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旅は道連れ

今回はいつもの1.5倍近い分量でお送りします。

 その日の夜。


 買い出しから戻ると、ちょうど夕食の順が回ってきていました。皿洗いの仕事は、カミラさんが肩代わりしてくれたそうで、なんだか申し訳ありませんでした。私の買ってきた食材は、明日のディナー用だったそうです。


「いただきます」


 今日の献立はも昨日と同じ根菜類のスープに少量の豚肉。今日のスープ、なんだか変な味がします。分量でも間違えたのでしょうか? あ、豚肉は柔らかくて美味しかったです。


 残っていた仕事をパパパっと片付け、今日は寝ようかと思っていた時。不意に部屋のドアがノックされました。


「……失礼します、メイド長のカミラです。カール様が貴女を私室にお呼びとのことで、言伝に参りました」

「え? ……分かりました。すぐに出ます」


 カールからの呼び出し。それに私室。何だか嫌な予感がしますが、特に心当たりはありません。せいぜい正規雇用の話くらいですが、それは昼間に一度区切りをつけたはず。うーん、ここで頭を捻っても仕方ありませんし、取り敢えず向かいましょう。 ……気は進みませんが。


 警戒するに越したことは無いので、一応アイラがいない方のポケットにさっきの解毒薬を入れておきます。使わないに越したことは無いんですけどね。


 メイドさんに聞いて見つけてカールの私室。昼間と同じように、ドアをノックします。


 コン、コン、コン。


「お、やっと来たか。ヴァイオレットちゃんだろ? 入ってきていいぞ」

「……失礼します」


 部屋へ入ると、そこにはネールさんの姿もありました。フードは外されており、血の色の薄い肌でした。また、猫のような耳が生えているのが見えました。やはり獣人だったんですね。


 彼の私室は、昼間訪れた仕事部屋とは違い、巨大なベッドが一つ置いてありました。その存在感は凄まじく、とても一人が使うものとは思えないサイズです。


「何の御用でしょうか」

「なに、彼女を紹介しようと思ってね。紹介するよ、こいつは私の奴隷で、名をネールという。さて。彼女のことだが、口外不要で頼むよ。もし外に出かけた時でも、こいつのことを話題に出してはいけない。いいね?」

「はぁ。それはまたどうしてでしょう?」

「こちらにも事情があるのさ。知りたければ正規雇用が必須だ。ネール、ヴァイオレットちゃんにお茶を注げ」

「……はい」


 また正規雇用、ですか。どうしてでも私を引き止めたいらしいですね。理由はわかりませんが。特に目立った成果を上げた覚えもないんですけどね。


「……どうぞ」

「ありがとうございます」


 ネールさんからお茶を頂き、一口啜り━━


「……ッ!? 何ですか、これ。身体が、熱い……!」


 お茶を口にした途端、全身が焼けるように熱くなり、足に力が入らなくなりました。息も絶え絶えになっていると、カールは歪んだ笑みをこちらに向けました。


「アーハッハッハ、馬鹿め! お前が飲んだその茶は超強力な媚薬入りだ。今日からヴァイオレットちゃんも私の奴隷なんだよ。気の強い女を媚薬で服従させるのは最っ高だなぁ!」

「こんの……クズが……!」

「アハハ、強気で居られるのも今のうちさ。これから存分、ベッドの上で可愛がってあげるからね」

「あ……い、嫌……」


 カールは立ち上がれない私の身体を抱きかかえ、巨大なベッドへ下ろしました。魔法で抵抗しようとしますが、媚薬のせいか上手く魔法を組めません。奴が自身のズボンのネールトを緩め始めたのを見て、私は絶望しました。あぁ、もう私は駄目だ、と。


 私が諦めかけたその時、アイラがポケットの中から飛び出して、カールの指に噛みつきました。


「痛っ!? な、何だコイツは! 盛り上がってるところを邪魔しやがって!」

「キュ、キュキュ!」


 アイラが飛び出した衝撃で、同じくポケットに入っていた解毒薬の瓶が出てきました。私はここぞとばかりの解毒薬を飲み干すと、全身を支配していた焼けるような感覚は消え去り、普段通りの感覚が戻ってきました。


