再開とフローライト
「もしかしてヴァイオレットさん?」
「あなたは……! セイルさんじゃないですか」
「そう言う君はやっぱりヴァイオレットさんだ。久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです」
私に声を掛けてくれたのは、文通都市ヒュプノスでお世話になったセイルさんでした。この帽子をくれたのも彼です。
「あのぉ〜、そろそろネールにも紹介してくださいよ〜」
「あ、ごめんなさい。彼はセイルさん。ヒュプノス、っていう街で、困っていた私を助けてくれたんですよ」
「初めまして、セイルです。郵便物の配達員をやってるから、どこかに手紙を届けたい時は是非僕に相談してね」
「ネールです。ヴァイオレットさんのメイドをやらせてもらってます。よろしくお願いします」
「立ち話も何だし、どこかお店に入ろうか。お昼ご飯はまだだよね?」
私たちは手頃な定食屋さんを見つけ、食事をしながらこれまでについて語り合いました。
「中央大陸へは、お仕事ですか?」
「うん。僕も出世できたみたいで、ヒュプノス以外の街や国での依頼が来るようになってさ。毎日やりがいのある仕事をさせてもらってるよ。寒冷地にあるスティアって国に行った時には、パスタ屋の主人からヴァイオレットさんの話を聞いてびっくりしたよ。まさか、丸ごと氷像になった街を救っちゃうなんてね。それにフロストドラゴンの子どもも預かってるんだろ? 本当にすごいよね」
「この子のことですね」
「わお、本物だ!」
「キュァ!」
セイルさんは出世街道まっしぐらで、お仕事が充実しているようで良かったです。しかしまさか、彩りパスタのご主人ことガイルさんと会っているとは。どうでもいいですが、お二人の名前ってすごい似てますよね。
アイラの頭をなでなでしているセイルさん。やはりアイラは皆さんにとっての癒しの象徴です。
「そういえば、妹さんは元気ですか?」
「あぁ、ベルなら心配ご無用。ヴァイオレットさんのお陰で兄妹仲は良好だよ。ギルド職員として今も頑張ってる」
「そうですか、それは良かったです」
「あの時はヴァイオレットさんにお礼を言おうと思ったのに、もう出て行ったって聞いてびっくりしました。なので改めてお礼を言わせてください。ありがとうございました」
「いえいえ、お気になさらず」
カッコつけて黙って出ていっただけなのでその話を掘り返されると少し恥ずかしいですね……あ、そうだ。そろそろこちらの話も聞いてもらいましょう。
「今度は、私たちの話をしましょうか」
「お、是非聞かせてください」
私は、これまで訪れた街や国の話をしました。氷漬けの街、黄金蝶と少女、エルフの里の少年、ネールさんとの出会い。まだまだ訪れた場所は少ないですが、それでも話せることはたくさんありました。食事を食べ終わるまでの間、会話が絶えることはありませんでした。結局、1時間以上話し込んでいたようです。
会計を済ませ、定食屋の主人にお礼を言って外に出ます。随分長居してしまいましたからね。
「じゃあ僕はこれで。今日中に届けなきゃいけない手紙が幾つかあるから。次は定期船で、また会おう」
「はい。色々聞けて嬉しかったです。それでは」
彼はベレー帽を被り直し、街へ繰り出していきました。その背を見送り、今からは、ネールさんと絶景巡りです。どうやら、この街の周りには絶景が見られるスポットがたくさんあるそうなので、船を待つ間はそれらを見て回るつもりです。
「ヴァイオレットさん、どこから行きます?」
「うーん、そうですね……では、『フローライト海岸洞窟』から行きましょう」
「了解ですっ!」
この街は、東側が海に面しており、港の場所を除き、南北方向に広い砂浜が広がっています。その周辺の自然環境は内陸の方では見られない、変わったものばかりなのです。フローライト海岸洞窟もその一つで、他にも星屑の浜、風穴岩洞窟など、主に砂や鉱石に関連した場所が多いです。どこも絶景、もしくは他にない綺麗な石なんかがあるそうなので、旅人として、行ってみない手はありません。
小一時間ほど歩き、フローライト海岸洞窟へやってきました。初めて歩く砂浜に時々足を取られつつも、何とかたどり着くことが出来ました。服についた砂を払いながら、洞窟に足を踏み入れます。
「砂の地面は歩きにくくて苦手です……」
「そうですか? ネールは結構楽しかったですよ!」
ネールさんは、メイド服のまま、軽快にぴょんぴょん跳ね回っていました。元気なのはいいですが、砂をこちらに飛ばすのはやめてください。日差しの強い外とは違って、洞窟の付近はとても涼しい風が吹いていました。
「それにしても、綺麗ですね」
フローライト海岸洞窟は、その名の通り、淡く光る天然のフローライトが洞窟内を照らしています。青い光が、壁や海水に反射して綺麗です。この洞窟はそんなに長くはないのですが、最奥には絶景が待っているそう。はやる気持ちのまま、やや早足に洞窟を進んでいきました。
洞窟内を進むに連れて、フローライトの数が増えている気がします。壁からは巨大な原石がせりだしていたり、天井から一面が青い光を放っている箇所もありました。もしかすると、最奥は壁一面のフローライト、とかでしょうか。また、海岸洞窟ということもあって、海水が入ってきている場所もありました。穴の先はきっと、海へと続いているのでしょう。
そしてついに。私たちは最奥へとやってきました。
「わぁ……」
「何ですかこれ!? 床も光ってますよ!」
私の語彙力では表現が難しい。それほど目を奪われる光景でした。
洞窟の最奥は、ドーム状の一つの広い空間でした。円形の天井には、数えきれないほどのフローライト鉱石。その一つ一つが光を放ち、幻想的な景色を生み出しています。そして、海水が侵食してきたのか、床一面が浅瀬になっており、水面に天井の景色が映っているのです。中央に立てば、見回す限りのフローライト。上にも、下にも。これはまさに、絶景と言うに相応しいと思いました。
「……帰りましょうか」
「……そうですね」
二人して深い感動を覚えながら、海岸洞窟を後にするのでした。




