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船上の仮面/星に願いを

「うーむ、やはり不可解です……」

「船のことですか?」

「えぇ。どうして金属製なのに水に浮いているんでしょうか……」


 実際に乗ってみれば何か分かるかもと思いましたが、特に魔法が使われている様子もなく、順調に船は大海原へ漕ぎ出しています。


「それにしても、明日には中央大陸ですか。早いですねー」

「中央大陸の技術力には脱帽ですね」


 中央大陸は他の大陸より一歩も二歩も先を行く技術力を持っています。船もその賜物の一つです。中央大陸の王都サンタマリアは、マリシャスの数倍の規模を誇り、世界で最も栄えた都市とも言えるでしょう。


 私たちは、屋上からの景色を楽しみつつ、しばし船に揺られるのでした。


 船に乗ってから数時間経ちましたが、そろそろ景色にも飽きてきました。どこを見ても青い海、青い空。ずっと変わり映えせず、新鮮みに欠けます。今は一人で船内を脳内マッピング中です。迷子になりたくは無いですからね。


「あれ、セイルさん、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」

「うーん、船酔いみたいだ。ちょっと気分が悪い。部屋で休んでくるよ……」

「お大事にしてくださいね」


 セイルさんは船酔いですか。確かに、船は細かな揺れが多いですから、酔ってしまうのも仕方ないでしょう。


 私たちは、ジャックさんから貰った酔い止めを飲んでいるので、体調に問題はありません。


「……毎度最適解をくれるのはありがたいのですが、姿が見えないのでちょっと怖いですけど」

「誰が怖いと?」


 奴は角から現れました。ヌルっと目の前に現れた白黒の仮面に思わず驚いてしまいました。


 独り言のつもりでしたが、どうやら聞いていたようです。


「あの……急に出てこないでください。その見た目で角から現れるとか正気ですか?」

「何もそこまで言わなくてもいいではないか。私は平常運転なのだからな」

「……というか、何でいるんですか」

「言っただろう、いずれまた会おう、とな。それに、私も中央大陸に用があるからな。なに、しばしの航海を楽しもうじゃないか」

「一人でどうぞ。私はネールさんを探しに行きますので」

「ネールとやらは部屋で寝ておるようだぞ。それより、セイルとやらにこいつを届けてやれ」

「酔い止め、ですか。ありがたく受け取っておきます」

「本来酔う前に飲むものだが、酔ってからでも効果はある」


 酔い止めとは、また役立つアイテムを持っていますね、この人は。私は、以前から気になっていたことを聞くことにしました。


「ジャックさん、あなたはどうして私の手助けをするのですか?」

「それがあやつからの依頼だからだ」

「依頼?」

「いかにも。私は何でも屋。依頼内容を提示し見合った対価で何でもする。たとえそれが殺しでも」

「っ……!」

「そう警戒するでない。私の今回の依頼主は素晴らしい対価をくれた。何でも屋の誇りにかけて、それに見合った働きをせねばならん」

「なるほど……それで、あなたの依頼主は一体誰なんですか?」

「おっと、それ以上は企業秘密だ。依頼主の情報を出すわけにはいかぬからな。だが、その人物はお前を少なからず大事に思っている。信用してあげたらどうだ?」

「そもそもあなたが信用ならないのですが……まぁ、詮索はやめておきます。私は酔い止めを渡しに行くのでもう行きますね」

「あぁ。いずれまた会おう。ハーハッハッハ!」

「やかましいですよ」


 彼が目の前の角を曲がったと思ったら、既にその姿はありませんでした。ほんっと急に現れて急に去っていくねどうにかならないんでしょうか。心臓に悪いです。


「さて、早く酔い止めを届けに行きましょうか」



 その日の夜。夕食を頂き、外に出ると、夜空には数多の星が輝いていました。


「今日はいつもより星空が魅力的に映りますね」

「周りに何もないからかわかりませんけど、本当に綺麗ですね〜」

「あ、今流れ星じゃなかったか?」

「流れ星に願いを言うと、神様が叶えてくれるそうですよ」

「本当だ! ネールも願い事しなきゃ……!」

「ふふっ、じゃあ私もお願いしましょうか」

「僕は妹の幸せを願おうかな」


 本当にいいお兄さんじゃないですか。ベルさんは幸せ者ですね。さて、私のお願いは何にしましょうか。うーん、じゃあこうしましょう。


「……ますように」

「ヴァイオレットさーん、何をお願いしたんですかー?」

「ネールさんと、セイルさんの願いが叶いますように、です。ネールさんは何にしたんですか?」

「私は、ヴァイオレットさんの願いが叶いますように、って……」

「それじゃあ、神様も困っちゃいますね」


 私たちはお互いの顔を見て笑い合いました。まさかおんなじ願いをしてるなんて。なら、ベルさんには何としても幸せになってもらわなきゃですね。


「そろそろ遅いですし、寝ましょうか」

「そうだね。今日は寝込んでただけだったけどちょっと疲れたよ」

「じゃあ、おやすみなさーい」

「おやすみ」「おやすみなさい」


 そう言って、船の上で一夜を明かしたのでした。目的地はもうすぐです。


-------


 流れ星は色んな場所で観測されていた。


 それは文通都市ヒュプノスでも例外ではない。


 お菓子作りが趣味の冒険者ギルドの受付嬢が、両手を合わせて何かを願った。


「兄が、幸せでいられますように」


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