「い、痛い、痛いっつってんだろ!」

「キュッー!」


 カールは未だアイラに噛みつかれたまま振り解けないでいました。自由になった私は、即座に氷魔法で奴を凍らせます。もちろん、アイラが離れた後です。


 アイラは私の腕に乗ってきました。こんな小さい身体でカールに抵抗してくれたのです。私はアイラを抱きしめて感謝を伝えました。


「アイラ、ありがとうございます。お陰で助かりました」

「キュ♪」


 アイラは一声鳴いて、私の指を甘噛みしてくれました。あぁ、癒されます。今日はアイラが普段より愛おしく感じました。


「それにしても、この解毒薬を本当に使うことになるとは思いませんでした。ジャックさんは一体何者なんでしょうか……」


 まるでこうなることを予測していたかのように必要なものを与えてくれました。これが無ければ私は……いえ。考えるのはやめましょう。今はこのクズを憲兵に突き出すのが先ですね。



 私は王都の騎士団を訪ね、襲われそうになったと言って通報。騎士団の調査の結果、証拠がゴロゴロ出てきたそう。今まで口封じをされていたメイドさんたちの証言もあって、カール=バゲージは即牢獄行きになったそう。いっそ死刑でも構いませんが、生きて罪を償ってもらわなければなりません。これくらいの制裁は当たり前ですね。


 仕事を失ったメイドさんたちは、心優しい貴族の方々が雇ってくれたそう。彼女らは仕事の手際もよく、腕のいいメイドとして評判がいいそう。元雇い主の評判は地に落ちましたけどね。


「これで一件落着ですね」


 今、私の懐はかなり潤っています。カール=バゲージの持っていた財産は、被害を受けたメイドたちに分配されることになり、解決に手を貸した私もかなりの額を受けとりました。これでまた、しばらく旅が続けられそうです。


 王都には他にこれと行った目的も無かったのでそろそろ出ようかと思っていると、控えめな力で服の裾を引っ張られました。


「ヴァイオレットさん、ヴァイオレットさん!」

「……? ごめんなさい、どちら様でしょう?」

「え、酷いですよ! ネールです。カール様から救って頂いた、獣人のメイドですよ!」

「えぇ!? ネールさん!?」


 私が驚いたのも仕方がないと思います。私の目の前にいるネールさんは、シルクのように滑らかな銀髪で、可愛らしいポニーテールが揺れています。頭の上にはピンと伸びた猫耳。全身のアザも消え、頬にも赤みが差しています。前とは違い、レース多めの可愛らしいメイド服で、スカートの後ろには尻尾がゆらゆらしています。


 そして何より、雰囲気が違います。前はもっと、無口で暗い印象だったのですが、今となってはどうでしょう。天真爛漫で人懐っこい笑みを浮かべています。人ってこんなに変わるもんなんですかね。


「はい! 貰ったお金でお薬を買って、お風呂に入って、服を整えて……ネールは変わりました! というか、こっちが素のネールです!」

「……つまり、あのクズに虐げられて心が暗くなっていた、と」

「その通りです。あのクズのせいで心が折れかけていましたが、ヴァイオレットさんのお陰で昔の自分を取り戻せました」


 ふむ。私の預かり知らぬところで、私はネールさんの精神さえも修復していたうおうです。そこまでのつもりは無かったですが、結果オーライですね。というか、一人称ネールなんですね。


「そして、ネールはヴァイオレットさんの旅路に同行したくてやってきたのです!」

「えぇ!? 私は構いませんが、急にどうしたんですか?」

「もちろん、尊敬するヴァイオレットさんにメイドとして尽くす為です! それに、お側にいればまたカッコいいところが見られるかもしれませんから!」


 尊敬する、カッコいい……なんだか照れますね。断っても勝手についてきそうな勢いです。


「付いてくるのは構いません。ですが、荷物はどこですか? 準備がないと旅には連れて行けませんよ?」

「大丈夫です! そこら辺は抜かりありません。ネールは有能なので『アイテムボックス』が使えるんですよ!」

「本当ですか!? つまり、荷物もその中に?」


 『アイテムボックス』は、空間魔法の一種で、中級魔法です。持ち物をほぼ無限に仕舞うことができ、食べ物などでも、半永久的に保存が効きます。旅人である私からすると、喉から手が出るほど欲しいものなのです。


「はい。ですから、ヴァイオレットさんの荷物も一緒にお持ちできますよ!」

「是非お願いします」


 私の荷物が亜空間に消えていく様は、見ていたなんだか不思議な気分でした。カバンがなくなって、肩がとっても軽いです。


「では、改めてよろしくお願いしますね、ネールさん」

「はい! 旅は道連れ世は情け。ヴァイオレットさんにとって心強いメイドになれるように頑張ります!」


 こうして、私の旅路に新たな仲間が加わったのでした。彼女との旅は、きっと明るく楽しいものになるでしょうね。

第五章も終わりです。ちょっと名前決めで事故ってましたが、無事終わったということで。

第六章も鋭意執筆中なので明日からもよろしくお願いします。

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