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白と黒の仮面

 あのクズを潰すと誓ったものの、まずはドアの向こうで怯える彼女を助けなければなりません。私は部屋のドアをノックします。


 コン、コン、コン。


「お忙しいところ失礼します。一時使用人のヴァイオレットです。正規雇用について少し話したいことがございまして。お時間よろしいでしょうか?」

「お、気が強そうなのに童顔で可愛いあの子じゃん。胸の栄養が少し残念だけど。おいネール、お前は隠れてろ」


 ……聞こえてますよ。誰が童顔ですか、誰が胸の栄養が残念ですか! こんな奴に正規雇用なんて微塵も考えてはいませんが、横槍を入れる理由が思いつかなかったので仕方ありません。


「よし、入っていいぞ」

「……失礼します」


 部屋は意外にも普通……のように見えますが、視界の端々にはいかがわしい事をするための物と思われる道具が映っていました。気分が悪いのでそんなもの見せないで欲しいです。


「正規雇用に関する話、だったかな。取り敢えずこちらへ来て座りたまえ」

「はい、失礼します」

「それで、ヴァイオレットちゃん。君は正規雇用を考えてくれてるのかい?」

「まぁ……はい。給金や時間帯など、詳しくお伺いしようと思いまして」

「そんなにお堅くなんないでいいよ? 俺は気にしないからさ」

「……いえ、主人とメイドという立場ですので。礼儀は弁えねばなりません」


 ヴァイオレットちゃんとか呼ばないで貰えます? 気持ち悪いですし下心が丸見えです。あと臭くて最低でクズです。あぁ、さっさと出たいです……


 その後は適当に正規雇用の条件なんかを聞き、これまた適当に相槌を返しながらやり過ごしました。ちょっとカマをかけてみても良いでしょうか。


「君なら特に待遇も良くできるから、是非正規雇用を考えておいてね」

「えぇ。後でじっくりと考えさせて頂きます」


 話を終え、私は部屋を出ました。取り敢えず昼食の直前までは時間を稼いだので、一旦彼女が解放されると良いのですが……


 私は仕事へ戻りました。昼食の後、ネールさんの姿を見かけたので、一度解放されたようでよかったです。しかし、これではまだ何も解決していません。奴を潰す作戦を練らなければ。


-------


 今は夕食前。空が美しいオレンジ色に染まる頃。手の空いていた私は買い出しを命じられ、食材等を買いに、街へ繰り出していました。


「わぁ、この時間でもまだ賑わってるんですね」


 夕方の市場は未だ活気も衰えず。残り物を売るためのセールを行なっているようです。ついでに、私用な買い物も済ませちゃいましょうか。


 私は、取り敢えず命じられた物と、欲しかった物を買い、今は屋敷に戻る途中です。人が多く混んでいますし、ちょっと裏路地の方に抜けましょうか。


 私は人通りのかなり少ない路地へ入りました。この先は中央の冒険者ギルドなどがある通りに繋がっているはずです。ちなみに、服装はいつもの服です。許可が降りたので。しばらく歩いていると、不意に誰かに話しかけられました。


「そこゆく旅人の少女よ、貴様の運命を占ってしんぜよう!」

「……」


 ああいうのは完全無視に限ります。黒いタキシードに白黒の仮面。端々に見える髪の毛は私と同じで淡い紫色でした。だからと言って止まる理由は無いですし、その服装で占いとは、怪しさMaxです。目の前を素通りしようとすると、慌てたようにまた話しかけられました。


「あ、ちょ、待て! 旅する美少女ヴァイオレットよ!」

「はい、旅する美少女ヴァイオレットに何か御用ですか?」

「……なんという変わり身の速さ。呼び止めた私もドン引きである」

「うるさいですね。人を呼び止めておいてなんなんですか! そもそも何で私の名前を知ってるんですか!」


 一体何者なのでしょう。私の引き止め方や名前までも知っている……もしかして。


「……もしかして、ストーカーですか?  ごめんなさいそういうのちょっと無理です。控えめに言って気持ち悪いですし。あ、騎士団に突き出しますね」

「おい、何で私がストーカーで、しかも勝手にフラれた感じになっておるのだ。私はお前を手助けしにやってきたというのに」


 これまた怪しさMaxですね。手助けとか言って、どうせ高額な壺とか買わせるのでしょう。まったく、悪質な手口ですよね。


「で、手助けって具体的に何をするつもりなんですか? そもそもあなたは何者ですか?」

「よくぞ聞いてくれた! 手助けについてだが、お前。下賎な貴族に囚われし哀れな獣人を救わんと動いているだろう? その計画を成功させるために、まずはこれをやろう」


 そう言って彼が手渡してきたのは、瓶に入った薬でした。


「面倒なので、なぜ私の計画を知っているのかなんてツッコみませんが、なぜ解毒薬なのですか?」

「持っておけ。必ず使うべき時が訪れるだろう」


 もしかすると、ネールさんが毒に侵されるとか……? そう考えると恐ろしいですが、誰かが解毒薬が必要になる場面があるのでしょう。どこか、この彼のことは信じていい気がするのは何故でしょうか。


「それで私が何者か、という質問だったな。悪いが今は答えられない。だが、敢えてこう名乗っておこう。私の名はジャック=カンパニューラ、何でも屋だ。ジャックと呼びたまえ」

「……ジャックさん、ですか。何でも屋とはまた変わった職業ですね。さっき言ってた占いも嗜んでるってことですね?」

「いや、あれはお前を引き止めんとするための宣伝文句に過ぎん。似たようなことはできるがな。そろそろ時間だ。いずれまた会おう。計画の成功を祈るよ。ハーハッハッハ!」

「ちょ、どこへ……って、あれ?」


 高笑いをあげた彼が背を向けて歩き出したかと思えば、彼の姿は溶けるようにして見えなくなってしまいました。手元に残ったのは、さっきの解毒薬だけ。


「はぁ、一体なんだったんでしょうか……?」


 奇妙な仮面の男、ジャックは一体何者なのでしょう。なんとなく疲れてしまった私は、深く考えるのをやめ、足早に屋敷へ向かうのでした。

ジャック=カンパニューラ、一体何者なんでしょうか……

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