね……!」
私は今、ゼルさんの研究室にお邪魔しています。そこは、所狭しと図面や機械が並んでおり、壁の一面がシャッターになっていました。そこから外に出て、いつでも試作品を試せるようにしているそうです。私の目の前には、大量の試作品が並んでいます。空を飛ぶための道具ですが、翼以外にもたくさんの形式のものがありました。
「いっぱいあるんだけど、全部失敗例なんだ。例えばこれ。ジェットブーツって呼んでるんだけど」
彼が手に取ったのは、ちょっと大きめなくらいで見た目はいたって普通な一対の靴でした。外に出て実験してくれるそうです。
「これを履いてこのリモコンを操作すると……こんな風に浮けるんだ」
「おぉー! ……え?」
靴底からジェットが噴き出し、彼が浮いた! ……と思ったら、ひっくり返って逆さまになってしまいました。
「動力源が足にあるからさ、足が上にきて、履いてる人がひっくり返っちゃうんだよね。頭に血が登っちゃうし、実用的じゃない」
「逆さまなままで冷静に解説しないでください」
「あとこれ、頭からしか着地できないんだよね」
そう言うと、彼はジェットを切り、ドシャ、と地面に落ちました。
「で、次はこれ。フラインググライダーって言うんだ。パラグライダーって知ってる? 布なんかで風を受けて滑空する道具なんだけど、それで飛べるようにしてみたんだ」
「へぇーもしかして、これを両手で掴んで飛ぶんですか?」
「そうそう。見ててね」
そう言った彼が、グライダーを両手で頭の上に掲げたかと思えば、魔法により上昇気流が発生し、彼がゆっくりと空へ浮き上がって行きました。
「凄いですね。本当に飛べてるじゃないですか!」
「ここまでは良いんだ。でもね……これも欠点が幾つかあってさ。まず純粋に腕が疲れるって言う点。ずっと空を飛ぶにはキツイ。長時間飛べば明日は筋肉痛間違いなしだ。そして、事故が起きやすい点。軽量化を図った結果操作性が落ちちゃってさ。これがギリギリ耐えられる重さなんだけど、操作性が悪くて思った方向に行けなかったり、低空だと鳥や木にぶつかっちゃうんだ」
「……なるほど」
画期的ですが、確かに腕が疲れそうです。女性なら尚更では無いでしょうか……うん。良さそうに思えましたが、難しいですね。
「上から引っ張るんじゃなくて、下から持ち上げられたら良いんですけどね」
「うーむ、考えてみるよ。今は何も閃かないなぁ」
試作品を考えるのも難しいみたいですね。試作品の数が、彼がどれだけこの研究に力を注いできたのか物語っていますね。
「で、これがさっき使ってたスタンダードな翼型。こいつはジャンプウィング。結構本物の羽に近い使い方が出来るんだ。ウィング部分にミスリルを使ってるんだ。魔力との親和性が高いから、風魔法を纏わせて跳躍すると、かなりの大ジャンプができるんだ。そこから滑空して飛ぶ形になるんだけど、いかんせんコストが高い。ミスリルを使ってるからね……それに、最終的には滑空になっちゃうから、飛ぶってのとは違うなぁって」
私たちと会った時に落ちてきたのは、おおかた滑空中に魔力が切れた、とかでしょう。何となくそんな気がします。
「他にもいっぱいあるんだけど、どれもこれも飛ぶ時の体勢がキツかったり、魔力や肉体的に限界があったり、軽量化が足りずに低空しか飛べなかったり、あとは飛べるには飛べるけど暴走機関になったり……欠点だらけなんだよね。一歩や二歩足りないような気がするんだ。うーん。あ、試したかったら使ってみても良いよ。あまりオススメはしないけれど」
「……見るだけにしておきます」
その後もいくらか見せてもらいましたが、飛ぶというより跳ぶ、な道具がたくさんありました。これを通して、やはり鳥やドラゴンと言った羽の生えた生き物が偉大だと言うことが分かりました。
「やっぱりアイラも飛んでみたいですか?」
「キュア、キュ!」
「そうですか。大きくなったら、その翼でいつか飛べると良いですね」
「あれ、ヴァイオレットさん。その子は?」
「この子はアイラです。フロストドラゴンの幼竜なんですよ」
「へぇー、撫でてもいいかな?」
「どうぞ」
「キュア!」
「ははっ、やっぱり生き物の赤ちゃんってのは可愛いものだね」
それにはとても同感です。アイラもこんなに可愛いんですもの。
そろそろ日も傾き始める時間なので、ネールさんの様子を見に部屋へ戻ります。
「すぅー、すぅー……」
「ふふっ。ネールさんも可愛らしい寝顔じゃないですか。そろそろ熱も下がってきたみたいですね。よし、なら起きた時には栄養を摂らせてあげなきゃ行けませんね」
未だ眠ったままですが、呼吸も整い、熱も治まってきたようです。早めに休ませることができて本当によかったです。
「まだ眠っていました。ですが、熱も下がってきた見たいなのでそっとしておきます」
「それは良かった。あ、氷のうは預かるよ。僕が片付けておく」
「あ、お台所を借りても良いですか? お礼と言ってはなんですが、夕飯をお作りしたいな、と」
「それは助かる。研究室にいるから、完成したら呼んでくれるかい?」
「了解しました」
と、言うわけで今日の夕飯は私が作ります。最近はネールさんに任せきりだったので、たまには私がお返ししてあげなければ。折角の機会ですし、うんと舌を巻かせてやりますよ。
その後料理が出来上がると、良い匂いに釣られて起きてきたネールさん、研究熱心なゼルさんと一緒に夕飯を頂きました。メニューは、私の得意料理である、鶏肉入りホワイトシチューです。寝込んでいたネールさんのために野菜類を多めにして、かつやや小さめに刻んであります。うん、我ながら会心の出来。最高に美味しい。二人からも絶賛されました。ネールさんはまだ辛そうですが、少しの間でもその笑顔が見られたので嬉しかったです。
メインのシチューも食べ終わり、デザートのりんごを剥いていると、ネールさんがそっと口を開きました。
「シチュー、美味しかったです。そして、ヴァイオレットさんとゼルさん。二人にはご迷惑をおかけしました」
「何言ってるんですか。私もお世話になってるんですから、お互い様です。いつもの料理、美味しく頂かせて貰ってますよ」
「迷惑なんて、気にしないで。小さい頃から人には優しくしろって教わってきたからね。今更このスタンスを変えるつもりは無いよ」
「二人とも……ありがとうございます。もう少しだけ、お世話にならせてください」
いっぱい休んで、早く治してくださいね。




