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文通都市

第二話!

外の世界へ羽ばたきます

 歩くこと数時間。ようやく長い長い森を抜け、草原に出ました。全身で風を堪能しながら、小道を行きます。


 見渡す限り続く草原。道も伸びてはいますが、その先には何があるやら。


「うーん、あの村には地図なんか無かったですししょうがないところもあるのですが……」


 旅の第一歩は完全当てずっぽう。なにせ、あの村から出たことが無かったので、周辺にある街なんて何にも知らないんです。


「しかし……こんなにゆったりとした気持ちになれたのは、何年ぶりでしょうか」


 髪色が紫というだけで虐げられてきた、今までの惨めな私とは違って、今はこんなにも晴れやかな気分なのです。自分から水を差すようなまねはすべきではないでしょう。ほら、日差しがとても暖かいです。


「どうせ長い旅路なんですし、気楽に行きましょう」


 それから私は、綺麗な花畑に寝転がったり、美味しそうな木の実を食べてみたら背筋が伸びるほどすっぱかったり、飛んでいた蝶をお花で釣ってみたり、と脇道に逸れつつも、道中を満喫しました。


「お、見えてきました!」


 なだらかな丘を越えた先に、城壁に囲まれた街が見えました。


「他の街……本でしか読んだことないですが、実際に見るとやっぱりすごい……」


 百聞は一見にしかず。本で何度も読んだ世界よりも、実際に見た世界の方が100倍興味深いです。


「早速、行ってみましょう!」


 逸る気持ちを抑えつつ、小走りで城壁の入り口を目指しました。


「はい、止まってください」


 と、いきなり衛兵の方に呼び止められてしまいました。無視して通ろうとしたんですから、そりゃ当然ですよね。大人しく話を聞くことにします。


「はい、止まりました」

「身分証明書と入国理由をお願いします」

「ええっと、私、ゼタの村出身なのですが……身分証明書を持っていないので、どこかで作ろうかと思い、ここを訪れました」


 あの村はゼタの村というのですが、何でも過去に現れた魔族を倒した勇者様の名前なのだそう。正直、何の興味も湧きませんね。


「ゼタの村の出身なんですか?」

「はい、そうですけど……?」

「それは大変でしたね。あなたの紫色の髪はとても綺麗ですが、あの村では忌むべき色だったはずです。とても酷い扱いを受けていたことでしょう……」


 話す途中で衛兵さんの私を見る目が同情の視線に変わっていました。今までの自分の境遇を振り返ると、なるほど。同情されても仕方ないような暮らしですね。


「どうかこの文通都市『ヒュプノス』で、ゆっくりして行って下さいね」

「はい、ぜひそうさせて頂きます」

「じゃ、もう通っても大丈夫ですよ。身分証明書、作るのをお忘れなく」

「ありがとうございます。では失礼しますね」


 私は、優しい衛兵さんにペコリと頭を下げ、城門へ歩を進めました。街の名前も知れましたし、あの衛兵さんには感謝しなきゃですね。


 私はこうして、『ヒュプノス』へを訪れることになりました。初めての街に、私の心はウキウキ最高潮です!


 すると、先ほどの衛兵さんが、何か思い出したように振り返って声を掛けてきました。


「あ、そうそう。満月堂、ってところのクリームパンが有名だから、一度食べてみるといいよー!」

「後で寄ってみますー!」


 あの衛兵さんは、意外と世話焼きなのかも知れませんね。満月堂、覚えておきましょう。


 城門を潜り、初めて中の景色を目の当たりにした。


「わぁ……」


 思わず感嘆の声が漏れたのも仕方ないでしょう。まず目に入ったのは、目の前の広場を彩る噴水。こんな物、あの村に暮らしていては一生見れなかったでしょう。他にも、等間隔に並べられたタイルの床、焼きたてのパンを売っている屋台。綺麗に組まれた石造りの家々には、全てに赤く塗られた箱が備え付けられていました。


 一体あの箱は何なのでしょう?


 その場で街の様子に見惚れていると、いつの間にか街の人たちに注目されていました。咳払いをして、すぐさまその場を離れました。大人数に注目されると、案外恥ずかしいものですね。


「それにしても文通都市、ですか」


 文通とはつまり、手紙のことでしょう。街の様子を観察していると、赤い制服のようなものを着た人たちが、家の前にある赤い箱に手紙を入れているようです。


 なるほど、手紙を受け取るための箱だったんですね。それなら、ほとんどの家についているのも納得です。


 何がともあれ、初めての街ですし、楽しまなきゃ損です!



「と、意気込んだのはいいんですが……」


 しばらく歩いた後、私は呆然と立ち尽くしていました。何故かって? 迷子だからですよ。


「私としたことが、完全にノープランでした……」


 私としたことがも何も、村を飛び出した時点でノープランだったので、今更ですね。


 私は今、よくわからない路地の中で往生しています。どうしてここに入ってしまったのかは永遠の謎です。


「とりあえずここから出て、大人しく道を聞きましょうか」


 と歩き始めたものの、路地の中を迷う迷う。結局、路地を抜け出すことは叶いませんでした。


 ここまで来ると才能なのでしょうか。こんな才能は要りませんよ……私は一人、悶々とするのでした。


「おや? おーい、お嬢さーん!」


 そんな私に声をかけてくれたのは、赤い制服がよく似合う、茶髪の青年でした。


「へ? どうしてこんなところに人が?」

「それはこっちのセリフですよ。お嬢さん、こんなところで何をしてるんですか?」

「いえ、道に迷ってしまったもので……」

「なるほど。ということは旅人さんか。僕はセイル。郵便配達員さ。ここは届け先への近道だから通ったんだけど、まさか誰かに出会うなんてね」


 どうやら彼は通りすがりの郵便配達員みたいです。配達員さんならば街の地理にも詳しいでしょうし、案内を頼みたいところです。


「私はヴァイオレット。旅人です。この街に来たばかりで何もわからないので……もしよければ、街の案内をしてくださいませんか?」

「おーけー、任せて。僕はセイル。この後お昼休憩だから、その時に。だから、先にこの手紙を届けさせて。すぐそこだからさ」

「分かりました。ついて行きます」


 セイルさんについていくと、すぐに路地を抜けることができました。その後程なくして目的の家へ到着。ポストの中へ手紙を入れています。


 どうやら、ここはどこか貴族様の邸宅のようですね。煌びやかといえば聞こえがいいですが、正直、ゴテゴテしていて趣味が悪いなと思いました。口には出しませんけど。


 貴族の屋敷から離れ、最初に来た広場に戻った私は、セイルさんに街を案内してもらうことにしました。


 旅に出て早速ですが、色んな人に頼りっぱなしですね。私は思わず苦笑いが溢れました。

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