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蛍石の街

 海岸洞窟を出ると、空はすでに茜色。再び、歩きにくい砂浜を抜けてポートルーネへ戻りました。宿は昼間のうちに取ってあります。私たちは宿へ向かい、ようやく腰を落ち着けることが出来ました。


「ふう、日が落ちる前に戻れてよかったですね」

「はい。夜ご飯はここの食堂ですよね?」


 その日の夕食は、鮭という魚を焼いて味付けした物でした。醤油をかけ、白いお米と一緒に頂きましたが、最高でしたね。お箸、という物は初めて使いましたが、難なく扱えました。ちなみに、ネールさんは諦めてスプーンを借りていました。また、お箸は東大陸の発祥だそうで、この焼き鮭も『和食』の一部だそうです。ごちそうさまでした。私はとても満足です。


「いやぁ、美味しかったですね」

「ネール、あんな料理初めて食べました! お箸……は、使えなかったですけど、あの味は忘れられません!」

「お魚は、焼いて醤油をかける、という簡単な調理でもあんなに美味しく作れるものなんですね」

「ネールも野営の時に作れないか試して見たいです!」


 宿の部屋は二人で一部屋。最初は二つ取ろうと思ったのですが、お金を節約するためにも! と迫られて、ゴリ押しされました。それぞれ別のベッドに腰掛けながら雑談をしていると、不意に、窓の外が明るいことに気付きました。


「あれ? 何だか外が明るいですね」

「あ、本当だ。窓を開けて見てみますか?」

「お願いします」


 何か催し事でもやってるいるのでしょうか、なんて思いながら窓から顔を出します。


「わぁ、街全体がぼんやりと光っていますね」

「あ、よく見ると白い壁のところがあるところだけ光ってますね。どうして何でしょうね?」

「そういえば、ここの女将さんが言ってました。この街の建物の壁は、ほとんどホタル石から作った塗料で塗装されているそうですよ」


 女将さん曰く、海からの潮風は、建物の壁や屋根なんかを劣化させたり錆びさせることがあるらしいのです。そこで、この街では、ホタル石と呼ばれる天然石を加工し、塗料にしたものを塗っているそう。その影響で、ポートルーネの建物の壁は夜に淡く光るそうです。ホタル石とはフローライトの別名であり、ポートルーネはフローライトの生産が盛んなのだそう。昼間に訪れた洞窟のような場所が幾つもあるのでしょう。


「へぇー、それにしても綺麗ですねー」


 窓から身を乗り出して外を見つめるネールさんの横顔は、どこか寂しげに感じました。何か聞こうかと思いましたが、その前にネールさんが自分のベッド潜り込んでしまいました。


「ヴァイオレットさん、そろそろ寝ましょう。明日もどこか見て回るんですよね?」

「……えぇ、おやすみなさい」

「おやすみなさーい」


 彼女が寝たあと、私は日課である日記を書いて、同じく眠りに落ちました。


-------


 それから残りの二日で、ポートルーネ周辺の色んなスポットを訪れました。


 星屑の浜では、星の砂、という砂を集めてみました。その名の通り、星のような形をした砂が出来る砂浜でした。普通の砂の中から星の砂を探すのは、何だかトレジャーハンターにでもなった気分で楽しかったです。アイラもポケットから出て砂浜で遊んでいました。二人ともご満悦だったようで、キャッキャと笑い合っていました。手足が砂だらけでしたけど。


 風穴岩洞窟は、崖の地形が穴だらけになっており、人が通れるような大きな穴から、指一本しか入らないような小さな穴まで様々でした。洞窟の中に入って声を出すと、音が洞窟中に反響して面白かったですね。ネールさんに名前を呼ばれても、どこから呼ばれているかさっぱり分かりませんでした。


 他にも、ビーチボールという物を借りて、砂浜で遊んだりもしました。アイラがボールを頭の上に乗っけてバランスを取るのが上手でした。


---------


 そんなこんなで3日が過ぎ、ついに船が到着する日がやってきました。


「いよいよ今日ですね、ヴァイオレットさん!」

「えぇ。まずは船を見に行きましょうか。出発は昼前なので、やや急いで行きますよ」

「はーい」


 まずは朝ご飯です。宿の一階に降りて食事を頂きます。今朝はフィッシュサンドイッチというもので、焼き魚を細かくしたものをパンに挟んで食べました。薄い塩味とパンの組み合わせが新鮮でした。


 フィッシュサンドイッチを食べ、荷物の整理に部屋へ戻ると、机の上に何かが置いてありました。


「これは……何かのお薬でしょうか?」


 小さな小瓶に4粒ほどの白い錠剤が入っていました。よく見ると、メモがくっついています。手にとってみると、誰かからの差し入れのようです。


「なになに、『船に乗るのなら、この酔い止めを飲みたまえ。一人2錠、乗船1時間以上前までにな。━━親切な仮面の男、ジャック=カンパニューラより』……またあの人ですか。というか、一体どうやって入ったんですか……」

「ヴァイオレットさん? どうかしたんですか?」

「いえ、前に知人から酔い止めを頂いたので、ネールさんにも渡しておこうと思いまして。お水をあげますから、2錠飲んでくださいね」

「お薬ですか……? うう、苦いのは嫌です……」

「そんなに言うなら、私が先に飲みますよ」


 私は水を一杯準備して、錠剤を2つ、口の中へ放り込みます。そして水と一緒に飲み込んでしまいました。何の疑いもなく飲んでしまいましたが、まぁ大丈夫でしょう。ジャックさんはなんとなく信用できそうなので、


「うん、特に苦いとかは無いですよ。ちょっとスースーしますがね」

「じゃあネールも……苦!? ヴァイオレットさんの嘘つき! やっぱり苦いじゃないですか!?」

「ほら、水をどうぞ。一緒に飲み込んでください」

「んく、んく、ぷはぁ。飲めました……というか、苦かったんですけど?」

「すみません。味覚は同じではないですし、悪気は無いので許してください」

「む〜、許しますけど、次からは気をつけてください」

「えぇ、善処しますよ」


 ……そんなに苦くないと思ったんですけどね。



 そんなこんなで、私たちはようやく船と対面することになりました。


「本当に海に浮いてるんですね」

「すっごく大きいです! 一体ヴァイオレットさん何人分なんでしょうか……!」

「私を単位みたいに扱わないでください」

「えぇ〜、いいと思いますよ、1ヴァイオレット」

「やめてください」


 単位の話はさておき、本当に大きいです。冒険者ギルドなんかの建物が丸々海の上に浮いているみたいです。船の前の人だかりは、おそらく乗船される方々なのでしょう。人だかりの中に、セイルさんの姿を見つけました。


「セイルさーん!」

「あ、ヴァイオレットさんにネールさんも。おはよう」

「おはようございます。何というか、焼けましたか?」


 セイルさんは、顔や腕など、肌の一部が日に焼けていました。きっと、お仕事だったのでしょうね。


「あぁ、うん。昨日一昨日は特に、日中ずっと街中を走り回ってたからね。なんか海にきた、って感じがするね」

「やっぱりでしたか。ご苦労様です」


 そんな感じで、海や船を眺めながら雑談をしていると、どんどん人が乗船していっていました。ちょうど人がはけてきたところで、私たちも続きます。


「あ、次は私たちみたいですよ。行きましょう」

「船の上ってどんな感じなんでしょうね?」

「それは乗ってからのお楽しみだね。あ、ネールさん、早くしないと置いていかれてるよ」

「あ、待ってくださーい!」


 こうして私たちは、定期船『クラーケン』に乗船するのでした。クラーケン、って何のことを指しているんでしょうね?


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